第80話 変化
「敵だ。たかし、
先頭を行くレインが素早く敵を察知し、戦闘準備を促す。
一時的に仲間を召喚扱いにできるスキルだ。
召喚扱いになると専用の回復魔法は勿論の事、召喚強化のスキルでの基礎強化も適応される事になる。
流石にこの強化には
此方へと襲い掛かってくるサイクロプス。その数およそ十二匹。
レインはまるで舞を舞うかの様な華麗な動きで、敵を次々と斬り伏せていく。
殲滅。
それも30秒とかからずに。
レイン一人の手で。
以前のレインならば、格下相手に強化を自ら求めたりはしなかっただろう。
今の彼に戦いを楽しむ様子はない。
30層でのゴブリンキング達との戦い……レインはあの戦いを生き延びた。
流石レインと言いたいところだが、実際はゴブリン達が俺に逃げられた腹いせに、彼を殺さずいたぶってくれたお陰だった。
酷い目に遭わされてお陰も何もあったものでは無いが、結果的にそれがレインの命を救ったのも事実。
レインは九死に一生を得た。
だがガートゥは死に。
そしてニカも助からなかった。
ガートゥはキングとの戦いで戦死していた。
その最後は、傍にいたレインが目撃している。
そしてニカは、戦場となった場所から少し離れた所で事切れていた。
背中に大きな傷があったので、間違いなくそれが死因だろう。
ゴブリンは遠く離れた仲間の血の臭いすら嗅ぎ分ける強力な嗅覚を持っている。
そのため、姿を隠すだけでは不十分だったのだ。
――「僕のせいだ……すまない……」――
ニカの亡骸を前に、パーは何度もすまないと謝罪を繰り返していた。
自分の判断ミスだと……
決して彼女だけの責ではない。
その事は彼女だって理解している。
だがそれでも――
「確かに僕だけのせいだとは思わないよ。でも、僕がミスしたのは変えようのない事実だ。だから彼女を生き返らせて見せる。この天才錬金術師、パマソー・グレンの名に懸けて」
分厚い眼鏡のせいで、その瞳は伺えない。
だが口調やその雰囲気から、彼女の本気の気持ちは十分伝わって来る。
普段からふざけた態度の女性ではあったが、彼女にとっても仲間の死は重い罪業なのだろう。
――まあ普段の態度は相変わらずだが、明かに以前とは纏っている空気が違う。
それが鈍感な俺にも感じ取れた。
そしてそんな彼女の為、レインは必死だった。
これ以上彼女が余計な物を背負わずに済む様にと。
彼が以前の様に戦いを楽しむ事はせず、確実な戦法を選ぶ様になったのはそのためだろう。
「見事だ」
レインの戦いぶりに、ティータが称賛の言葉を贈る。
「たかしやティーエの強化があればこそだ。本来の俺ではああはいかんさ」
「ふん。姉上は兎も角、たかしの強化など大したものでは無いだろう」
明らかに俺の
どうもティータは、俺の事は絶対に認めたくないらしい。
相変わらずの態度に辟易する。
レインも男だというのに、何故か俺だけが悪い虫扱いだ。
やはり好きな相手がいるというのが大きいのかもしれない。
俺は別にティーエさんに特別な感情など抱いていない。
それをきっちり伝えれば、奴の態度も少しはましになるのだろうか?
……ま、無理か。
俺の話、絶対まともに聞かなさそうだし。
「ティータ!たかしさんに失礼ですよ」
ティーエさんが弟を叱りつける。
「う、申し訳ありません。姉上」
「私に謝ってどうするの?たかしさんにでしょ?」
「く……すまない……たかし」
ティーエさんに促され、ティータが嫌々謝罪してくる。
本当に。
びっくりするほど嫌々。
此処まで態度があからさまだと、もはや謝る意味が無いんだが……
「たかしさん。弟の非礼、どうか許してあげてください」
「そんな、気にしてませんよ」
1秒でも早く踏破する為、アルバート兄妹には頭を下げて手伝って貰っているのだ。
ティータの態度は確かに不快だが、こうやって王墓探索を手伝ってもらっている手前、我慢するしかないだろう。
命懸けの探索の対価が嫌味程度なら安いものだ。
とにかく今は一刻でも早く50層へたどり着く為、俺達は先を急ぐ。
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