第73話 いざ30層へ
「この下にお母さんが……」
大きな下り階段を前にニカが呟く。
此処を下れば、彼女の母親達が全滅したと言われる30層へ到達する事になる。
「ニカちゃん……大丈夫?」
リンが心配そうにニカの肩に手を置き、張り詰めた表情のニカに声をかけた。
「ん、大丈夫。ちょっと緊張しただけだから。ありがとう、りんちゃん」
ニカは、肩に置かれたリンの手を握りながら笑顔で答える。
王墓探索がスタートしてから、既に10日以上経過している。
その間、リンとニカはほぼマンツーマンの形で行動していた為か、二人は仲のいい友人関係を見事に構築していた。
微笑ましく思うと同時に、ボッチの眼には彼女達の関係が羨ましく映る。
一応俺も、レインとの友人関係は築けている?筈なのだが。
どうも俺の描いていた友人関係とは違っていた。
それは放課後や休憩時間に楽しく談笑するといった通常の友人ではなく、戦場で背中を任せ合うような、どちらかと言えば戦友に近い関係だ。
戦いながらではあるが、奴に剣術や戦いの指南を受けている事を考えると、どちらかと言えば子弟に近いのかもしれない。
まあ要は、言葉ではなく拳や剣で語り合う仲という訳だ。
「さてそれじゃあ、下に降りる前にマニュアルを確認しようかい。最後のね」
パーにマニュアルを読むよう勧められたので、フラムが手にしていたマニュアルを開く。
これを開くのも、これが最後になるだろう。
残念ながら、マニュアルに載っているのは30層までだった。
マニュアルは王墓に潜入した直後は俺が携帯していたが、隊列が変更されて、トラップゾーン以外俺とレインで前衛を務める様になってからはフラムに所持して貰っている。
トラップゾーンに関しては、相変わらず俺は最後尾だが。
「ふむふむ、分かってはいたけど。30層の情報はやっぱり断片的な物だねぇ」
パーが、フラムの手にしたマニュアルを横から覗き込みながら声を出す。
「30層に潜入できたのは、1パーティーだけだからな」
レインが言う通り、冒険者たちが到達している階層は30層までと言われている。
しかもそのパーティーは1人を残して全滅してしまっていた。
その為、30層の情報は断片的な物しか記載されていない。
ここまで順調に進んでこれたのは、マニュアルのお陰だ。
その恩恵が受けれなくなる以上、ここからの探索は相当な時間を要する事になるだろう。
「何々、出現する魔物は、と…………え!?嘘だろ!?」
フラムのマニュアルを横から覗き込み、内容を確認する。
そしてそこに書き込まれたモンスターの名前を見て、思わず大声を出してしまう。
「へぇ、たかし君はこの魔物を知っているのかい?僕は初めて目にする名前なんだけど?」
パーが感心したように言ってくる。
知っているも何も。
俺はこいつを呼び出す事が出来る。
だが何故だ?俺の知るそのモンスターはとてつもなく弱いのだ。
とてもではないが、30層に配置されるようなレベルのモンスターではない。
というか、ニカの母親が所属していた大型パーティーはこいつらにやられたって事か?
いやいやいやいや、無い。
それは無い。
「それで、どういった魔物何だい?この“ゴブリン”って魔物は?」
俺の知る限り最弱のモンスター、ゴブリン。
そのゴブリンが、30層の出現モンスターとマニュアルには記載されていた。
これ、絶対何かの間違いだよな?
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