第34話 大賢者

「へぇ。これが僕の覚醒した姿か。てっきりフラスコとかを想像してたんだけど、普通に人間のままだねぇ」


パーが自分の姿を繁々と確認する。

その声はさっきまでより1オクターブ程低い。


「パーちゃん、凄く綺麗ですよ!」


「そうかい?言われてみると少し胸のボリュームが上がってるかな?」


パーが自分の胸元を両手で揉みしだく。

ボインボインという音が、今にも聞こえてきそうなボリュームだ。


明かに、少しってレベルじゃない程の胸の増量。

背も伸びて手足も長くなっている。

だがそれ以外は大きな変化は感じられない。

普通の人間のままだ。


パーマソー・グレン

クラス:大賢者


「ま、レイン君達も苦戦してるようだし。さっさと手伝いに行ってあげるとしよう」


パーが小さく何かを呟くと、彼女の周りを魔法陣が生まれ、そこからあふれた光が彼女を包み込む。

そしてその光がはじけた瞬間、パーの姿が消える。


「転移魔法か!?」


俺の場合、召喚系しか転移魔法は阻害されて使えない。

なのに当たり前のようにパーが転移魔法でガートゥ達の上空へと移動した事に、思わず声を上げてしまった。


パーはガートゥの上空に浮かび、右手を天に向けてかざす。

彼女が人差し指を立てて指でくるりと円を描くと、そこに魔法陣が描かれ、巨大な火球を生み出された。


パーが親指と中指でパチンと指を鳴らす。

次の瞬間火球は弾け、無数の炎の刃が厄災とその触手へと降り注いだ。


「すげぇ!あれだけの数の触手を一瞬で全部焼き払いやがった」


大賢者の称号クラスは伊達じゃない。

その大火力に感嘆の声が漏れる。

正直元々が余り戦闘向けではないクラスだったので、それほど戦闘力には期待していなかったのだが、嬉しい誤算だ。


宙に浮いていたパーがガートゥの横に降り立ち、腰に付けてある魔法の棍棒を手に取る。

彼女がそれをくるりと一回転させると、棍棒の長さが50センチ程度から2メートル弱にまで伸びた。


「何で武器なんか手にしたんだ?」


解せない。

賢者なのだから、魔法をぶっぱし続ければいい物を。


「多分さっきみたいな強力な魔法は連発出来ないんだと思います。あれだけ強力だとMPの消費が相当なはずですから」


MPの問題か。

フラムに言われて魔法使いの弱点を思い出す。


後衛職は、常にMPの残量に気を付けながら戦わなければならない。

俺も基本後衛職であるためこの点は同じだ。

倒されたガーゴイル達の代わりを召喚していないのも、その為だった。


「たかしさん!早く私にも覚醒を!」


「わかった!」


フラムの声に頷き、右手を彼女へとかざす。

下準備の補助魔法をかけ、俺はフラムを覚醒させる。

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