第47話 空飛ぶウェディングドレス
「はぁ……」
ぽっかりと大地へと大きく口を開いた巨大な穴を見て、溜息をもらす。
この穴は先程まで神樹の立っていた辺りに出来たものだ。
何故?
誰が?
それは考える必要はなかった。
理由は明白だった。
ヴラドが神樹を呪い、彩音さんが他の木に影響が出る前に吹き飛ばしたのだ。
本当に考えるまでもなく、至ってシンプルな答えが私の頭の中で導き出される。
「ティーエさん!底の方に人が3人います!ここからだと良く見えませんけど、たぶん彩音さんとリンちゃんと……あれはミノタウロスさんかな?」
フラムからの報告を受け縦穴を覗き込むが、残念ながら人間の視力では底まで見通す事は出来ない。
エルフという種の目の良さには感心させられる。
「ヴラドやたかしさんの姿は見当たらないんですか?」
「あ、はい。3人だけです」
何故かフラムはミノタウロスを人で数える。
ミノタウロスに何か思い入れでもあるのだろうか?
まあどうでもいい事ではあるが。
しかし……ヴラドは彩音さんが倒したとして、なぜ彼が居ないのか?
まさか死んでしまった?
いや、たとえ死んだとしても遺体ぐらいは残っているはずだ。
まあここでいくら考えても答えなどでない。
「上から眺めていても仕方ありませんし、下へ降りましょう」
そう提案しティータ、フラム、そして自分の順に
これは翼をはやす飛行用の魔法だ。
「わ!なんか背中から翼が生えてきましたよ!」
「その翼で空を自由に飛ぶ事が出来ます。少々コントロールは難しいですが」
凄い凄いと騒ぎながら、フラムが当たり前の様に翼で空をスイスイと飛び回る。
人間には飛行能力が無い為、たとえ翼が生えても簡単に飛び回る事など出来ない……のだが、フラムはまるで生まれた時から翼が生えていたかの様に自在に操っていた。
この事からもフラムの適応能力の高さが伺える。
言動や服装に難があるけど、やっぱりこの人も優秀よね。
ドラゴン討伐後、彼女に引き続きパーティーに所属するよう打診したのは私だった。諸々のマイナス部分を差っ引いても、使えると判断したからだ。
しかし……フラムさんもハーフとは言え、この森出身のエルフの割に全然元気そうね。
エルフにとって神樹は信仰の対象だ。
その神樹が消し飛んだ事で落ち込むのではないかと少し心配していたのが、全くの杞憂だったようだ。
「姉上!安全を確認する為に私が先に参ります!!」
「ええ、お願いね。」
「お任せください!」
私の返事を聞くや否やティータが勢いよく穴に飛び込んだ。
が、威勢のいい言葉とは裏腹に翼がうまく扱えないのか、ふらふらと不安定に危なっかしく降りていく。
ティータも優秀なんだけど、若干不器用な点が問題よね……
ティータの危なっかしい様子から、安全確認を任すのに不安を感じたので自分も飛び込む。
落下しながら上を見ると、フラムがまだ楽しそうに上空を旋回していた。
その姿が思ったより幻想的で、思わず見惚れてしまう。
月とウェディングドレスって、結構会うわね……
私もちょっと着てみたい。
不覚にもそんな気持ちにさせられてしまった。
一生の不覚ってのは、こういう事を言うのかしら?
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