第60話 親子喧嘩
2つの影がぶつかり合い、大気が震える。
その強大な力と力のぶつかり合いに、死の山と呼ばれた魔の山は最早原型を留めてはいなかった。
世界を恐怖に陥れる厄災と、世界を救済せんとする英雄。
奇しくも二人は同じ形の陰影をとる。
翼をもつ翼人。
まるで天使の様なシルエットを。
但し、似ているのは陰影だけだ。
それ以外はまるで正反対と言っていい。
英雄たる少女は背から純白の羽を生やし、その全身を白銀に輝く鎧の様な物に包まれていた。
その白く気高い姿は
方や厄災はその全身を汚泥の様な色で染め上げられ、その翼も黒く穢れていた。
その様はまるで地獄に落とされた堕天使の様だ。
そんな同じ陰影を持つ彩堂彩音と彩堂たかし。
親子でありながら今や対極の存在と化した2人が今、お互いの存在をかけて力の限りぶつかり合う。
「どうした彩音!お前の力はそんな物か! 」
厄災は拳を受け止め、それを引きむ様にみ彩音を投げ飛ばす。
凄まじい轟音と共に彩音の全身が叩きつけられ、山の斜面がクレータの様に大きく陥没する。
「――っ!!」
今度は逆に彩音が掴まれていた腕で掴み返し、起き上がりながら相手を地面へと叩きつけた。
その衝撃でクレーターは更に大きく深く死の山を抉り取る。
「ははっ、やるな。流石俺の娘だ」
掴まれた手を解き、翼を大きく羽ばたかせてたかしは大空へと舞い上がる。
その際の突風で辺りに岩や土砂が撒き散らされるが、彩音は微動だにせずその場から相手の動きを視線で追う。
「だが足りん!それでは俺の能力を吸収した所で邪悪には届かんぞ!」
荒い語気と共に彩堂たかしは両手を天へと掲げる。
するとその先に黒い波動が渦巻き、巨大なエネルギーの塊が姿を現した。
「はぁっ!」
裂帛の気合と共に厄災は腕を振り下ろす。
その動きに合わせて負のエネルギーの塊が真っ直ぐに彩音へと落ちていく。
それを彩音は、その口から白きブレスを吐き出し迎撃する。
「くっ!?」
だがブレスでは止まらない。
そのまま押し切られ、あわや直撃する寸前に彩音は危機一髪回避する。
早い段階で押し負けると判断し、ブレスを中断し回避に移ったお陰だ。
もうほんの一瞬でも判断が遅れていれば、大ダメージは免れ得なかっただろう。
「いい判断だ」
「ふ……」
そんな父の容赦ない攻撃に、彼女は思わず笑みをこぼす。
彩堂たかしもまたそんな彼女を見て口角をあげ、嬉しそうに彼女を見つめる。
人生最初で最後の親子喧嘩。
そして最初で最後の親子の語らい。
彼女達はそれを楽しんでいた。
だが残された時間はそう長くはない。
やがて夜が明ける。
それまでに終わらせなければならない。
でなければ――
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