第82話 極大召喚

極大召喚


三つの召喚枠と、自身の全てのMPを消費して呼び出す召喚魔法。

呼び出せるのは最強モンスターたるドラゴンだ。

その強さは、召喚時に消費したMPがそのままレベルへと反映される。


現在俺の最大MPは260。

この状態で極大召喚を行えば、召喚強化の影響も併せて呼び出されるドラゴンのレベルは320になる。


まあ仮契約サモンフレンド遠距離通話スマホでMPを消費する事から、最大レベルで呼び出すにはパーやフラムにMPを回復してもらう必要があるが。


「凄いですね……ドラゴンを呼び出すなんて」

「えへへ、すごいでしょ!」


視界を覆いつくさんばかりの、山の様な巨大な白いドラゴン。

そんな巨龍を前にし、フラムが感嘆の声を漏らす。

そんな彼女の驚きの声に、何故かリンが自慢気に答えた。


呼び出したのは俺なんだが。なんでリンが自慢げに答えるんだ?


37層を抜け38層迄来たは良いが、38層は溶岩地帯だった。


流石に溶岩地帯を歩いて探索するのはきつい。

そこで俺はゴブリン達を戻し、新たに習得していた極大召喚でドラゴンを召喚している。

ドラゴンの背に乗って探索する為に。


幸い天井は高く、ドラゴンが飛行するにも問題なかった。


「まさかドラゴン迄呼び出せる様になるなんて、初めて会った時からは想像もできない程成長されていますね。流石は彩音さんの幼馴染と言うべきでしょうか。本当に素晴らしいです」


素晴らしい、か。

正直、誰かから素晴らしいなどと声をかけられたのは、生まれて初めての経験だった。

それも相手がティーエさんみたいな綺麗な人に言われると、少し照れ臭く感じてしまう。


別に異性として意識している訳じゃないけど、やっぱ美人に褒められのは嬉しいもんだな。


一つ問題があるとすれば、奴だ。

振り向いてみると案の定、凄い形相でティータが俺を睨みつけていた。


「異世界の人間はほんと、とんでもないねぇ」


パーが異世界という単語を口にする。


彼女は俺や彩音の出自を、既に知っていた。

何故なら、パーは共に戦場を生き抜く戦友だからだ。

戦友に隠し事など不要である。


というのは真っ赤な嘘で。


実はパーに鎌をかけられて、単に俺が口を滑らせただけだったりする。

我ながら本当に口が軽くて困ってしまう。


パーが言うには、この世界にはちょくちょく異世界人がやって来ているそうだ。

様々な書物で異世界の人間についての記述が残されているらしい。


その中でもとくに有名なのは、神聖王国の初代国王だ。

ルグラント三国の元になった神聖王国の始祖であり、明言こそされてはいないが、出自が不明な点やその人知を超えた能力から、異世界人だったのではと推測されている。


魔物退治に呼び出された先で建国とか……ありなのか?


世界全体での魔物の討伐を考えた場合。

人手を纏め、軍隊を編成するのが一番効率がいいのは間違いない。

とはいえ、強大な国を立ち上げるのは流石にやりすぎな気がするのだが……


因みにこの王墓は、その初代が作らせたものだ。


でっかい国作ったり、こんな訳の解らん墓作らせたり。

正にやりたい放題だ。


人間力を手に入れると碌な事をしないというが、その良い見本だな。

まあ蘇生薬の研究をしていてくれた事には感謝するが。


「ふむ、ドラゴンか。少し手合わせしてもいいか?」

「いいわけあるか!」


彩音がドラゴンを前にして「ちょっとぐらい構わんだろう?」と訳の解らん事をほざきだす。

恐らく王墓内で遭遇した魔物では、彼女の戦闘意欲を満足させるには至らなかったのだろう。

終いには、お前とドラゴンの二対一でいいからと言い出す始末。


何が悲しくて、ダンジョン探索中に彩音にボコボコにされにゃならんのだ?


俺は強くなった。

それは間違いない。

が、それでも彩音には遠く及ばないだろう。


と言うか、俺が強くなった様に、彩音も強くなっていた。

ヴラド討伐直後の彩音のレベルは370だ。

最初覗き見サーチでレベルを確認した時、なんてふざけたレベルだと思ったものだ。


そして数日前に合流した際、俺は再び覗き見サーチで彩音のレベルを確認する。

山籠もりでレベルが変動するのか興味があったからだ。


そして出た数値が470……


おかしくね!?

なんで1月足らずで100も上がってんだよ!?


此方もレベルが50上がったとはいえ、同じ期間で此方の倍上がるとか、滅茶苦茶にも程がある。


しかもこっちは70で相手は370。

レベル差的に考えて、必要経験値は下手したら10倍以上変わってくる差だぞ?

にも拘らずだ。


目の前の女は、ほとほと化け物だと痛感させられる。

ノウキンサイキョー。


「今度暇があったら相手するから、いいからさっさと西側探索して来いよ」

「わかった、約束だぞ。ティーエ、悪いがその時はたかしにドラゴンリングを貸してやってくれ」

「わかりました」


ふ、馬鹿め!

只の社交辞令だ!

誰がてめーみてーな化け物と手合わせするか!


嘘も方便。

この言葉を考えた奴は天才だな。


少し楽し気に西側へ向かう彩音を尻目に、俺達もドラゴンの背に乗り込み探索を開始する。

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