第17話 謎の魔術師

コンコン。


ドアをノックする。


「入れ」

「失礼します」


部屋に入ると、執務机の前に立つ筋骨隆々の男性が視界に飛び込んで来た。

男は精悍な顔つきをしており、身長は2メートルを超える岩の様な体躯をしている。

彼こそが王国騎士団の長にして、ルグラント王国最強の騎士、バルクス・ファーガンだ。


「団長、報告が…」

「聞いたぞアニエス!君の婚約者が、あのカルディメ山脈に住まうドラゴンを退治したらしいな!」


言い終わる前に話が大声で遮られた。


「たった15という若さでドラゴン討伐を成功させるとは、大したものだ」


嬉しそうに頷く団長の様子を見て、私は違和感を感じる。

まさか団長は本気で信じているのだろうか?

たった5人でドラゴンを倒したなどという、荒唐無稽な話を。


彼は基本お人よしではあるが、決して馬鹿ではない。

そもそも馬鹿に団長など務まるはずもない。


単にからかわれているのか、それとも私を疑っているのだろうか?

確かにティータ・アルバートとは婚約関係ではあるが、所詮家同士が勝手に決めた相手だ。

だが結婚すらしていない現状で、騎士団長がアルバート家に何か言ったとして、それを告げ口する気などさらさら無いのだが……


信頼されていない。そう思うと少し悲しくなる。

そんな私の気持ちを察してくれたのか、団長が言葉を続けた。


「ああ、言っておくが、別に君の前だからアルバート家の人間を褒めている訳ではないぞ」

「では、団長は本気で5人だけで討伐したと?」

「普通ならば不可能だろうな」


普通も何も、どう考えても不可能だ。


「アニエス、君は彩音・彩堂と会った事はあるか?」

「いえ、ありません。確かティーエさんと組んでいる女性ですよね。異世界人と噂の」


そういえば以前、彩堂彩音がドラゴンを倒したという噂があったな。

勿論ただの与太話だと私は――いや、国自体がそう判断している。


未確認で死体も残っていないなど、都合が良過ぎる話だからな。


「団長は面識が?」

「面識と言うほどではないが、以前チラリと見かけた事がある。一目見てわかったよ。彼女は私よりも強いと」

「な!御冗談ですよね?」

「恐らく……私では相手にもならないだろうな」

「そんな馬鹿な……」


正直、信じがたい話だ。

だが、団長はいい加減な事を言う人間ではなかった。

彼がここまではっきりと言い切る以上、それは間違いのない事実なのだろう。


「ではその彩音・彩堂が……ドラゴンを倒して見せたと?」

「流石に一人では無理だろう。だが優秀な仲間さえいれば可能だと私は踏んでいる。聞けばメンバーの中に転移魔法テレポートを使える者もいたそうだ」

転移魔法テレポートを!?」


転移魔法テレポートは魔法の中でも最上位に位置する物だ。

騎士団の中にも魔術師は数多くいるが、転移魔法テレポートを使えるレベルの者はいない。

いや、騎士団どころか世界全体で見ても数えるほどしかいないだろう。


「報告によると、ドラゴンの住処だった洞窟は戦闘で崩落していたそうだ。魔術師が相当無茶をしたんだろうな」


洞窟すらも崩落させる魔術師か……


ティータは騎士としてトップクラスの実力を持っている。

その姉ティーエも、教会内で稀代の天才と言われている程の力の持ち主だ。

そこに団長以上の強さを持つ彩音・彩堂。

そこに転移魔法テレポートすらも使いこなす魔術師が加わったならば、確かに可能なのかもしれない。


荒唐無稽な夢物語が現実になる。

そう考えると、私は俄然興味がわいてきた。


彩音・彩堂と、その謎の魔術師に。


今度ティータ達と顔を合わせる機会があったなら、その辺りを是非とも詳しく聞かせて貰うとしよう。

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