第79話 タイムリミット

「おはようございます!!」

「お、おう」


元気な挨拶に面食らってしまい、思わず生返事を返してしまう。


声の主であるリンを見る。

その顔に昨日までの悲壮感はもう伺えない。

リンの表情は晴れやかとまでは言わないが、どうやら気持ちを上手く切り替えてくれた様だ。


彼女は席に着くと、注文を伺いに来たウェイトレスへと料理を頼む。

それも大量に。


「お腹すいちゃいました」


無理もない。

彼女はこの三日、碌に食事を口にしていなかったのだから。


あれから三日……あの後のリンの落ち込み用はなかった。


大事な仲間を失う。14歳の子供にはきつい現実だ。

そんな現実に耐えきれず、この三日間彼女は部屋に閉じ籠りがちだった。


フラムには感謝しないとな。


この三日間、彼女はずっとリンの傍に付いていてくれた。

今こうしてリンがある程度気持ちを整理する事が出来ているのも、彼女の功績が大きいと言っていいだろう。


「おはようございます」

「おはよう」


リンより少し遅れて現れたフラムに挨拶を返す。

彼女も席に着くと、手早く注文を済ます。


二人にどう声をかけようかと思案していると、リンが大きな声を上げる。


「たかしさん!あたしパーちゃんを信じます!」

「はい。信じましょうパーちゃんを」


リンに意見を肯定するように、フラムもパーを信じると口にする。


王墓攻略の暁には、蘇生の秘薬で死んだ仲間を生き返らせる。

それが全員一致の見解だった。


死んでも生き返られるならば、落ち込む必要などない?

残念ながらそんな簡単な問題ではない。


事前に古い文献などに目を通しているパーが言うには、秘薬自体完成している可能性は極めて低いらしい。

そのため王墓を制覇しただけでは、蘇生させる事は出来そうになかった。


ここでリン達の、パーを信じるという言葉に繋がる。


未完成なら、完成させればいい。

彼女は俺達にそう言い放ったのだ。

天才である自分が必ず完成させるから、信じて欲しいと。


パーが完成させる。

それ自体は誰も疑ってはいないだろう。


問題はいつ完成するかだ。


蘇生にはある程度完全な状態の肉体が必要になる。

だが、遺体を傷めずに維持し続けるには限度があった。

マジックアイテムや魔法を駆使したとしても、死体を腐敗させずに維持できるのは一年程度が限度だそうだ。


因みに、魔法で凍らせると言うのはダメらしい。

凍結時に細胞全体を大きく傷つけてしまう様だ。


――タイムリミットは約一年。


蘇生は時間との戦いだ。

少しでも急ぐため彩音達を呼び出し、この三日間もフラムとリン以外のメンバーで探索は続けている。


「おはよう」

「おはよう」

「おはようございます」

「彩音さん、おはようございます」


彩音が席に着き、リンに声をかけた。


「リン、もう大丈夫なのか?」

「はい。今日からは私も参加します。休んでる暇なんてないのに、本当にごめんなさい」


あまり無理はするな。

それだけ答えると、彩音は自分の食事を注文する。

それと同時に、大量の料理がテーブルへと運ばれてくる。


「随分と多いな」


その量を見て、彩音が驚く。

こいつも相当食べる方だが、今運ばれてき量はそんな彩音から見ても驚く程の量だ。


「いっぱい食べて……元気になります!そして絶対、絶対に――」


リンが一呼吸おいて声を張る。


「ニカちゃんを生き返えらせるんです!!」

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