第29話 厨二病

俺は背中の翼を羽搏かせ、上空高くから辺りを見渡す。

視界に入るのはゆっくりと流れていく雲と、眩しい空の青だけだ。


「駄目だ。見当たんねぇ」


一人呟き。

眉間に右手の人差し指と中指の爪を当て、超距離通話スマホで念話を行う。


≪リン。大精霊の力は感じられるか?≫


≪ごめんなさい。感じられないです≫


≪そうか、とりあえずそのまま続けて探索してくれ≫


≪はい!期待しててください!≫


眉間に当てていた指を離し、念話を閉じる。

因みに念話を行う際、額に指をあてる必要は特にない。

俺がそれをするのは、何となくその方が雰囲気が出るからだ。


今の俺にはそれが似合う。


俺の両腕は岩の様に荒々しい肌質に変わり、その指先には鋭い爪を備えていた。

背からは石の翼が1対備わり、額には内巻きの角が2本生えている。


召喚融合サモンフュージョン


水の大精霊から力を得て、手にした新たなる力。

その名の通り、召喚との融合を可能とするスキルだ。

俺は今このスキルを使ってガーゴイルと融合し、風の大精霊が目撃された辺りを自らの翼で羽搏き探索していた。


「やっぱフローティングアイの方が良いか」


そう呟くと俺は上空を大きく旋回してから、ゆっくりと高度を落とす。


風の大精霊は大空を自由に飛び回っているという。

その為空を飛べるガーゴイルと融合して探していたのだが、如何せん俺の視力では大した距離を見渡す事が出来ない。

これなら地上からフローティングアイの千里眼で探索した方が良いと判断し、地上へと降下する。


大地に降り立った俺は、ガーゴイルとの融合を解除した。

分離したガーゴイルは不思議そうに首を捻って此方を見つめてくる。


「ご苦労さん、助かったよ」


礼を言って俺はガーゴイルを送還した。

すると驚く事にガーゴイルはいかつい顔を歪め、此方へと手を振って消えていった。


今の……笑ってたんだよな?


怒って手を振るとは考えづらい。

表情が分かり辛いだけであれは間違いなく笑顔の類だろう。


――召喚にも意思がある。


霊竜に言われた事を実感する。

以前のように駒として扱っていたら、きっとこんな反応は返ってこなかっただろう。

考えれば考える程、以前の自分の行動が恥ずかしくなる。


俺は両手で頬を「パン」と強く叩いた。

過ぎた事を落ち込んでいても仕方ない。

俺は気を取り直し、フローティングアイを召喚する。


「力を貸してくれ」


そう頼むと目玉が、というかフローティングアイの全身が縦に揺れる。

頷いてくれたのだろうが、その様を見て神様の事を思い出し、思わず吹き出しそうになってしまった。

神様も頷く時は全身を縦に揺らしていたからだ。


両者の共通点がツボにはまり、笑い声を上げそうになるのを必死にコラえた。

呼ばれた途端、召喚主が笑い転げてはフローティングアイも困惑してしまうだろう。


「ぶふっ……と、とにかく融合を……」


笑いを堪えてスキルを発動させると、フローティングアイの体が輝き、俺の中に吸い込まれていく。

額の辺りがムズムズしたと思うと、一気に視界が広がる。


額のに手をかざすと自分の指がはっきり見える。

ズボンから手鏡を取り出し顔を見てみると、額が縦に裂け、中から新たな目玉がこんにちわしていた。


他にも変化が無いかと見回したが、特に変化は見当たらない。

どうやらフローティングアイとの融合で生じる変体は、額の目玉だけの様だ。


随分変化が小さいな。

まあ全身目玉のお化けになるよりかは遥かに良いか。


しかし……なかなかカッコいいな。


俺の中の厨二心に火が灯る。

手鏡で顔を覗きこんで悦に浸り、折角なのでカッコいいポーズも取ってみた。


「何やってんだ主?」


「ふふぉ!?」


唐突に後ろかかけられた声に驚き、変な叫び声を上げる。

恐る恐る振り返ると、そこにはガートゥが立っていた。


「ななな、なんでガートゥがここに!?」


「何でも何も。主が降りてくるのが見えたから、何かあったのかと思って急いできたんじゃねぇか」


「そ、そうか。俺は只ガーゴイルよりフローティングアイの方が探索に向いてるかと思ってだな。そ、そうだ!さっきのも千里眼の具合を確かめてたんだ!!」


「あのへんなポーズでか?」


ガートゥが訝し気な表情で疑わしそうに聞いてくる。


まあ流石に無理があるよなぁ……


「ま、まあ、あれだ。さっきのは忘れろ!いいな!」


「まあ別にいいけど」


ガートゥが繁々と俺を眺める。

正面だけでは足りないのか、何故か俺の周りをぐるりと一回りして首を捻った。


「額に目玉があるって事はもう融合してるんだよな?その割に代わり映えしねぇな。なんか弱そうだ」


非戦闘要員同士の融合だ。

弱そうだどころか確実に弱いだろう。


「まあ戦闘用じゃないからな」


「そうか。じゃ、またあっちの方を探してくるわ」


「ああ、頼む」


ガートゥは勢いよく駆けだす。

その姿がどんどんと小さくなっていき、額の眼以外で見えなくなる。


よし!邪魔者は消えたな!

俺は満を持して格好のいいポーズの続きを――


≪たかしさん!!≫


え!?なに!?

遊んでるのバレた!?


凄くいいタイミングで念話をかけられたので、実はリンも近くで見てたんじゃないかと戦々恐々の思いで辺りを見渡す。

だがどこにも見当たらない。


≪大精霊さんを見つけました!!≫


なんだ、そっちか。


俺は遊んでいたのがばれてなかった事にほっと胸を撫で下ろす。

皆が頑張って探している中、一人格好の良いポーズを探してたとかバレるのは流石に気まずい事この上ない。


まったく。焦らせやがって。

大精霊見つけたぐらいで大声出すなっての。


……って、大精霊を見つけた!?


≪リン!でかした!直ぐにガートゥを連れてそっちに向かう!≫


俺は急いでガートゥを回収し、リンの元へ向かうのだった。

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