第62話 自爆特攻
やばい……やばいぞ、おい。
とんでもない事に気づいてしまった……
彩音が戦っている。
それも恐らくとんでもない化け物と。
俺にはそれが何故だかわかった。
兎に角時間を稼ぐ。
彩音先生お願いします!
そう強く念じていたら、どういう訳だか彩音の気配が感じ取れる様になったのだ。
ヘルと融合影響している影響だからだろうか?
まあこの際理由はどうでもいい。
問題は彩音の奴が何かと戦っているという事だ。
しかも苦戦する程の相手と……
俺の感覚に間違いがなければ、彩音の救援は期待できない。
それは不味いのでこの感覚が気のせいである事を願うばかりだ。
≪主よ、恐らく気のせいではないぞ。先程から霊竜の波動を感じる。どうやら奴は召喚され、主の思い人と融合している様だ≫
「は?霊竜を召喚して融合!?召喚士でもないのにどうやって!?!?」
訳が分からず思わず声に出してしまう。
召喚士ではない彩音に霊竜は呼び出せない。
結界がある以上、霊竜が自力でルグラントへとやってきた線もありえない。
融合だってそうだ。
大精霊から力貰ってないあいつが融合なんてできる訳がない。
「っていうか、誰が思い人だ!!」
≪違うのか?≫
「違うわ!!」
誤解ってレベルじゃねぇ。
もはや誹謗中傷レベルだ。
大声に驚いたのか、厄災が警戒して攻撃の手を止め俺から間合いを離す。
混乱している状態で攻撃されると防御をミスりそうなので、正直助かった。
然し何がどうなってやがる。
「帝国で貴方達が倒した厄災は、元は召喚士だった」
「南で戦ってる人は、倒してその力を吸収している」
答えは思わぬ所からやって来た。
まるで彼女達には俺の心が見えている様だ。
しかし倒して相手の力を吸収するとか、本当に何でもありだな。
彩音は。
「異世界人は異世界人を殺して力を奪える」
「だから貴方は、私を殺して力を奪わなければならない」
「「そうしなければあれが世界を滅ぼしてしまう」」
再び挟み込まれ、攻撃が再開された。
こいつらの言葉が本当なら、倒せば俺がこいつらの力を吸収できる事になる。
しかしアレってなんだ?
まさか邪悪の事か?
だが神様はもう暫くは大丈夫だと言っていた。
俺に嘘を吐く理由などない筈だが。
≪神が嘘を吐いたかどうかは知らぬが、波動ならば確かに感じるぞ。かつて世界を滅茶苦茶にしたあの化け物の波動を。刻一刻と膨らみ続けている。確かにいつ復活してもおかしくはない≫
マジか!?
じゃあ目の前の厄災共の言ってる事が正しいのか?
どうなってやがる!?
って、分かってたんならもっと早く報告しろよ!
「守ってばかりでは、私は倒せない」
「時間はない。早く私を殺して」
厄災は攻撃の手を緩めない。
相変わらず言ってる事とやっている事がちぐはぐだ。
「お前を倒して世界を守れってんなら、今すぐ攻撃を止めやがれ!」
相手の拳をなんとか受け止め、そのまま攻撃を止める様勧告する。
こうやってもう一体が直ぐ傍にいる間、もう片方は多少間合いを離し寄ってこない。掴まれた方をぶつけられて、その隙に同時にブレスを浴びせられるのを警戒しての行動だろう。
驚くほど慎重だ。
絶対こいつらやられる気ないだろ?
「それは無理。私はもう、半分魔物だから」
掴んだ厄災が俺の手を振り払う。
「理性は残っていても、魔物としての本能が貴方を襲う」
成程、行動と言動が一致しない理由は分かった。
まあだからと言って、事態が好転するわけではないが。
「「だから頑張って」」
頑張ってじゃねぇよ、まったく。
だが冗談抜きで俺が頑張るしかない様だ。
彩音は相変わらず苦戦しているのが感じられて、救援を期待できない。
ちらりと結界の外へと視線を投げる。
外では結界を壊そうとリン達が頑張ってくれていた。
だが如何せんゴーレムの数が多く、しかも結界は強力だ。
彼女達が結界を解除し、連携をとって目の前の厄災を倒すというのは難しいだろう。少なくとも夜明けまでに終わらせるのは絶望的だ。
やるしかねぇか……
≪だがどうする?二人同時はかなり厳しいぞ≫
実は手が無い訳では無かった。
だがかつて霊竜と話して以来、その手は出来るだけ避ける様に心がけて来たのだ。
まあこの状況ではそうも言ってはいられないだろう。
ヘル、先にお前には謝っておく。
≪何の話だ?主よ≫
自爆特攻をかける。
具体的には、フルパワーのブレスでこの結界内を焼き尽くす。
勿論そんな真似をすれば此方も只では済まない。
恐らく死ぬ程のダメージだ。
分離する際、ダメージをヘルに全て押し付けられるので俺はまあ大丈夫な訳だが、ヘルの方はそうもいかない。
召喚であるため死ぬ事こそないが、文字通り死ぬ程痛い筈だ。
だから先に謝っておく。
苦しみを押し付けて、消耗品として使い捨てる様な真似をする事を。
≪ふん、我がそんな物を恐れるとでも思っているのか?随分と侮られたものだ≫
ヘルが不機嫌そうに吐き捨てた。
別に侮ってる訳では無いのだが、そう感じ取られてしまった様だ。
悪い。
侮ったわけじゃないんだが、礼儀として謝っただけだから許してくれ。
≪ふん、まあいいだろう、それで?どうするのだ≫
相手の攻撃を亀みたいに固まって無視する。
ブレスを全力で撃つめに。
動き回ればエネルギーを十分に貯められないからな
だから俺はひたすら攻撃に耐え続ける。
相当ダメージを貰う事になるだろうが、どうせ黒龍砲の反動で死ぬ程ダメージを受けるのだ。
ならもうダメージを気にする必要はない。
≪いいだろう。だが受ける痛みは全て主に引き受けてもらうぞ。出なければブレスに集中できん≫
融合中、痛みは半々程度にヘルと分け合う形になっていた。
だからこそ少々攻撃を喰らっても怯まず戦う事が出来ているのだ。
正直痛いのは勘弁してほしいが、俺は覚悟して気合を入れる。
「おおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は雄叫びを上げる。
気合を入れる為でもあるが、さっき厄災は俺の大声に反応して間合いを取った。
今度もそれを期待しての事だ。
そして狙い通り、厄災は俺から離れた。
「行くぞ!ヘル!」
雄々しい雄叫びとは裏腹に、俺は両手でがっちり上半身をガードし、亀が丸まる様に防御の姿勢に入った。
この体制でブレスのエネルギーが溜まる迄耐え続ける。
≪任せろ!!≫
下腹部に熱が集中するのが分かる。
厄災もそれに気づいたのか、一気に間合いを詰めて攻撃してきた。
さっきまでとは違い、ほぼ二人同時に。
「「頑張って!」」
応援と同時に蹴りや拳が飛んでくる。
はたから見たら、完全に虐め以外何物でもないだろう。
「――っぁ!」
想像以上の痛みに、食い縛った歯の隙間から声にならない苦悶の声を漏らす。
容赦ない暴力に蹂躙され体がふらつく。
痛みで腕が痺れて力がもう殆ど入らなくなってきた。
耳鳴りも酷い。
……やばい意識が飛びそうだ。
「「不味い!」」
厄災の声がハモる。
力が入らず、遂にガードしている両手が弾かれてしまったのだ。
この状態で真面に攻撃を喰らったら、確実に意識が……
「「こなくそ!!」」
「!?」
再び厄災の声がハモリ、そして吹き飛ぶ。
彼女達が。
同時に迫っていた拳が俺では無く、お互いを撃ち抜き合ったからだ。
見ると二人は苦し気に呻き、辺り構わず滅茶苦茶に暴れまわっている。
強い意思で魔物の本能を押さえてくれているのだろう。
「く、あぁ……」
「は、はやく…はやく……」
世界を守る。
それを言葉だけでは無く、彼女は態度で示してくれた。
≪主!いけるぞ!!≫
「ありがとう」
俺は厄災に感謝の言葉を告げ。
ヘルが用意してくれたエネルギーの全てを解き放った。
「負けないで……」
「頑張って……」
厄災の体を飲み込み、破壊のエネルギーが全てを蹂躙し尽くす。
そして俺自身もそれに飲み込まれた。
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