第83話 風呂に入るなら服は脱ぎましょう
「はぁ~、疲れた」
宿のベッドにうつ伏せに倒れこみながら、愚痴を漏らす。
倒れこんだ布団からは、お日様のいい香りが漂ってくる。
宿屋のおやじが日干ししてくれていたのだろう。
……良い匂いだ。
お日様の香りに包まれると、体から一気に疲労が抜けていく気がする。
今日は本当に疲れていたので、この癒し効果は非常に有り難い。
――王墓40階層攻略。
それが今日の成果だ。
40階層には30階層と同じくエリアボスが存在しており、今日のこの疲れはそいつとの戦闘の為だった。
ヘルスティンガー
40層のエリアボスで、サソリの様な見た目の魔物だ。
もっとも手のひらサイズの通常のサソリとは違い、奴のサイズはゆうに像三頭分位あったが。
当然、その処理を彩音に丸投げにしようとした訳だが。
「レベル的にも実践訓練に丁度いい相手だ。たかし、お前が相手をしろ」
この一言のお陰、で俺はヘルスティンガーと
お陰でへとへとだ。
「クッソ疲れた。ちょっと気持ち悪いけど、このまま寝るか」
飯をどうしようかと一瞬考えたが、億劫だったのでそのまま目を瞑る。
微睡みの中、意識が溶けていきそうになりかけたその時、バーンという大きな音が意識を現実へと引き戻す。
音に驚き顔を上げると部屋の扉が開け放たれており、そこに仁王立ちの彩音がいた。
どうやら今の音は、脳筋が扉を勢いよく開け放った際の音の様だ。
こいつ宿屋を壊す気か?
「はぁ……」
彩音の姿を確認し、ドアのカギを閉め忘れた事を後悔する。
正直疲れきっていて。今彩音の相手をする気には到底なれない。
「たかし!風呂に行くぞ!」
「俺は別にいいよ」
彩音の力強い声に、億劫に断りの返事を返す。
風呂なんざ一人で勝手にいけ。
「たかしは今日頑張ったからな。背中を流してやる」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ!?
彩音の唐突な申し出に驚いていると、首根っこを掴まれ部屋から引きずり出されてしまった。
そしてそのまま俺は風呂場へと連れていかれる。
その際、向かいの部屋から此方の様子を伺っていたフラムと目が合った。
口元を押さえていたその顔は、特上の笑顔だったのは言うまでもないだろう。
脱衣所の床に勢いよく放り出した俺を、彩音は素早く剥いていく。
余りのスピードと手際の良さに、抵抗する間もなく全裸に。
その間約三秒。
「なにしやがる!?」
「風呂に入るのだから、服を脱ぐのは当たり前だろう?」
言ってる事は至極まっとうだが、状況的には明かにおかしい返答が返ってくる。
相変わらずの脳筋っぷりだ。
馬鹿な返答に呆れていると、再び首根っこを掴まれ今度は風呂場の椅子に座らされた。
惚れ惚れする程の力技に、抵抗は無駄と俺は悟る。
成すがままにお湯をぶっかけられ、背中の皮がはがされそうな勢いで高速に擦りつけられるタオルに必死で耐えた。
背中が熱い、生き地獄だ。
ていうかお前は服ぬがねぇのかよ!
こんなひどい目に遭っているのだから、裸位見せてくれても罰は当たらないだろうに。
世の中理不尽だ。
「どうだ?疲れは取れそうか?」
「とれるか!!」
「む?まだ擦り足りないか?」
「すいません。疲れは吹っ飛びました」
これ以上擦られたら、冗談抜きで背中の皮がはがれてしまう。
「そうか。なら良かった」
振り返ると、彩音が満面の笑みで嬉しそうにしているのが目に入った。
どうやら一連の行動は嫌がらせではなく、善意からの物だった様だ。
なるほど……これが小さな親切、超絶大きなお世話って奴か。
「ていうか、何でいきなり背中を流そうなんて思ったんだ?」
「ん?ああ。フラムの奴がたかしが疲れているみたいだから、風呂で背中でも流してやれと」
あんの糞アマァァァァァァァァァ!!
彩音の奇妙な行動は、フラムの差し金だったようだ。
途中で見たフラムの笑顔を思い出す。
絶対復讐してやるから覚えとけよ!!
今日この日、俺の人生に目標がまた一つ増える事となる。
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