第18話 丸投げ

「ああ、それはそう思っても仕方ない。何せ僕の力は結界の維持に相当持ってかれちゃってるからね。力が弱くなったせいで、僕の存在を感じられなくなってそう判断したんだろう」


成程。

それで霊竜は居なくなったと言ったのか。


「あなたも結界に関わってるんですか?」

「勿論だとも。いくら何でも、アレを彼女一人で封印し続けるのは無理があるからね」


彼女?彼女って誰だ?

結界は神様が維持してるはずだけど?


「あの?彼女って?俺は神様に言われてここに来たんですけど?」

「うん、だから彼女だろう?」


どうにも会話が噛み合わない。

もう少し具体的に話をした方が良いようだ。


「あの、俺が言ってる神様は白い毛玉の方なんですけど?」

「ああ!」


何かを思いついたのか、大きな声を上げて大精霊はテーブルの上でぴょんと跳ねる。


「それは彼女の一部、つまりは分身だね。彼女自身は完全に結界と一体化しているから、分身を使って君と接触しているんだろう」


最初会った時、こんな毛玉が神様かよと少し思っていたのだが。

成程、分身だった訳か。


あれ?でも声は……


「神様かなり声が低かったんですけど?本当に女性なんですか?」

「毛玉が可愛らしい声を上げたら、威厳も何も無いだろう?だから低い声に変えてるんだろうね」


確かにあの見た目で可愛らしい声まで出されたら、ファンシーなマスコット的な物にしか見えない。

もっとも、毛玉の時点で威厳も何もあったもんじゃない気もするが。


「さて、それじゃあ本題に入ろうか。君が力を得る為に、ここに来たのは知っている」

「知ってたんですか?」

「ああ、一応彼女とはやり取りをしているからね。もっとも、彼女が外に飛ばせる情報エネルギーはごく微量でしかない。だから情報は、かなり断片的な物だけど」


伝わってるなら話が早い。

俺は身を乗り出し、テーブルの上に両手を付き頭を下げる。


一瞬土下座も考えたが、ケロとリンが見ている前で流石にそれは憚られた。


「お願いします!仲間を助ける為に俺に力を貸してください!」

「まあまあ頭を上げたまえ、君の気持ちは分かる。私としても力を貸してやりたいのは山々なんだが、それは凄く危険な行為なんだ」

「危険って何がですか?」


力を貸す事の何が一体危険なんだろうか?

ひょっとして。俺が力を悪用する事を危惧しているのだろうか。


「ああ、言っておくが別に君が力を悪用する様な悪人だとは思っていないよ。君は彼女に……いやまあこの話はいい。危険というのは、結界の中やこの世界の事だ」


なぜ自分に力を貸す事が世界の危険につながるのか?

ますます訳が分からず、俺は混乱する。


「さっきも言ったけど、僕は結界の維持に大きく力を裂いてる。世界の維持と結界の維持でいっぱいいっぱいなんだ。この状態で君に力を託せば、近いうちに結界は崩壊する事になる。間違いなくな」

「それって封印されてる邪悪が蘇るって事ですか?」

「そういう事」


……そんな馬鹿な


神様は皆を助ける為に力を借りろと言っていた。

だのに力を借りたら結界が無くなるんて……神様は状況が分かっていないのだろうか?


それとも、分かっていて俺に無駄な行為をさせているというのか!?


邪悪を復活させるなどという選択肢は。あり得ないだろう。

つまり彩音達は助けられない。

そう考えると、頭からすぅっと血の気が引いていく。


「結界の維持は、どちらにせよそう長く持たない。そう彼女は踏んだんだろうね。だから時間を止めるなんて無茶をしてまで、君を此処によこしたんだろう」

「だったら……」

「長く持たないと言っても、後2~300年ぐらいは持つさ。その間に、何か対策が生まれるかもしれない。その可能性を潰すだけの価値が君にあるかい?君が――」


大精霊は一旦言葉を区切り、先程までの軽い口調ではなく重く静かな声で俺に問いかける。


「君がこの世界を救ってくれるとうなら、僕は喜んで君に力を託そう。出来るかい?」


そう言われてどきりとする。


おれが……世界を救う?

果たしてそんな事が可能なのだろうか?


神が全てを賭けて封印する邪悪。

俺にそれが倒せるのかと問われれば、間違いなくノーだ。


だが、彩音ならひょっとしたら……


俺には無理でも彩音ならという思いはある。

だが、自分で出来もしない約束を果たして口にしていいものかと迷う。

それに彩音ありきの約束は、当然あいつにも重い十字架を背負わせる事になるだろう。


負ければ世界は滅びる。

そんな重しを、俺の勝手な判断であいつにかけて良いのだろうか?


だがこのままでは仲間達は確実に全滅する。


仲間を死なせたくない。

死なせたくはないが……

答えの出ない迷いに苛立ち、俺は爪を噛む。


「たかしさん!私はたかしさんを信じます!だからたかしさんも自分を信じてください!」


そう言い。

リンは俺の手を取って、優しく握りしめる。


リン……


その眼は真っすぐで、一点の曇りもない。

心の底から俺の事を、信じ切っている目だ。


「リン……俺……」

「たかしさんはヒーローなんです!だから皆を!世界を守りましょう!あたしも出来る限りの事をしますから!!」


ヒーローか、俺はそんな柄じゃない。

けどあいつなら……

あいつならきっと……


俺は彩音の姿を思い浮かべる。


強く。

物事に動じず。

努力を怠らず。

最後まであきらめない不屈の精神の持ち主。


その姿はまさに自分が思い浮かべるヒーローそのものだった。


だから俺は決断する。


「そうだな!一丁やってやるか!!」


神様も彩音を信じているからこそ、俺を送り出したはず。


神様が信じたなら、可能性は十分にあるって事の証明だ。


だったら俺も彩音を信じて――――丸投げだ!


正に他力本願極まれり。


「おう!世界を救う戦いには、俺もちゃんと呼べよ!」


ガートゥが席から立ち上がり、どんと胸を叩く。


ガートゥ……ごめんお前は微妙だ。

だって召喚枠2つ使うし。


ガートゥを呼ぶかどうかは状況次第といった所だろう。

とりあえず気持ちだけもらっておく。


「ケロもー!ケロも手伝うー!!」

「ありがとう、ケロ」


ケロは良い子だ。

この子の為にも、絶対勝たなきゃな。


頼んだぞ彩音!!


「良い目だね。覚悟の決まった強い意志の籠った目だ」


確かに覚悟は決めた。

但しそれは彩音に丸投げするという覚悟だが。

果たしてそんな覚悟で、良い目になるものだろうか?


案外大精霊様も盆暗ぼんくらなのかもしれない。


「大精霊様、必ずや世界を救って見せます!」


彩音が!


「だから俺に力をお授けください!!」

「いいだろう。期待しているよ」


この日俺の双肩、ひいては彩音の双肩に世界の命運が乗る事となった。

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