第40話 帰還魔法
「なに!馬鹿な!」
ヴラドが目を見開き、驚愕の表情でこちらを見る。
どうやらリンの支配権が失われた事に気づいたようだ。
「馬鹿は貴様だ!」
彩音はヴラドの隙を見逃さず回し蹴りを顔面にぶちかます。
しかし彩音の回し蹴りが綺麗に決まったにもかかわらず、ブラドは吹き飛ぶ事なく仰け反りながらも堪える。
そしてその状態のまま足首を掴み、彩音を出口とは反対方向へ投げ飛ばした。
やはり彩音の攻撃は殆ど効いていない様だ。
「どうやら、君の事を少々見くびっていた様だな……」
「へっ。これでいつでも逃げ出せるぜ!」
大声で逃亡宣言などかっこ悪い事この上ないが、これで少しでもヴラドを動揺させられるなら御の字だ。
「逃げたければ好きにすればいい」
「何!?」
「くくく。
ヴラドがさもおかし気に口を開く。
奴の言う通りだ。
全員で逃げるには彩音に触れる必要がある。
だが奴はそれを許してはくれないだろう。
ハッキリ言って、近づく事自体が命取りになる俺に二人の戦いに割って入るような真似は出来ない。
唯一の方法があるとすれば、召喚を近づかせてリプレイスで居場所を交代する事ぐらいだが……召喚を下手に近づけたら、流石に何かあると感づかれて真っ先に潰されてしまうだろう。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「大丈夫。何とかなるって」
笑いながらリンの頭を軽くポンポンと叩く。
勿論、ただの気休めだ。
今のままでは勝ち目は絶望的だった。
ドラゴンに止めを刺した彩音のあのでたらめな大技なら、ブラドを倒せる可能性自体はあるだろう。
しかしこれだけの接戦で、あんな大技を使う隙を作れるかと言えばノーだ。
何か手を打たなければ不味い……
だが俺の呼び出す召喚程度では、物の数にも入らないだろう。
瞬殺されるのが落ちだ。
それにもし仮に当たったとしても、彩音の拳に耐えている時点でダメージはほとんど期待できないだろう。
雑魚相手ならそこそこ戦える様にはなったが、結局ボス戦ではたいして役に立たない我が身が恨めしい。
「くそっ……」
考えれば考えるほど、俺には
ちらりとリンの方を見ると、不安げにこちらを見つめていた。
死んでヴァンパイアになっただけでも辛い事だろうに、この上自分のせいで死人が出る様な心の傷を負わせたくはない。
リンの為にも、何としてでも全員で生き延びなくては……
諦める訳にはいかない。
だがどうする?
もう一度落ち着いて考える。
戦っても勝ち目はない。
転移の為に彩音と接触するのも難しい。
俺とリンだけで脱出し、彩音には自力で封印の外に脱出してもらう――それが出来れば苦労はない。
やはり状況は絶望的……ん?封印?
「ヴラドって、封印されてるんだよな……」
奴は封印によってこの場所から出る事は出来ない。
それは即ち、封印の力がブラドを上回ってるという事だ。
……
彩音に近づくのは無理だろう。
けど、ブラドになら触れられるんじゃないか?
ブラドもまさか自分が対象になるとは思っていないはずだ。
強力な封印の干渉を受ければ、ひょっとしたら大きなダメージを与えられるのではないだろうか?
……やってみる価値はあるかもしれない。
倒すのは難しいだろうが、彩音逃走の隙を作れれば十分だ。
問題があるとしたら、封印をスルーしてブラドを外に連れ出せてしまった場合だが……
邪悪な意志と強大な力を持つ魔物を自由にする。
下手をしたら、歴史に名が残るレベルの大戦犯になるだろう。
とはいえ、あんな化け物を封印してるぐらいだ。
確証はない。
だが、このまま彩音がやられるのを指をくわえて見ているなんて選択肢話だ。
ならやるしかないだろう。
俺は意を決しハーピーとミノタウロスを召喚する。
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