第18話 買い物
「あっ、これなんかどうですか?」
フラムが大きな声をかけてくる。
折角離れて他人のふりをしているのに、台無しだ。
一々声をかけてくんなよな、まったく。
「この箱、開けると音楽が流れるんです。旅の途中これがあれば退屈しませんよ」
お前と旅をする気はさらさらねーよ。
口に出して言えればどれほど素晴らしいか。
「私は基本、自分の足で走るから不要だな」
彩音は今後も馬車に乗る気はないようだ。
体を動かさないと死んでしまう病気にでもかかってるんだろうか?
馬車の横を人が並走して走る姿も大概シュールだから、正直やめてほしい所なんだが。
勿論これも口にはしない。
最近気づいたのだが、どうやら俺はヘタレな様だ。
思っていても口に出せない事が多すぎる。
まあコミュ障というのもあるしな。
「200曲も入ってるらしいですよ。どうします?2人で共同で買っちゃいます?」
「何で共同?欲しいなら自分で買えば――げっ!高っけぇ!」
何気なく値札を見たらとんでもない額が記入されており、思わず変な声が出た。
「いらんいらんいらんいらん!こんな物買う位なら鼻歌でも延々歌ってるわ!高すぎる!」
余暇を楽しむアイテムにしては、余りにも値段が高すぎる。
下手をしたら家を買えてしまう金額だ。
こんな物買うとしたら、金と暇を持て余した貴族か成金ぐらいのものだろう。
「確かに少々お値段は張りますけど、ドラゴン討伐の報酬と、ドロップしたリングの代金さえ貰えれば楽勝で買えちゃいますよ!」
だったら報酬貰ってから一人で買いに来いよ。
俺は全く気付いていなかったのだが、ドラゴンを倒した際どうやらリングがドロップしていたらしく、脱出前にティーエさんが素早く回収していたらしい。
あの状況下で、小さなアイテムを見落とす事なく回収していたティーエさんの抜け目なさには驚かされるばかりだ。
ドロップしたアイテムはドラゴンリングと呼ばれるもので、装着者の能力を大幅に引き上げてくれるSS級(国宝級)のアイテムだった。
ティーエさんが買い取る事になったのだが、額が額なだけに流石に手持ちでは賄えないため、支払いは王都にあるアルバート家の別邸で行われる事になっていた。
ドラゴンの討伐報酬も、その際一緒に受け取る予定だ。
ドロップとドラゴン討伐の報酬。
その二つを合わせれば、贅沢さえしなければ一生暮らせるだけの額になる。
もはや生きていく上で魔物を倒す必要も無く、個人的にはスローライフを送りたいところだが……
神様、絶対なんか言ってくるよな。
折角呼び出した異世界の人間がスローライフなんて始めた日にゃ、目も当てられないだろうからな。
俺が神様なら絶対に怒る。
神を敵に回す愚を犯す気は流石にないので、仕方ないが今まで通りの生活を続けるしかないだろう。
「ね!ね!今手持ちが足りないんです!どうか後生ですから」
「わかったよ。ただし貸すだけだかんな」
「やったぁ!有り難うございます!」
我ながら押しに弱い。
この性格をどうにかしないと、いつか偉い目にあいそうだ。
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