第63話 闘技

サイクロプス


単眼の巨人。

その体躯は優に三メートルを超え、その一撃は岩をも容易く砕く。

レベル80オーバーの強力なモンスターだ。


そのサイクロプスが円を描く様に俺を取り囲み、じりじりと間合いを詰めてくる。

大岩の様な巨体に囲まれると、そこから発せられる圧力は凄まじいものがあり、相手が格下だと分かっていてもついたじろいでしまう。


さて、どうしたものか。


正直、サイクロプスは頭が弱いものとばかり思っていた。

見るからに頭の悪そうな見た目なのだが、どうやら最低限の知能は持ち合わせているら様だ。


小さく脆弱な人間である自分に対し、何も考えずに突っ込んでくるとばかり思っていたのだが、まさか周りを取り囲み、様子を見ながら間合いを詰めてくるなど完全に計算外だった。

まあこいつらは一度捕縛された経験から、人間が侮れない存在だと学んだのだろう。


とはいえ、俺がすべきことは何一つ変わりはしない。

ただ目の前の敵を殲滅するだけだ。


囲まれている状況で、相手が仕掛けてくるのを待つのは愚の骨頂。

完全に間合いを詰め切られる前に、5体の内最も体格の劣る者に俺は突っ込んだ。


相手はその動きに対応するかの様に両手を振りかぶり、握り合わせた拳をハンマーの様に振り下ろしてくる。


勿論そんな大ぶりの攻撃を喰らってやる謂れなどない。

攻撃を避け、お返しと言わんばかりに左拳を相手の脇腹へと叩き込む。

メキメキっという音と共に、サイクロプスのあばら骨が折れる感触が拳を通して伝わって来た。


別にサイクロプスのあばら骨が脆いのではない。

それだけ俺の一撃が強力だという証だ。


あばらが折れたサイクロプスは、体をくの字に折り曲げ膝を着く。

そのまま畳みかけて止めを刺したかったが、それよりも早く、別の個体が此方を吹き飛ばそうと背後から腕を薙いで来た。


俺は振り向き様に姿勢を低く落としてその腕を掻い潜り、その低い姿勢から突き上げる様に飛び跳ねて体当たりをぶちかます。

それをもろに受けたサイクロプスは大きく吹き飛び、そのすぐ背後に迫っていた別の個体を巻き込んで盛大に倒れんだ。


続いて2匹のサイクロプスが同時に掴みかかってくる。


一瞬腰にかけてある剣に手が伸びそうになるが、思い直し、横っ飛びで2体の掴みかかりを回避する。

そして着地と同時に、先程体当たりで吹き飛ばしたサイクロプスの足を掴んで振り回した。


まさか倒れている仲間を武器に使われるとは思ってなかったのだろう。

2体のサイクロプス達はその動きにまるで対応できず、豪快に吹き飛んだ。


このまま武器として使おうかとも思ったが、見た目的に格好悪い気がするのでやめておく。


手にした奴を、取りあえずトドメを指すため地面に叩きつけた。

ドォンという盛大な音と共に、サイクロプスの巨体が地面に勢いよくめり込み、そのまま息絶え消滅する。


残りは4匹。

最初囲まれた時は少々面食らったが、所詮今の自分の敵ではない。

後は油断さえしなければ、何も問題はないだろう。



「驚いたな……」


自身の率直な気持ちを、誰ともなしに呟く。


今日ここには、新たに登録されたというSランク冒険者二名の戦いぶりを見に来たのだが……まさか特に気にも留めていなかったAランクの冒険者に感嘆させられる事になろうとは。


動きは素人に毛が生えたようなものだが、驚くべきはその身体能力だ。

人間の限界を遥かに超えていると言っていい。


技術度外視で肉体だけを極限まで鍛えた?いや、あり得ない。

あそこ迄肉体を鍛えておいて、技術が一切ついてこないなど考えられない事だ。

恐らくは、何らかの方法で限界を超えて身体能力を高めているのだろう。


となるとあのモンスター達か……


奴は最初に三体のモンスターを召喚していた。しかし呼び出されたモンスター達は全て見た事のあるものだ。

俺の知る限り、あのモンスター達には特殊な能力は無いはず?

それどころか補助系のタイプですらない。


「まあ、どうでもいい事か……」


再び呟く。

奴の強さに何らかのカラクリがあるのは間違いない。

だがそんな事は、本当にどうでも良い事だった。


重要なのは奴が強いという一点のみ。


この国で、自分と互角に戦える者は居ない。

闘技場に登録してはいるが、自分を満足させるだけの相手にはこれまで1度たりとも出会う事がなかった。


だが奴は違う。

奴が相手なら、自分の力を余す事無く出し切れるはずだ。


そんな事を考えていると、闘技場全体が大歓声に包まれる。

見ると、奴が最後のサイクロプスに止めを刺し勝敗が決していた。


奴の強さに、観客達が賞賛の声と拍手喝采を送っている。


そんな大歓声の中、俺は席を立った。


奴に決闘を申し込むために……

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