第38話 契約
「たかし!?」
「くっ……」
「ああ、勘違いしないでくれ。別に人質に取った分けじゃない。君が逃げ出さないようにするための保険だよ、彼は」
後ろ手にリンに拘束された俺を見つめ、ヴラドが愉快気に口を開く。
世間一般ではそれを人質って言うんだよ。
糞爺。
もちろんそう思っても口にはしない。
拘束されている状態で煽っても碌な事にならないのは目に見えているからだ。
彩音、すまん……
心の中で謝る。
俺は完全に足手まといだ。
何とか頑張って抜け出そと藻掻くが、完全に右手を決めら抜け出せそうにない。
「それでは、行かせて貰おうか」
そう宣言するや否や、ヴラドは信じられない速さで彩音へと詰め寄った。
突っ込んできたヴラドに対し、彩音はその顔面へと拳を叩き込む。
だがその拳はヴラドに片手で容易く受け止められてしまう。
片手で受け止めやがった……化け物かよ。
彩音の一撃はドラゴンすらも吹き飛ばす。
その一撃をヴラドは軽々と受け止めて見せたのだ。
やはりこいつはドラゴンよりも強い。
右拳を受け止められた彩音は、左手の貫手で両手を交差させる様に相手の首元を突く。
だがブラドはそれも容易く回避してしまう。
だが彩音は避けられた貫手を払い上げ、ブラドに捕まれていた右手を解放する。
そして跳ね上がった右手をそのまま手刀とし、相手の首筋に叩き込んだ。
入った!!
そう思った次の瞬間、彩音が後方に勢いよく弾かれる。
ここからでは見えなかったが、彩音の手刀が入るのと同時に何らかの攻撃が行われたのだろう。
「大口を叩くだけの事はある。流石彼の娘といった所か。やれやれ、これは骨が折れそうだ。」
「そう思うのなら、さっさと楽になってもいいんだぞ?」
余裕しゃくしゃくのブラドに対し、彩音は少し苦しそうに腹のあたりを押さえていた。
やばい。
押されてるぞ。
本格的に逃げる用意をしなくては不味くなってきた。
だが今の拘束されている状態では、それは難しい。
サーベルタイガーを使って何とかするしかないだろう。
そう考えた瞬間、右肩に痛みが走る。
「たかしさん……召喚を戻してください……」
「りん!頼む!離してくれ!」
「ごめんなさい……無理なんです。命令に逆らえなくて。だから……召喚を戻してください……」
いや駄目だ。
リンが密着している状態だと一緒に移動してしまうので意味がない。
「たかしさん……」
ぎりぎりと右手を捩じり上げられる。
このままだとへし折られてしまう。
「くっ……帰れ」
痛みに耐えきれず、結局俺はサーベルタイガーを送還する羽目に。
くそ!
情けねぇ……
彩音は押されてる。
自分は人質に取られて身動きが取れない。
まさに八方塞がりだ。
何か……何とかする方法はないか。
腕の締め上げが弱まり、痛みが引いたのでフル回転で頭の中を回す。
召喚系は――意味がない。
俺が盾にされるのが落ちだ。
召喚用の強化魔法の類――俺にはかけられない。
仮にかける事が出来たとしても、万力の様に締め上げるリンの腕力をどうにかするのは無理だ
残るは特殊系のスキルだが、やはりこの状況を――いや、まてよ!?
一つのスキルが頭に浮かぶ。
リンの状態次第ではあるが、あれならひょっとしたら……
「なあ、リン。もう元には戻れないのか?」
「私……ここで死んだんです。死んで魔物に変えられて……だから、もう元のエルフには……」
リンの声は震えていた。
顔は見えないが恐らく泣いているのだろう。
「ごめん、嫌なこと聞いちまって」
「私の方こそ……ごめんなさい」
リンは完全に魔物になっている。
悲しい事ではあるが、それは同時に朗報でもあった。
只操られているだけだったなら、完全にお手上げだっただろう。
小さく溜息を吐く。
リンは苦しんでいるのに、それを聞いて朗報だと感じる自分が嫌になる……
だが、これならどうにかなるかもしれない。
俺は思い小声でリンに言葉を投げかけた。
「なあ、りん。俺と契約してくれないか?」
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