第55話 一撃必殺
俺は体をのけ反らせ、
腹の中で燃え盛る黒い炎。
その破壊のエネルギーを俺は目標めがけて一気に噴き出した。
「
放たれた破壊の奔流が空間を引き裂く。
遥か遠方の廃墟に佇む厄災が、その周りに群れる数千もの無数の配下が、黒い息吹に包まれ瞬く間に燃え尽きる。
「こいつはまた凄い威力だねぇ……」
「彩音のグングニル並み、あるいはそれ以上か」
「やるじゃねぇか!俺の主だけはあるぜ!」
「やりましたね!」
「ふふ、流石たかしさんですわ」
俺の必殺の一撃に、仲間が次々と称賛の言葉を口にする。
「ふん!あれほど強大な竜と融合できるなら、私にだってそれぐらいの事は出来る!」
約一名を除いて。
まあ言ってる事は間違ってはいないのだが、厄災を一撃粉砕したんだから、こういう時位褒めろよな。
それが出来ないなら、せめて黙っててくれ。
しかし厄災と戦うに当たって皆を召喚したわけだが、まさか一撃で終わるとは。
彩音が
まあこれも全てパーのお陰だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こいつが厄災?」
パーが魔法で空中に投影した巨大スクリーンに、厄災の姿が映し出される。
それは以前、ティーエさんから話を聞いた、配下を無限に再生されると言われている厄災だ。
しかし――
「どう見ても人間にしか見えないんだが……」
驚くべき事に、スクリーンに映し出された厄災の姿は、可憐な少女の姿をしていたのだ。
「間違いなくこの子が厄災だね」
その全身は光沢ある青いボディスーツに包まれており、吸い込まれるような青い瞳に、青い髪を持つ見目麗しい少女。
それが今回の騒動を引き起こした厄災だと、パーははっきりと断言する。
そしてその言葉を裏付けるかの様に、大小様々な無数のゴーレムが彼女の周りを取り巻いていた。
「人型の魔物ですね」
人型の魔物。
そう聞いて、ヴラドの事を思い出す。
姿形こそ人と変わらなかったが、その強さはかなりの物だった。
スクリーンに映し出される厄災は可憐な少女の姿をしているが、それを考えると、油断できない相手と考えた方がよさそうだ。
「くっそ、彩音の奴め……」
この場に居ない
厄災戦の要だというのに、あの糞アマは……
ダメ元で
何やってんだよ……まったく。
「やっぱりだめかい?」
「ああ、全く何してやがるのやら」
深夜帯である事から眠っている可能性も考えたが、あいつが魔法の発動に気づかずグースか眠りこける姿が思い浮かばない。
恐らく意図的に無視しているのだろう。
「彩音さんが居ないとなれば、厄災と戦うのは少々無謀になりますね」
撤退の二文字が頭を過る。
時間を置けば
その為、出来るだけ速やかに厄災を排除しなければならないのだが……
「大丈夫です!私達愛の戦士ならきっと勝てます!」
んな訳ねぇ。
根拠がお花畑過ぎる。
そもそも愛の天使はお前だけだ。
勝手に達を付けるな。
レインとパーのカップルなら、辛うじてフラム寄りにカウントする事も出来るが、他の人間には色恋などない。
それは断言できる。
因みにティータは変態枠なので除外しておく。
「私はたかしさんを信じます!たかしさんならきっと倒せます!」
フラムのやる気に触発されたのか、リンまで馬鹿な事を言い出す。
エルフという種族は頭のねじでも外れているのだろうか?
怖い奴らだ。
「ふん!臆病者め!戦う前から諦めるなど愚の骨頂!御安心ください姉上!姉上は不肖、このティータめが必ずや守り抜いて見せます!例えそれが何者であろうとも!」
ああ、もう一人いたな。
エルフでもないのに痛い奴が。
「王墓の時の様に、転移が封じられたらどうする気だ。そうなったら試した時点でゲームオーバーもあり得るんだぞ?」
転移さえ出来るなら、一か八か試してみるのはありだった。
だが俺の脳裏には、最初に王墓で厄災と出くわした絶望的な状況が焼き付いている。
画面に映る厄災があれと同じ原理を再現しきたらと考えると、無茶な賭けをする気には到底なれない。
「兎に角。暫く様子を見て、それでも彩音が応じてくれない様なら撤退するぞ」
「そんな!こうしている間にも魔法国の人々はその命を脅かされているんですよ!?」
フラムの気持ちは分かる。
俺だって助けられるなら助けてやりたい。
だが自分達の命と、見ず知らずの多くの人々の命。
どちらを優先するかなど決まり切っていた。
そもそも自分達が負ければ諸共である以上、天秤にかける意味自体ない。
それに何より、俺にはこの世界を救う――正確には彩音なのだが――大義名分がある。
ここはやはり――
「ちょっと案があるんだけど、いいかい?」
俺が口を開くよりも早く、それまで黙っていたパーが言葉を発する。
「案ってのは?」
「リンちゃんから聞いたんだけど、邪竜と霊竜って凄く強いんだよね?だったら極大召喚で呼び出して融合しちゃえばいいんじゃないかい?」
確かにその2竜は強い。
邪竜に到っては覚醒した皆よりも確実に上だろう。
ヘルを呼び出し、ブーストと覚醒をかけて融合する。
確かにそこまでやれば厄災相手でも過不足なく戦える事は間違いない。
だがその案には一つ。
いや、二つ大きな欠点がある。
「極大召喚で呼び出される竜は、召喚する際の消費MPで強さが決まるんだ。残念ながら俺のMPじゃ本来の半分も力を発揮できない。それに極大召喚にはMPが丸々持っていかれちまう。例え万全の状態で呼び出せてもその後が続かない」
例え呼び出せても、覚醒や融合が出来ないのでは意味が無い。
俺のレベルが彩音並みに高ければパーの出した案にも現実味があったのだが、如何せん俺では
「それを踏まえた上での案さ」
パーは意味も無くマントを翻す。
熱い瓶底眼鏡の淵を手で摘まんで持ち上げ、胸を張りドヤ顔で言葉を続けた。
「実は大賢者である僕には、MPを譲渡するスキルがあってね。しかも相手の限界を超えて付与する事も出来るんだ」
「それってつまり……」
「そ。上手くすればフルパワーの極大召喚を行った上で、諸々の条件を満たせるって寸法さ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
強烈な一撃をぶっぱして、駄目そうなら転移で撤退の予定だったが上手く行ったようだ。
「まあ、とりあえず終わってよかった。これで――んがぁっ!!」
突然の衝撃が全身を貫く。
何が起きたのかも理解できず、成す術も無く吹き飛ばされた俺は頭から地面に激突し。地中に深々と体が突き刺さる。
≪主!敵だ!≫
脳内にヘルの声が響き渡る。
その声を聴き、俺は勢いよく起き上がって地中から抜け出した。
上空を見上げると、そこには――
「冗談だろ。あれを喰らっても死なないってのかよ……」
先程
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます