第45話 形勢逆転

「ほざけ!」


叫びながらブラドが突っ込んでくる。

相手ももう気付いているのだろう。

その声には先程までの余裕はなく、焦りからか言葉遣いも荒々しいものに変わっていた。


この場で迎え撃てば動けないリンに害が及ぶため、私も前に出る。

間合いに入った瞬間、ブラドが私の顔を目掛けて爪を振るう。

その攻撃をギリギリの所で軽く仰け反って回避し、薙いできた手の袖を引いて私は相手の体勢を崩した。


「ぬぅっ!?」


そのまま体勢の崩れた相手の脇腹にボディブローを入れ、続いて相手の横っ面に掌底をぶちかました。


「がぁあっ」


痛みからか、ヴラドがうめき声を上げる。

だがそれで動きを止めてくれるほど相手も温い相手ではない。

素早く体勢を立て直されてしまった為、私は追撃を断念する。


「何故だ!何故攻撃が当たらん!」

「お前の動きはもう見切った」

「なんだと!!」


リンのお陰だ。

最初はリンを庇いながらの戦いに四苦八苦していたが、慣れてくると逆に今まで見えなかったものが見えてくるようになった。

上手くは説明できないが、視野が広がった感じだ。


お陰でブラドの動きが良く見える。

もはやブラドの攻撃を私が真面に受ける事はないだろう。


これが私が、ブラドを敵ではないと言った理由の一つだ。


ブラドは自分の圧倒的不利を悟ったのか、此方を睨みつけたまま動かないでいる。

作戦でも考えているのだろうか?


時間を与えず攻めるべきか、それとも様子を見るべきか……


窮鼠猫を噛むと言う。

これほどの魔物なら、何らかの隠し玉を持っていると考えるべきだ。

そう思い慎重に行動する事にした。


まず相手の状態をチェックだ。


心眼マインズアイを発動させ、相手の残りHPを確認する。

ヴラドのHPバーは既に3割を切っており、あと一押しといった状態だった。


私の攻撃が聞いている証拠だ。


リンの活躍もあるが、既に私の攻撃はブラドの負のオーラを貫通する事に成功している。

そしてもう一つの理由がこれだ。


ヴラドの負のオーラには、こちらの気を掻き消す効果があった。


身体能力には自信がある。

だが所詮人間の肉体能力だけでは、ヴラドのような強靭な化け物相手には殆どダメージが通らない。

その為、拳を打ち出しても気が乗らずダメージを与えられずにいたのだ。


最初はそれをどうしたものかと悩んでいたが、たかしの帰還魔法こうげきを手伝った事で私は攻略の糸口を掴んでいる。


奴を取り押さえたとき、私の体の中の気は掻き乱される事なく巡っていた。

奴のオーラを全身に受けていたにもかかわらず。

つまり、奴のオーラは体の中にまでは影響しないという事だ。


外に出すから無効化される。ならば内に込めればいい。

それまでは外気功を主体に戦ってものを、内気功に切り替えた事でダメージが通るようになったのだ。


正直、内気功はあんまり得意じゃないんだが……これからはこっちもちゃんと鍛えておいた方がいいな。


同じ様な能力を持つさらなる強敵が現れた時のためにも、外気功中心だった練習メニューを考え直すとしよう。


いかんな。

未来の強敵よりも、今は目の前の敵に集中しなくては……

油断するのは悪い癖だ。


余計な考えを頭から追い出し、集中しなおす。


「認めよう。お前は強い。今のこの私よりも……」


その時、突然ブラドが敗北宣言の様な言葉を口にする。


「言っておくが、命乞いは聞かんぞ?」

「そんなつもりは毛頭ない」


そう答えた次の瞬間、ブラドの体から凄まじい量のどす黒いオーラが一気に噴出された。

その余りの禍々しいオーラに私は思わず後ずさる。


だがそのオーラは一瞬で消え、気づくと奴のその手に何か黒い球が握られていた。


「これが私の切り札。呪だ…」

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