第62話 天才錬金術師

「連れて行ってあげればいいじゃないか」


唐突に横から声をかけられる。

驚いてそちらを見ると、そこには見た事も無い女が居た。


誰だこいつ?


女は顔に大きな瓶底眼鏡をかけ、手入れする気がないのか髪はぼさぼさ状態だった。

着ている黒のローブも皺くちゃのよれよれで、絵にかいた様な研究者然とした姿をしている。


ただ何故かローブの上から羽織っている深紅のマントだけは皺ひとつなく、小汚い格好の女に不似合いな清潔感を醸し出していた。


「あのー、どちら様でしょうか?」

「ああ、すまない。まだ自己紹介してなかったね。僕はグレン、パマソー・グレンさ。気さくにパーちゃんって呼んでくれてもいいよ」


頭ぱーのパーちゃんか、分かり易い名前だな。


「「パマソー・グレン!」」


フラムとニカの驚いたような大声がはもる。

ひょっとして有名人なのだろうか?


「知り合い?」

「何言ってるんですか!パマソー・グレンと言えば稀代の天才錬金術師ですよ!彼女の武器を今日買ったばかりじゃないですか!」

「ああ、これか」


俺は自分の腰にかけてある剣を一瞥する。

言われてみれば、確かに店員がその名を口にしていたな。


「おお!君がその子を買ってくれたのかい。繊細な子だから大事にしてやってくれ」


繊細?武器がか?

それって武器としては欠陥品って事じゃ……


武器等という物は頑丈であればある程いい。

繊細な武器など論外だ。

早々に買った事を後悔する。


よもや鞘から抜く前に後悔する羽目になろうとは……


「繊細な武器とかいらんから、返品頼む」

「残念ながらそれは無理だよ。何故なら、お金はこのマントへと変わってしまったからね」


パーがマントの両裾を掴み、ふわっと一回転して見せた。

マントだけ場違いな清潔感が出てたのは、剣の売却益で買ったばかりだからか。


「どうだい?似合うだろう。ダンジョン探索用に買った高級マジックアイテムさ。本当はその子を手放したくはなかったんだけど、どうしてもこれが欲しくてね」

「そのマントすごく綺麗です!」

「そうだろう!!」


リンに褒められ調子に乗ったのか、パーが2転3転とその場で回転する。


こいつ気付いてんのか?

リンはマント“しか”褒めてないんだが。


ぶっちゃけ他は酷すぎて褒め用が無い。

無理やり良い所を上げるなら、身なりの割に臭わない事位だ。


それって女としてどうよ?


「まあいい。で?何か俺達に用か?」


今はニカの事で真剣な話し合いの最中だ。

そこにいきなり割り込んできて、クルクル回られても迷惑極まりない。


「おっと、いきなり質問タイムかい?僕に興味津々って事だね」

「うん、違う。用が無いなら向こう言ってろ。こっちは今大事な話をしてるんだよ」

「モチロン僕もその大事な話に加わらせて貰うよ。何せ此れから、一緒にダンジョン攻略を進める仲間だからね」

「は?」


何言ってんだこいつは?


言っている意味が理解出来ずフラムの方を見る。

が、どうやらフラムも同じらしく、驚いたように此方を見ていた。

自分が知らないうちにフラムが誘ったのかとも思ったが、どうやら違うようだ。


まあよくよく考えれば、帝国に着いてからは常に一緒に行動しているのだ。

フラムにそんな事をする暇などなかったはず。


それが出来たとしたら、恐らくリンだけだが……


「リンが誘ったのか?」

「え!?しりませんよ?パーさんとはいまはじめてあいましたし」


リンも知らないとなると、本格的にやばい奴か、もしくは……


「ティーエさんの紹介か?」

「驚いたね、君。間の抜けた顔をしている割に、案外察しが良いんだ」

「誰が間の抜けた顔だ!」

「そうなんですよ。たかしさんこう見えて結構頼りになるんですよ」


フラムがフォロー?してくれるが、逆に腹が立つ。


どう考えても、お前にだけは“こう見えて”呼ばわりされたくねぇ……


「へぇ、人は見かけによらないねぇ」


お前は他人の見かけをどうこう言える見た目じゃねぇだろ……


自分達の事を棚上げしてふざけた事をぬかしてくるが、言い返すのも面倒臭いので口には出さなかった。

何故なら、女2人相手に口喧嘩すると負ける可能性が極めて高いからだ。


負け戦に首を突っ込む程、俺は愚かではない。


「僕は今、死者蘇生の研究をしているのさ。だからその研究のために、王墓の最下層にあると思われる研究資料を是非手に入れたかったんだ。でも一人じゃ流石に無理があるでしょ?だから、今回のアルバート家からのお誘いは正に渡りに船って奴だったのさ」


聞いてもいないのに、自分の目的をペラペラ喋りながら俺の横に座ってくる。


「まあ、そういう事ならよろしく頼む。ただ、疑う訳じゃないが確認はちゃんとさせて貰うぜ」

「疑って無いのに確認するのかい?」

「じゃあ訂正するわ。死ぬほど胡散臭いからちゃんと確認するぞ」

「しょうがないな~、まったく。あ、ニカちゃんもここに座りなよ」


そう言うとパーは空いてる自分の隣の椅子を引き、手招きしてニカに促す。

まあニカだけ立たせてるのもあれだし別にいいのだが、パーにやられると何か腹が立ってしょうがない。


「いいんですか?」

「勿論。これから一緒に王墓を攻略する仲間なんだからさ。さ、遠慮しないで座った座った」

「あ、ありがとう御座います!」

「いや、まだ連れて行くと決まった訳じゃ……」

「王墓内はトラップゾーンも多いから、盗賊は必須だよ。それとも力押しで抜けるのかい?」


トラップが有るのなら、確かに罠の発見や解除要員として盗賊は必要だろう。

だからと言って、最低限の自衛すら出来無いのでは話にならない。


「ニカ、悪いけどちょっとレベルを調べさせてもらうよ?」

「え?あ、はい?」


覗き見サーチを使用しニカのレベルを調べる。


盗賊Lv40か…思ってたよりレベルは高いな。


「それでどうだい?彼女はお眼鏡にかなったかい?」


「うーむ」


だがよくよく考えてみたら、レベルが分かっても盗賊系の根本的な強さを知らないので意味がなかった。

召喚みたいにクッソ弱い可能性だってある。

とはいえ、調べさせて貰うぞと偉そうな事を言っておいてやっぱりよく判りませんでは格好悪い。


そこで俺は決断する。


「ああ、問題なさそうだ。よろしくな、ニカ」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「ふふふ、よろしくお願いしますね」

「よろしくね!ニカちゃん!!」


レベルが40もあるし、30階層ぐらいまでなら大丈夫だろう。

たぶん。

きっと。


テキトーな判断を織り交ぜつつも、こうして新パーティーは結成されたのであった。

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