第31話 不安
ガーゴイル
翼持つ悪魔の姿を象った石像に、魂が宿った様なモンスターだ。
高い飛行能力を有し、その鋭い爪は岩をも容易く切り裂く。
……楽勝だな。
戦闘が始まってまだ10分と経っていないが、既に俺は40匹近くのワイバーンを撃墜していた。
最初はガーゴイルでワイバーンとどの程度渡り合えるか不安だったが、それは全くの杞憂に終わる。
はっきり言って敵ではなかった。
強化魔法を受けているガーゴイルの飛行速度はワイバーンのそれを上回り、更に小回りまで効く。
そのため容易くワイバーンの背に取り付く事が出来た。
背後に回ってしまえば、後はその鋭い爪で相手が死ぬまで滅多切りにするだけだ。
更にガーゴイルは、基本ワイバーンの上を取る様に飛行しているため、火球による森への被害も発生していない。
「ふぁ~あ」
「た、たかしさん。いくら何でも緊張感なさすぎでは……」
昨日緊張で夜遅くまで眠れなかったため、思わず欠伸が出てしまった。
それをフラムに窘められる。
「ごめんごめん。でもワイバーンが思ったよりずっと弱くて拍子抜でさ。これなら楽勝だな」
俺の言葉が気に障ったのか、フラムが怒った様な表情で近づいてくる。
そして俺の耳元に顔を寄せ、小さく耳打ちしてきた。
「リンちゃんもいるんですよ」
そう言われ、はっとなってリンを見る。
彼女は不安そうな顔で西の方を眺めていた。
マーサさん達の部隊がいる方角だ。
リンにとってマーサさんはただの里長ではなく、育ての親に当たる人だった。
幼い頃両親を亡くしたリンを、女手一つで育てた恩人。
こんな状況だ。
そんな相手を心配しないわけがない。
「……」
最初リンはマーサさんと同じ部隊を希望していたのだが、マーサさんの意向により、俺達と行動を共にする事になっている。
たぶん俺達と行動する方が安全だと判断したからだろう。
実際、その判断は当たっていたと言える。
現状余程の事がない限り、命どころか怪我一つする心配もない。
何やってるんだ俺は……
リンの不安に気づきもしなかった、自分の無神経さに腹が立つ。
彼女の事を抜きにしてもそうだ。
他の部隊のエルフ達はそれこそ命がけで頑張っているというのに。
「すまん」
「とにかく、今は油断せずしっかり仕事をしましょう」
「わかった」
両手で頬を叩き気合を入れる。
自分自身が戦うわけではないが、状況次第でガーゴイルに指示を出すのは俺だ。
下手を打って万一リンに怪我をさせてしまっては、こちらを信じリンを預けてくれたマーサさんに合わせる顔が無くなってしまう。
「ワイバーンの大群がこっちに向かってきます!!」
リンが大声で近づくワイバーンの報告をしてくる。
言われて西の空を見ると、ワイバーンの群れがこちらへと向かって来ているのが目に入った。
40……いや50はいるか……
ガーゴイルの戦闘能力ならワイバーンが50匹でも何とかなるだろう。
問題は俺達の方だ。
自分達の姿が見つかれば集中砲火を浴びる危険性がある。
そうなれば一溜りもないだろう。
「二人とも集まってください!
フラムはそう言うと、魔法の詠唱を始める。
「
魔法が発動し、俺達の周囲を視認負荷の結界が覆う。
「これで簡単には見つからないはずです。殲滅は何とかなりそうですか?」
「大丈夫だとは思う。けど、倒しきるのに多少時間がかかるだろうからしばらくは身を隠していた方がいいな」
「そうですね。りんちゃん?大丈夫ですか?」
フラムが心配そうにリンに声をかけた。
「は、はい。大丈夫です」
リンの声は震えている。
その顔は真っ青だ。
「お、おいリン大丈夫か?」
「大丈夫です……」
青い顔をして震えているリンを見て、大丈夫とはとても思えない。
その時、はっと気づく。
ワイバーンがやって来た方向を……
ワイバーンの群れは西からやってきた。
マーサさん達の居る方角から。
それはマーサさんの部隊を、あのガーゴイル達が抜けて来た事を意味していた。
最悪、マーサさんが命を落としている可能性も考えられる。
こういう時、なんて声をかければいいのか分からない。
リンを安心させるための言葉が、俺には浮かんでこなかった。
「ひょっとしたら、ワイバーンの狙いはたかしさんの呼び出したガーゴイルかもしれませんね」
その時、フラムが明るく声を出す。
「すごい勢いでばんばん倒しちゃってましたから。他を置いておいても、優先度の高い標的にされちゃったのかも」
フラムもリンの様子の原因に気づいたのだろう。
部隊の持ち場が突破されたのではなく、敵が部隊を無視して此方に来たと口にする。
「なるほど!それでここに集まってきたわけか!」
話としてはかなり苦しい。
もしそうなら、西だけでなく他の方角からもワイバーンが集まって来なければ筋が通らないからだ。
だが乗るしかないだろ言う。
「……わ、わたし!マーサさん達の様子を見てきますね!!」
急にリンはそう叫ぶと、
どうやら俺達が気をつかった事で、余計に不安を煽ってしまった様だ。
「な……」
「りんちゃん待って!」
フラムの制止に振り返ることなく、リンの姿は森の中へと消えていった。
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