第32話 追跡
エルフは自然を愛し、森と共に生きる種族。
彼等は森での活動を得意としており、障害物だらけの森の中でもまるで平地の様にやすやすと駆ける。
そのためエルフを森で追いかけるなど、人間には至難の業だった。
はぁはぁと息が上がり、苦しさで足が止まりそうになる。
心臓が破裂しそうだ……
木々の密集する森を走り抜けるのは想像以上に辛く、枝にぶつかり根に足を取られ、とてもではないがスピードが出せない。
飛び出していったリンを咄嗟に追っては来たものの、追いつく所か完全に見失ってしまった。
ガーゴイルを呼び出して空から追うべきか?
敵の数は多かったが二匹いれば十分対処できるはずだ。
一匹位呼び寄せても戦線的に問題は無いだろう。
けど……
ガーゴイルにしがみ付き、空から追えば追いつく事は容易い。
だが空を行けば、高確率でワイバーンに発見される事になる。
確かにガーゴイルは強いが、俺がしがみ付いている状態では流石に戦えない。
そして、戦えない状態で敵に発見されるのは最悪の状態と言っていいだろう。
二匹呼び出せば安全に追跡する事はできる。
しかしそれは担当していたエリアを放棄するに等しかった。
リンを守りたいとは思う。
だが自分勝手に飛び出して行ったリンの為に、他の者達を危険に晒すわけにはいかない。
くそっ。どうすりゃいいんだ……
敵に発見されるリスクを冒してリンを追うか迷っていると、悲鳴が前方から聞こえてきた。
リンの声だ!!
思ったより近くから聞こえたその声に、俺はふらつく体に鞭打ち、悲鳴の聞こえた方へと駆ける。
無事でいてくれ!
「――っ!?」
視界にワイバーンの姿が飛び込んで来た。
飛行を得意とするワイバーンが何故森に降り立っているのか一瞬疑問に思ったが、その答えを俺は直ぐに理解する。
何故なら、ワイバーンの手にはリンが握られていたからだ。
「な……」
最悪の事態に思わず動きが止まる。
ぱっと見大きな外傷は見当たらないが、ワイバーンの手に握られているリンはピクリとも動かない。
「リン!!」
大きな声で呼びかけるが、やはり反応は帰ってこない。
俺の声にワイバーンが反応し、目が合う。
次の瞬間、奴は口元をまるで笑うかの様に歪め、空へと飛び立っていった。
「
召喚を呼び寄せるスキルを発動させる。
瞬時にガーゴイルが俺の目の前に姿を現した。
「あのワイバーンを追え!」
俺は即座にしがみ付き、リンの後を追うよう命じる。
逃がすかよ!
命令を受けたガーゴイルは即座に飛び立ち、リンを攫ったワイバーンの後を追う。
リンはすでにもう……
そんな考えが一瞬過るが、頭をふって振り払った。
リンは生きているはずだ。
そうでなければ、ワイバーンはわざわざ連れ去ったりしないはず。
正直希望的観測に過ぎない。
単に死体を持ち帰ったという可能性もある。
だがそれでも生きている可能性がある以上、放っておくわけにはいかない。
頼む!生きててくれ!
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