第81話 異世界転移はやっぱりチートだった

「化け物だな」


レインが彩音を目にした最初の一言がこれだ。

これは彩音の戦いっぷりを見ての評価ではない。

自己紹介時に、初対面の彩音に言い放った言葉だった。


レインは彩音を一目見ただけで、その圧倒的強さを見抜いてみせたのだ。

その戦いに関する鋭い嗅覚には感心せざるえない。


とは言え、化け物なんて言葉は初対面の女性に掛ける物ではない

なんなら殴られても文句の言えない台詞だ。


だが彩音はそんな言葉に対し、神妙な顔つきで――


「私など、まだまだだ」


ときたもんだ。

これが世に言う、意識高い系女子というやつである。


……違うか。


「どうした?」

「ん、いや。レインが彩音を初対面で化け物呼ばわりしてたのを思い出してただけだ」

「集中しろ、ここに彼女はいない。何かあっても守ってくれんぞ」

「悪い」


こいつ後ろに目でもついてんのだろうか?


先頭を行くレインには此方が見えていないにもかかわらず、俺が少し意識散漫だったのをあっさり見抜かれてしまった。

本当に優れた直感を持つ男だ。


まあ、だからこそ先頭を任せてるわけだが。


俺達は今37層の探索を二手に分かれて行っている。

まあ二手というか、彩音とそれ以外が正解だ。


此方はレインを先頭に、中心にティーエさんとフラムとパー。

その3人を護衛するように、俺・リン・ティータとゴブリンウォーリア3体で取り囲む様な隊列だ。


あの後何度かゴブリン召喚を行ってはいるが、やはりガートゥが姿を現すことは無かった。

召喚されてくるモンスターにそれほど思い入れがあるわけではないが、会話を交わした相手が亡くなるのは、やはりいい気分ではないものだ。


《たかし。ゲートが見つかったぞ》


彩音からの念話が届く。


《わかった。今彩音のいる位置に行けばいいんだな?》

《そうだ》


彩音からの報告を受け、周りのメンバーにそれを伝え彩音の元へと向かう。


遠距離通話スマホ


キング達を倒した事でレベルが上がり、習得したスキルだ。

特定のマーキングした相手と念話ができ、更に相手の位置まで把握できる。

そんな使い勝手のいい便利なスキルだった。


このスキルを使い、俺達は単独行動している彩音と連絡を取り合っている。


因みに、現在の俺のレベルは121だ。

30層での戦いで一気に40以上上がった事になる。


気づいたときは愕然としたもんだ。

どう考えてもゴブリンキングの方が格下だったにも関わらず、ドラゴンやヴラドと戦った時よりも大量の経験値が入っていたからな。


恐らくここまで一気にレベルが上がったのは、経験値ペナルティのせいじゃないかと俺は思っている。

ネットゲーム等でよくあるあれだ。

レベル差の大きい相手と組んで敵を倒すと、レベルの低い方には経験値が殆ど入らない的な。


要は今回の上がり方が異常なのではなく、今までの上がり方が低かったという事だ。

今回は彩音が居なかったため、ペナルティが発生せず経験値が大量に入って来たのだろう。


「しかしまあ、色々と便利なスキルを覚えたもんだねぇ」

「本当です。たかしさんには驚かされてばかりですわ」


パーの言葉に相槌を打つかのように、ティーエさんが俺を褒める。

そうなれば、当然あの男が黙っていない。


「た、確かに便利なスキルではあります。ですが、もう例の切り札的な物は使えないそうではないですか!」


切り札

それはドッペルゲンガーが俺に変身する事で、召喚を強化するスキルが重複するという物だった。


内容的には――


レベルの三分の一の強化をドッペルゲンガー同士が掛け合う事で、馬鹿みたいなレベルになる→支配者の指輪のフィードバック効果を受け、俺が超絶強化される。

といった感じの流れだ。


かなりグレーゾーンっぽいパワーアップだったが――当然リンもその恩恵を受けていた――残念ながら、これはもう使えなくなっている。

俺のレベルが上がりすぎた事で、レベル差によりドッペルゲンガーが俺に変身できなくなってしまった為だ。


それ自体は最初から分かっていた事ではあるが、まさかあの一戦だけで使用不可のレベルに達するとは夢にも思わなかった。


レベル120が変身の限界。

そして今の俺のレベルは121。

もうここまで来ると、運命の悪戯どころか神の介入さえ疑わしく感じるレベルである。


まあ、考え過ぎだろう。

そもそもレベルが大きく上がった事で、今の俺の強さは切り札を使用した状態と遜色ない位にまで上昇しているからな。


流石にリンは切り札を使った時の方が強かったが、今は彩音もいる事を考えると、彼女にそこまでの強さを求める必要も無いが。


「切り札とやらを俺は見ていないが、今のたかしは強いぞ。彩音程ではないにせよ、ここに居る全員でかかって勝てるか分からん程度にはな」

「う……」


レインに反論されて、ティータは言葉を詰まらせる。

その表情には、屈辱の色がありありと浮かんでいた。


二人が顔を合わせてまだ数日しか経っていない。

だがその短い期間ですら、レインがどれ程戦闘に対してストイックであるかを、ティータに理解させるには十分な物だった。

そしてそんなレインの評価に間違いはない。

それが分かるからこそ、ティータは黙るしかなかったのだ。


「く……確かに今は奴の方が上かもしれん。だが、私もこのままで終わるつもりはない!必ず貴様を見返して見せる!」


俺を勢いよく指差し、ティータが力強く宣言する。

何を見返すのかは兎も角、残念ながら強さで俺を抜き返すのはもう絶望的だろう。


召喚士は最初、ハズレだと思っていた。

だがやはり神から授かった力だけはある。

寄生によるパワーレベリングや、SSランクアイテムのチートがあるとはいえ、今の俺の強さは普通の人間に到達できるレベルではもはや無い。


「ティータ!たかしさんに失礼でしょ!」

「す、すいません……」


敬愛する姉に叱られ、ティータはしょんぼりと返事を返す。

そのまましおらしくしてればいいのに、わざわざ此方を睨んでくるあたり本当に学習しない奴だ。


まあなりはデカいが、こいつはまだ15だし仕方ないか。


初めてティータにあった時。

あの時もし決闘していたら、俺は瞬殺されてただろう。

確実に。


実際ティータはこの世界の人間の中では相当強い部類に入る。

だがそんなティータですら、もう俺の敵ではない。


この世界に来てまだたった3ヶ月。


ここまで急激に強くなれたのは、間違いなく彩音のお陰だろう。

もし自分一人だけだったら、未だにコーサス辺りの魔物をチマチマ狩っていたに違いない。

そう考えると、彼女と出会えたのは正に幸運だったと言える。


ほんと、彩音さまさまだ。


≪何がだ?≫


どうやら誤って念話を送ってしまったらしい。


≪気にするな≫

≪待っているのも暇だから、さっさと来い≫

≪わかったよ、すぐ行く≫


迂闊に余計な事を考えずに良かったと胸を撫で下ろしながら。

俺は彩音の元へと急ぐ。

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