第33話 聖なる盾

「このままだと不味そうだね」


パーが旗色が悪くなりつつあるレイン達を見て呟く。

最初こそ勢いよく戦っていたガートゥ達だが、切り倒す度に増えていく厄災の触手の数に少しづつ押され始めていた。


「やっぱりきついか」


その勢いから、ひょっとしたら彼等だけで時間稼ぎ。

それどころか厄災を倒せるのではという思いがあったが、やはりそう簡単には行ってくれない様だ。


「たかし!俺を覚醒させろ!」


ティータが俺の前に立って睨み付けてくる。


「貴様から力を貰うのは癪に障るが、このままでは姉上の身が危険に晒されかねん。さっさと力を寄越せ」


俺から力を貰うのがよっぽど嫌なのか、鋭い目つきが険を増し、ぎりっと歯を食いしばる音が此方にまで聞こえてくる。

嫌がりすぎだろ。


「どんな姿になっても文句は言うなよ」


レインの例がある以上、変な姿に変身する可能性は十分にある。

後で文句を言われても敵わないので先に釘を指しておいた。


「ふ、愚問だな。私の覚醒は姉上を守る盾以外ありえん!さあ、さっさとしろ!」


治療に専念しているティーエさんを優しい眼差しで見つめ、拳を握り締めてティータは宣言する。

相変わらず清々しいまでの変態シスコンっぷりだ。


だが何故だろう。

俺も何となく本人の宣言通り盾になりそうな気がしてならない。

ティータは変態シスコンではあるが、その思いが本物である事を俺は知っている。

だからそんな風に感じるのだろう。


「いくぞ」


俺はティータに仮契約サモンフレンド、召喚ブーストをかけてから覚醒させる。


覚醒を施したティータの体がレインの時の様に輝き、そしてその姿を大きく変える。

奴の宣言通り、盾へと。


4枚の盾が宙に浮いている。

中央に宝玉の嵌った白い大きな盾と、その周りには赤、青、緑の小振りな盾が白い盾を中心にをくるくると回っていた。


ティータ・アルバート

クラス:聖なる盾


盾になるだろうとは思っていたが、まさか四分割とは。

体がバラバラになるってどんな気分なのか少し気になる所だ。


「おー見事な盾になったねぇ」


「当然だ。俺は姉上の盾となるべく生きてきたのだからな!」


レインの時も思ったが、こいつ等どこから声を出しているんだろう?

まあどうでもいいか。


「ティータ。レイン達の援護を頼む」


「貴様に言われるまでも無い!」


紅い盾が上にくいっと上がる。

それを見て。

あ、こいつ中指立てやがったと俺は本能的に察っする。


「姉上!このティータ・アルバートの戦い御照覧あれ!」


そう大声で叫ぶと、白い盾の中央の宝玉が紅く輝き、真っ白な美しい翼が盾の両サイドから生まれる。

その翼が大きく羽ばたくと突風が巻き起こり、俺は思わず顔を背けた。


「はやっ!?」


視線を戻した時、すでに奴の姿は無く。

顔をそむけた一瞬の間でティータはレイン達の元へとたどり着いていた。


白い盾がガートゥに迫る触手を弾き返す。

周りの3つの小さな盾からそれぞれの色に合わせたビームが放たれ、触手を薙ぎ払う。


「やるねぇ」


「これぞ愛の力ですね」


「けど」


「ええ」


ティータが加勢した事で一時的に状況は盛り返した。

だがそれもほんの一瞬の事。

すぐさま厄災はそれに対応するかの様に触手の数を一気に増やし、再びガートゥ達を圧倒し始める。


状況的にそう長く持たない事を察したたフラムとパーは、お互いの眼を見て頷いた。


「花も恥じらう乙女としては、ビーカーやフラスコに変身するのは余り愉快じゃないんだけど。まあ状況的にしょうがないね」


しょうがないと言いつつも、その顔は嬉しそうだ。

花も恥じらう乙女としての感情より、錬金術師としての興味が勝っているのだろう。


「ふふ、私はどんな姿に変身するんでしょう」


フラムの覚醒は何となく予想がつく。

まあ一々口にはしない。

それは野暮って物だ。


「二人とも頼む」


そう口にしてパーに手をかざし。

俺は彼女を覚醒させる。

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