第63話 決着
顔面に飛んできた父の拳を手で受け流す。
だがその拳に力は込められていない。
フェイントだった。
そのまま父は私の長い髪を掴み、引っ張る。
「くっ……」
「彩音!長い髪は弱点になるぞ!習わなかったのか!!」
父はそのまま髪を引っ張り私を投げ飛ばそうとした。
だがそれよりも早く、父の掴んでいる部分の毛が消滅する。
「なにっ!?」
「ここだぁ!」
掴んでいた髪が消滅した事でできた一瞬の虚。
私はそこを突き、全力の拳を叩き込んだ。
「ぐぁああ」
確かに、長い髪は格闘戦においては弱点になり易い。
ルール無用の戦いでは、ほぼ間違いなく相手も掴みにかかって来る。
だからこそ残しておいた。
元の世界に居た頃なら只の弱点でしかない。
だが、ここは異世界ルグラント。
剣や魔法もあれば――この世界には闘気もある!
髪は掴まれた瞬間、闘気を使って自壊させたのだ。
この世界に来た時から考えていた戦法。
まさか父相手に使う事になるとは夢にも思わなかったが。
「決める!」
体をくの字に折って吹き飛ぶ父に全力で突っ込み、私は容赦なく追撃を叩き込んだ。
父と私の力量はほぼ互角。
時間制限がある分、私の方がやや不利だ。
だから遠慮はしない。
父もそんな事は望んではいないはずだ。
「回復魔法も使わせない!」
父の元の
回復魔法を使われると戦い余計に長引いてしまう。
だから私は手や足に魔力を纏わせ、それを相手の体内に打ち込む事で父の魔法の妨害を行う。
魔力の消費は激しいが。
どうせもう大して魔力の使い道がない以上、残しておいても意味はない。
此処ですべて吐き出させてもらう。
「彩ね!躱せぇ!!!!」
私の一撃をもろに受けた父が、吹き飛びながら雄叫びを上げる。
途端、その内側から途轍もないエネルギーが膨れ上がるのが感じられた。
背筋にぞくっと寒気が走る。
これは――
「自爆!?」
私は咄嗟に
そしてその闘気で自身を完全に包み込み、亀の様に丸まり相手の自爆に備えた。
次の瞬間父の体は膨れ上がり、閃光と共に破裂する。
凄まじい衝撃が全身を貫く。
皮膚が焦げ。
閉じた瞼の奥が閃光で赤く染まる。
衝撃に全てを持って行かれそうだ。
だがこれで――
父は道連れにしようと自爆したのだろうが、例え死ぬ程の痛手を受けたとしても、最悪私は霊竜に全てのダメージを肩代わりしてもらう事が出来る。
その為私は死ぬ事はない。
――私の勝ちだ。
衝撃が過ぎ去った。
倒れていた私は痛む上半身を起こし、辺りを見回す。
そこには大きく抉れたクレーターだけが残り、辺りには静寂のみが漂っていた。
「終わった……か」
私はゆっくりと体を起こして立ち上がる。
正直ボロボロで立っているのが精いっぱいの状態だ。
早くティーエ辺りと合流して回復をかけて貰わなければ。
いや、魔力はそこそこ残っている。
父から得た力……で……
そこで私は気づく。
レベルが上がっていない事に。
そして父からヒーラーの力を継承できていない事に。
まさか――
≪上です!まだ終わっていません!≫
霊竜の声に従い、視線を空へと上げる。
空は既に白み始めていや。
その中に浮かぶ明けの明星。
そこに重なるかの様に、父はそこに居た。
いや、父だった物という方が正しい。
その姿は最早只の小さな肉塊。
それが不気味に蠢いていた。
恐らくコアとなる部分だけは崩壊しない様、結界で守ったのだろう。
だが、最早あの状態では戦えまい。
そう考えた瞬間、魔法陣がそれを包み込む。
「回復魔法か!?」
見る見るうちに肉痕が大きくなっていく。
このままでは完全回復もあり得る。
そうなればこちらに勝ち目はない。
「はあぁぁぁぁぁ」
だから私は全ての力を振り絞り、最後の一滴まで右拳に集約させる。
相手の回復が勝るか。
此方の破壊が勝るか。
この一撃に全てをかける!
「
私の全てを乗せて拳を撃ち放つ。
手から放たれた破壊の光が父の全てを包み込み――
そして結果を見届ける事なく、私は意識を失った。
「よくやった。流石俺の娘だ」
消え去る意識の中、父がそう言ってくれた気がする。
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