第12話 大精霊
「主よ、当てはあるのですか?」
「霊竜は大精霊って聞いた事あるか?」
「勿論知っています。この世界を支えておられる、神にも等しき存在ですから」
「力を得る為、大精霊に会えって。そうルグラントの神様に言われて、俺は外の世界に来た」
大精霊の協力を得る。
恐らくそれが彩音達を救う為の唯一の可能性だ。
あの瞬間。
彩音と俺が厄災に飲み込まれそうになったあの時。
世界の時間は止まり、俺は神様の元へと呼び出された。
そこで初めて、ルグラントが邪悪な物を閉じ込める為の封印の中である事。
封印された邪悪の影響で魔物が生れ、それを放置すれば封印が破けて復活してしまう事。
そしてそれを阻止する為に異世界の人間を送り込み、魔物を退治させていたと教えられる。
▼
「ええ!?最初言ってた事と大分違うじゃないですか!?」
「すまないね。余計なプレッシャーを与えたくなかったのだ」
まあ確かに、世界の命運が俺の肩にかかってるなんて言われたらあれだわな。
人によっては使命感に燃えるのかもしれないが、俺にとってそれはストレスの種にしかならなかっただろう。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。
「神様は、俺達を助けてくれるんですよね?」
「一応そのつもりだよ」
「だったら皆を――」
「それは無理だ」
「何故です!?世界の時間を止めるなんてとんでも芸当が出来るんなら、皆を此処に呼んで助けるぐらいわけないでしょう!?」
出来ないわけがない。
現に俺はここに呼び出されているのだから。
「ここはね、封印の中なんだよ」
ルグラントが封印の中の世界だというのはさっき聞いた。
正直何を言いたいのか測りかねて、眉根を顰める。
「ちょっとわかり辛い言い方だったね。封印の中の
成程。
自分の今居る真っ黒な空間が、どういった場所なのかは理解した。
だが皆をここに連れて来れない理由には繋がらない。
そう考えていると、神様が言葉を続ける。
「この世界の存在は、封印を出たり入ったりは出来ないんだ。それをしようとすると、封印に穴を開ける必要がある」
封印に穴を開けるのは、余りにも危険すぎる。
神様はそう言葉を続けた。
「つまり、封印を自由に行き来できるのは基本的に異世界の存在だけなんだ」
「それじゃあ俺と彩音以外は……」
「それなんだが、彩音君もここに呼び出す事は出来ない」
は!?
何言ってんだ、この神様は?
先程、異世界人なら封印を通れると説明したばかりだ。
にもかかわらず、彩音は呼び出せないという。
明かに矛盾した発言に唖然とする。
「彼女は力が強くなりすぎていてね。そのせいで、彼女をもうここに引っ張って来る事が出来ないんだよ」
「えぇ……」
彩音の強さには散々お世話になったが、まさかここでその強さが仇になろうとは……
このままでは自分以外は全滅だ。
だが神様は救ってくれると言った。
一応と付いていたのが気にはなるが、何かしてくれる気はあると考えて間違いないだろう。
だとしたら考えられるのは……
「皆を逃がす事が出来ないなら、それじゃあ厄災を倒してくれるって事ですか?」
「おしい!50点!」
何が惜しくて、何が50点なのか。
正直仲間の命が危険な状況で、ふざけられるのは流石に相手が神様でも腹が立つ。
そんな俺の視線に気づいたのか、咳払いをして真面目な表情?で言葉を続ける。
「残念ながら、今の私に厄災を倒すだけの力はないんだ。封印に力の殆んどを使ってしまってるからね。だから君に倒して貰う」
「えっとすいません。言ってる意味が分からないんですけど?」
そもそも厄災を倒せる力があるならここに呼ばれてはいない。
彩音すら手も足も出ない相手では、逆立ちしたって勝てっこないだろう。
「君には外の世界で力を手に入れてもらう」
「外の世界……ですか?」
「ルグラントの外にも世界は広がっている。そこで大精霊達に会って、厄災を倒すための力を手に入れるんだ」
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神様が言うには。
大精霊達は、神様の抜けた穴を埋めるために大きな負担を強いられていて、俺に託せる力の量が限られているらしい。
だから仮に力を貰ったとしても、厄災に勝てる保証は無いそうだ。
――あくまでも可能性が生まれるだけ。
だがそれ以外に術が無い以上、俺はその可能性にすがるしかなかった。
「霊竜は大精霊の居場所って知らないか?」
神様には封印の外の様子がほとんど分からないらしく、とにかく頑張って探してくれと言われていた。
「ここより遥か北、煉獄と呼ばれる死の山があります。かつてはそこに火を司る大精霊様がいらしたのですが」
「かつて?今は居ないって事か?」
「ええ。500年前の天変地異の際に何処かへ移られた様で、今はもうそのお力を感じる事は出来ません」
やっぱそう簡単には見つからないか……
神様がルグラントの時間を止めていられるのは、1年が限界だ。
その為、俺は1年以内に大精霊を見つけなければならない。
一体見つかればその伝手で一気に居場所が分かるんだろうが、その最初の一体を見つけるのが難しいんだよな。
「力になれなくてごめんなさいね」
「いや、構わないさ。それより邪竜の方は?」
「私を見失い。一旦巣に帰ったようです」
ここは霊竜たちが住処にしていた場所よりさらに北にある、切り立った山々の谷間の渓谷。
その渓谷にある大きな洞窟の中だ。
この洞窟は霊竜の一族が万一の時に備えて遥か昔に用意しておいた洞窟であり、洞窟には一族の力が外に漏れ出ないよう結界が張られている。
俺達は結界の張られたこの洞窟の中で邪竜をやり過ごしていた
「もう送還して貰っても、恐らく大丈夫でしょう」
「わかった」
「お母様!ここにずっと隠れていようよ!」
「それがいいわ!そうしましょう!」
霊竜の子供達が、口々にその考えに賛同する。
「ごめんなさいね、そういう訳にはいかないの」
残念ながら、この洞窟に張ってある結界では霊竜の強すぎる力を完璧に隠蔽するのは難しい。
長居すれば邪竜に居場所を特定されてしまうだろう。
「そんな!たかし何とかならないの!?」
出来なくはない。
俺の召喚によって呼び出される霊竜はMPの都合上、本来の霊竜よりも遥かに能力が劣る。
その状態でなら、結界によって力を完全に遮断する事は可能だ。
だがそれを実行するには、24時間毎に俺が結界内で霊竜を召喚し続けなければならない。
限られた期間で大精霊を探さなければならない身としては、とてもではないがそんな余裕はなかった。
「無理を言ってはいけません。彼にはやらねばならない事があるのですから」
「お母様」
「1年以内の辛抱です。それまで窮屈でしょうが、ここで我慢しているのですよ」
霊竜の子供達が、別れを惜しんで母親に体を摺り寄せる。
竜にとっての親愛の証である額合わせ。
それを子供達全てと終えた霊竜は、俺の目の前に顔を降ろした。
「私の額に手を」
「へ?」
「私の力の一部を貴方に託します。どうか役立ててください」
「邪竜から逃げなきゃならないのに、力なんか俺に渡していいのか?」
「ほんの少量ですから、気にせず受け取ってください」
「わかった。感謝するよ」
霊竜からの気遣いに感謝しつつ、手を伸ばしその額へと触れる。
触れた瞬間、全身に静電気が流れるような感覚が走った。
手を離しステータスを確認して見ると、レベル自体は変化していなかったが、召喚覚醒という新たなスキルが加わっていた。
条件次第で召喚が覚醒する?
名前からして、発動すれば召喚が強化されるのは分かる。
だがスキルの発動条件が載っていない為、正直使い勝手は不明だ。
「スキルが増えたよ。ありがとう」
「私の力が少しでも主の役に立てば幸いです」
「それじゃあ。頑張れよ、霊竜」
「信じていますよ。主」
俺は霊竜を送還し。
ガーゴイルを召喚してリンの元へと向かう。
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