第72話 フラグ?
「たかし、話がある。少しいいか?」
「へ?」
本日の探索を終え、さあ解散となった段でレインが声をかけてきた。
俺に一体何の用だってんだ?
レインに話があるとか言われると、体育館裏に来いよ的な展開しか思い浮かばないのだが。
「本日は閉店となっておりますので、また明日のご来店をどうぞ」
「飯は奢ってやるからついてこい」
無視された。
せっかく険悪な雰囲気を避けるべく、ウィットの効いた断り方したのに無視すんなよな。
一人で勝手に歩いて行くレインを無視して帰ったら、どんな顔をするのだろうか?
そんな意地悪な想像をするが、止めておく。
明日からの雰囲気が最悪になるのは目に見えているからだ。
「飯奢ってくれるらしいから、リン達は俺抜きで晩飯食っててくれ」
「はーい!」
「たかしさん!ファイトです!」
何をだよ?
フラムの理解不能な応援はスルーし、俺は小走りにレインの後を追う。
▼
「で?話ってなんだ?」
レインに連れられて訪れたのは、高級レストランだった。
しっかりとした大きな門構えの店で、中に入ると全席個室という高級っぷりだ。
店員の案内で最奥の部屋に通され、コース料理を注文し終えた所で、俺はテーブルの向かいに座るレインに尋ねた。
「…………」
話があるって呼んどいてだんまりかよ。
よっぽど話し辛い内容なのか?
「まあ別に飯の後でも構わないけど」
「パマソー・グレンの事だ」
「まさかとは思うけど、ひょっとして恋愛相談か?」
いやそんな馬鹿な。
まさかねぇ。
とは思いつつも、口に出して聞いてみる。
「こんな事を相談できるのはお前ぐらいだからな」
何でこいつは俺になら相談できるって思ったんだ?
殆ど喋った事も無い相手に恋愛相談など、交友関係が狭いにも程がある。
友人が居なさそうとは思っていたが、本格的に友達が居ないようだ。
「お前には恋人がいると、フラムから聞いた。だからお前に彼女との事を相談したい」
あんの糞アマ……あれ程デマをばら撒くなって言ったのに。
フラムには何を言っても照れているだけだと取られてしまう為、誤解を解くのは諦め、拡散しない様に懇願しておいたのだが。
全くの無駄だったようだ。
だが考える。
レインが自分を目の敵にしていたのは、恋敵として見ていたからではないだろうか?そう考えると、今までのレインの自分への刺々しい態度も納得できた。
これは誤解させたままの方がいいやもしれん。
所詮レインとはここだけの付き合いだ。
誤解されたままでも大した問題は無い。
しかも交友関係が残念な男である事から、言い触らされる心配もなかった。
ならばこのまま誤解させておいた方が扱いやすい。
恋愛相談の方は、無難そうな答え出しときゃいいだろう。
「彼女に死んだ恋人がいるのは知っているか?」
「死んだこいびとぉ?」
それってセールス用の出鱈目じゃなかったっけ?
確か貴婦人の涙の。
「ああ、彼女はきっとまだその恋人の事が忘れられないんだろう。だから王墓探索で蘇生薬を手に入れようとしているんだ」
全然違うと思います!
このまま放っておいた方が面白そうな気もするが、訳の分からん誤解を抱いたままなのは少しかわいそうな気がする
雰囲気が悪いとはいえ、奴とは同じボッチ同士だ。
少しぐらいは協力してやってもいいだろう。
勿論、こちらに被害が及ばない範囲の話ではあるが。
「それって貴婦人の涙のセールストークだろ?あれ、出鱈目らしいぞ?」
「なに!それは本当か!!」
レインが席から勢いよく立ち上がり、驚愕の瞳で此方を見つめる。
余りの驚き様に逆にこっちが驚かされ、思わず椅子から転げ落ちそうになってしまった。
「ああ、まあ本人が違うって否定してたぜ」
本人が俺達に嘘をついている可能性もあるが、その可能性は限りなく低いだろう。
……あの身なりじゃ、恋人なんて絶対無理だろうし。
「そ……そうか、嘘だったのか」
レインが嬉しそうに席に着いた。
気分が上がったり下がったりと、忙しい奴だ。
まあそれだけパーの事が好きだという事なのだろう。
……あんなのの何処がいいんだろうか?
謎だ。
「よし!決めたぞ!」
「何を?」
「王墓探索が完了したら……俺は彼女にプロポーズする!」
レインが決意表明を行う。
その眼は真っすぐで、一点の曇りもない。
その真摯な眼差しから、この男の本気が伝わって来る。
レイン、お前も……あほの子だったんだな……
付き合ってすらいないのにプロポーズとか、正にアホの子である。
俺は憐憫の眼差しでレインを見つめた。
だがそんな俺の様子などお構いなしに、レインは話を続ける。
「俺は彼女と結ばれたい。だからたかし!俺に協力してくれ!!」
「わかった!まかせろ!!」
レインの頼みに、俺は力いっぱい返事を返した。
成功する確率は皆無と言っていいだろう。
だがあほの子が必死に頑張ろうとする姿を見て、ついつい応援したくなってしまったのだ。
努力は決して無駄にならない、たとえ失敗しても次の成功へと繋がる筈だ。
そんな気持ちで俺はレインを応援する。
ん?でもあれ?
王墓踏破後にプロポーズってあれなんじゃ?
フラグ……そんな嫌な単語が頭の片隅を過る。
まあきっと大丈夫だろう。
そう思い込み、俺は深く考えるのをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます