第85話 レインとパー
「あそこだ」
レインが剣で何もない空間を指す。
「あいよ」
それに返事をしたパーが右手を突き出し、魔法を詠唱する。
その突き出した右手の少し前方に小さな光が現れたかと思うと、見る見るうちに光は渦を巻き、大きな光球へと生まれ変わっていく。
「
パーの叫びと共に光の玉が高速で打ち出され、レインの指す少し前方辺りで唐突に動きを止めた。
次の瞬間、光球は耳障りな音を発生させながら明滅を繰り返しだす。
眩い閃光を孕んだ雷光と衝撃波が明滅を彩り、その様は美しくさえ感じる。
やがて明滅は次第にその速度を上げ、最後には大きく破裂し、美しい光の花を咲かせ消えていった。
「何度見ても綺麗な魔法ですねぇ」
フラムがうっとりと残光を眺めながら呟いた。
「死ぬ程うるさいけどな」
確かにフラムの言う通り、明滅から大輪の花を咲かせる様はとても美しい。
だがそれと同時に、耳を貫くその音はとても不快な物だった。
まあ我慢できないほどではないが。
個人的にはプラマイゼロといった所か。
「ふん、情緒を解さん男だ。所詮異世界人には、物の良し悪しなど分かるまい」
ティータが水を得た魚のごとく嫌みを言ってくる。
が、勿論これは無視する。
別に反論しなくとも、ティーエさんが叱ってくれるからな。
「ティータ!」
案の定ティーエさんの説教が飛んでくる。
子犬の様に小さくなっているシスコンを十分堪能してから、俺は視線を前方に戻した。
「イェーイ」
レインの傍に移動したパーが、満面の笑顔で右手を上げる。
そしてパーンと乾いた音が響く。
レインが恐る恐る戸惑いながら近づけた右手に、パーが勢いよく手をぶつけハイタッチしたからだ。
一々罠を解除するたびにハイタッチとか。
めんどくさい女だな。
41階層に来てから、既に10回以上はハイタッチをレインに求めているパーには呆れる。
そして、ハイタッチする度嬉しそうな表情で右手を眺めるレインにも。
いい加減慣れろよ。
いくらなんでも26の男の反応じゃねーぞ。
レインがパーの右手に触れるたびに、嬉しそうにする様を最初は微笑ましく思ったものだが。
毎度毎度手を上げるだけで、自分から手を合わせに行けないのは流石に情けなないことこの上なしだ。
このままでは仮に付き合えたとしても、手もまともに握れないのではと人事ながら不安になってしまう。
「二人での共同作業、上手くいってますね」
フラムが顔を近づけ、嬉しそうな声でそっと耳打ちして来た。
二人には現在トラップゾーンの対処を任せている。
以前は罠の発見と解除はニカの担当だった。
彼女がいない現在、発見はレインが、そして解除はパーが担当し、コンビで処理に当たって貰っている。
その為か、二人の距離感は以前よりずっと近づいている気がした。
純粋に二人の事を応援しているフラムは、そんな二人の様子を嬉しそうに眺めている。
俺もレインの事を応援してはいるが。
ニカの事が頭を過り、この状況を手放しで喜ぶ気にはなれなかった。
「先を急ごう」
レインの傍に寄り、声をかける。
「ああ、すまない」
声をかけると、彼の表情は一瞬で引き締まる。
彼にとっては至福の時間であっただろうが、タイムリミットがある以上、のんびりしている訳にはいかないのだ。
パーとの事は、最悪ニカが生き返ってからでも遅くはないだろう。
悪いな。
心の中でレインに謝りつつ。
俺達は探索を再開する。
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