第37話 幼馴染を囮に使うな!
「それで?何故私達をここへ
「誘きだした?」
彩音の言葉が理解できず、思わず口に出る。
「リンはアルバート邸であった時点で既にヴァンパイアだった。私達に接触してここへ連れてきたのには理由がある。そうだろう?」
「成程、最初からお見通しか。つまり騙された振りをして、彼を囮に使ったという訳か。これは一本取られてしまったな」
囮?まさか俺の事か!?
「すまない、たかし。相手の目的が不明瞭だったので囮に使わせてもらった」
彩音は謝りこそすれ、悪びれた様子はまるでない。
人を何だと思ってやがるんだ。
仮にも幼馴染だぞ?
当たり前のように捨て駒扱いされた事に腹は立つが、今はそれよりも……
彩音に向けていた視線をヴラドへと戻した。
「ふむ、仲間割れはしないか……つまらんな」
こいつ……仲違いさせる為に囮の事をわざと口したのか。
老紳士然とした態度に少々油断しそうになっていたが、目の前にいるヴァンパイアはエルフの半数以上を手にかけた凶悪なモンスターだと再認識させられる。
「そうそう、目的だったな。もちろん君達を、正確には彩音・彩堂、君をここへ招待するためだ」
「私に用があったのなら、こんな回りくどい手を使わず直接伝えればよかったものを」
「ヴァンパイアに呼び出されてのこのこと現れる馬鹿などいまい?」
いる。それも目の前に……
彩音なら確実に相手の挑戦を受けて立つだろう。
こいつはそういう奴だ。
「それで?私に何の用だ」
「なに、君の父上への意趣返しだよ。20年前に酷い目に遭わされたからね」
彩音のおやじさん!?
たしか彩音が生まれてすぐに行方不明になったと聞いてる。
この世界に来てたのか?
「本来なら本人へ報復すべきなのだろうが、残念な事に彼への復讐はもはや敵わぬ願いだ」
彩音を見るが、驚いている様子が一切ない。
この世界に父親が来ている事を既に知っていたのだろう。
「八つ当たりで悪いが、君には彼の代わりを務めてもらうよ」
「いいだろう。父の代わりにここでお前を仕留めさせてもらう」
「その強気がいつまで持つか楽しみだ」
瞬間、凄まじい殺気がヴラドから放たれる。
まるで心臓を鷲掴みにされるかの様な、心の芯まで凍えつかせる殺気に体が震えてしまう。
だが放たれたのは殺気だけではなかった。
ヴラドを見ると、先程まではなかった禍々しい黒いオーラの様な物が全身を覆っている。
素人目にもその黒いオーラが危険な物だとはっきり分かった。
こいつ……ひょっとして、ドラゴンよりやばくねぇか?
彩音の方を見ると、険しい面持ちでヴラドを睨みつけていた。
ドラゴン戦ですらリラックスしていた、あの彩音が緊張している。
つまりそれほどの敵という事なのだろう。
こりゃ最悪の場合、逃げる準備をしておいた方がいい様だ。
「たかし!下がっていろ!」
邪魔だと言わんばかりに彩音が大声で怒鳴る。
まあ実際邪魔なのだろう。
情けない話だが、俺に何かできるとも思えないので素直に下がる事にする。
「わかった」
彩音から離れ、入口付近に陣取る。
その時ふと気付いた。
あれ?リンがいねぇ?
ヴラドに気を取られ、完全にリンの事を失念していた。
辺りを見渡すがどこにも姿は見当たらない。
ん?
何か動いた気がして足元を見ると、急に影が膨らみ中からリンが飛び出してきた。
「え!?」
余りの出来事に一切反応できず、リンになすすべもなく後ろ手に拘束されてしまった。
やばい!やらかした!
戦闘で役に立たないどころか、開戦直後に捕まるとか……洒落になってねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます