第57話 vs厄災①
「転移は封じたわ」
「もう貴方は逃げられない」
「ここは貴方を閉じ込める牢獄」
「この封印は、私を倒さなければ出る事は出来ない」
2体の厄災が交互に言葉を紡ぐ。
彼女達の言葉が事実なら、もはや俺は逃げられないという事になる訳だが……
いきなり逃走経路を潰され、背中に冷たい汗が流れ落ちる。
勝ち目は薄く。
逃走も不可能。
このままだと死ぬほど不味い。
というか死ぬ。
思い浮かぶ打開方法は2つ。
1、異変に気付いて仲間が外から結界を破壊してくれる。
2、彩音が駆けつけてくれる。
どちらも他力本願かつ、望み薄。
これは冗談抜きでやばい。
≪方法ならもう一つある≫
ヘルの力強い言葉が、不安に押し潰されそうだった俺の気持に一条の光明を差しこませた。
何か案がある様だ。
≪主が奴らを倒せばいい≫
希望などなかった。
それが出来るなら苦労しない。
トカゲに期待した俺が馬鹿だったようだ。
≪ならば抗わず死を待つというのか?勝利は闘争の先にしかないのだぞ、主よ≫
もっともな意見だ。
勝てるかどうかは別にして、戦いもせずに諦めるという選択肢は確かにない。
「やるしかねぇか」
諦めるのは自殺と同じ。
一縷の望みをかけて、俺は戦う。
皆が結界を解除してくれる。
或いは彩音が駆けつけてくれると信じて!
≪背後からの攻撃は我が感知し、伝えよう≫
戦いのプロでもない俺が、前後の敵の動きを同時に把握して動くのはまず無理だ。
ヘルの言葉に甘え、俺は面前の厄災にだけ集中する。
それとほぼ同時に厄災が動いた。
「やっと死ねる」
「さあ、私を殺して」
厄災の理解不能な言葉に眉を顰める。
まるで俺に殺されたがっているかの様な口ぶりだ。
此方を混乱させるための作戦か?
まさか本気で言っている?
「何が殺してだ。こっちの事やる気満々じゃねーか」
前後からの連撃を捌きながら、言葉と噛み合わない相手の行動に思わず文句が口を吐いた。
そんな俺に厄災は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
とても殺して貰いたがっている者の行動ではない。
相手の目は真剣そのもの。
だから一瞬もしやと考えたのだが、少しでも期待してしまった自分に腹が立つ。
「即バレる嘘ついてんじゃねーよ!」
襲って来る相手の拳をいなし、俺は腹立ちまぎれに声を荒げた。
もしこれが俺を腹立たせる作戦だというなら、見事に術中に嵌ったと言わざるを得ない。
「嘘はついてはいない」
厄災の一体が俺に蹴りを放つ。
それを躱すと、背後の厄災が俺の回避に合わせ顔面に拳を叩き込んでくる。
「貴方には、期待している」
俺はその拳を弾いて間合いを離した。
どうやらこいつらはバレバレの嘘を続ける気の様だ。
「ぐぁっ」
鋭い痛みが腹部に走る。
追い込まれた状況。
堂々と嘘を垂れ流す厄災。
焦りとイラつきから対処が雑になり、良いのを一発腹に貰ってしまった。
「くそっ!」
≪主よ。落ち着け≫
分かってる。
けどこのままじゃきつい。
ヘルの協力もあってぎりぎり捌けてはいるが、このままではじり貧だ。
奴らは常に俺の前後を取る様に動いてくる。
挟まれていたのでは反撃もままならない。
例え焦っていなくとも、押し切られるのは時間の問題だった。
せめて背後さえ取られなければ……
≪主。結界を利用しろ≫
結界?
……そうか!?
ヘルの言葉に従い、俺は厄災の攻撃を掻い潜り結界――つまり画面端へと向かう。
「考えた」
「これなら、前後は取れないい」
結界を背に浮かぶ俺を厄災が左右から挟み込む。
挟まれている事に変わりはないが、それでも前後よりかは遥かに対処しやすい。
これなら暫くは持つだろう。
「でも」
「時間稼ぎを考えているなら、諦めた方が良い」
厄災が結界の外を指さした。
俺はその先――青い皮膜の向こう側――へと視線をチラリと動かす。
「――っ!?」
結界の外には、大小様々な無数のゴーレム達が蠢いている。
厄災は逃げた仲間が戻ってきて結界を解除できないよう、自身の配下を辺りに敷き詰めていた。
千?いや万は軽く超えてやがる……
一匹一匹の強さは大したものではない。
今の覚醒した仲間達の敵ではないだろう。
だが如何せん、数が余りにも多すぎる。
それに確かこの厄災は、配下のゴーレムを無限に再生させるとティーエさんから聞いている。
あれだけの数に延々再生されながら絡まれたのでは、結界の解除は絶望的と言っていいだろう。
どうやら、本格的に自力でこいつらを倒さなければならない様だ。
「逃げる事は考えず、倒す事だけ考えて」
「もう余り時間が無い」
「夜明けとともに、あれが蘇ってしまう」
「だからその前に」
「「私を殺して」」
あれとはいったいなんだ?
何が蘇る?
厄災が何を言っているのか理解できない。
只一つ分かっているのは――
奴らが此方を殺す気満々だという事だけだ。
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