最強の幼馴染は好きですか？～最弱召喚士は寄生して最強へ至る～俺は苦手です

第16話 煉獄山

「これが煉獄山か」

目の前に聳え立つ山は、厳つい名前の割には至って普通の山だった。

死の山等と呼ばれていた為、溶岩があふれ出てくる様な危険な山を想像していたのだが、余りに普通過ぎて拍子抜けだ。

「煉獄なんて物騒な名前だから、溶岩とかがババーンって感じで溢れてるのかと私思ってました」

横に居るリンが頭のアホ毛をクリンクリンさせながら、俺の考えていた事と全く同じ事を口にする。

アホの子と同レベルの発想を思い浮かべていた自分が恥ずかしい。

――結局リンのアホ毛は処理できず終いだ。

俺の腕力では話にならなかったのでガートゥに頼んだが、彼でも駄目だった。

じゃあせめて切ろう。

そう思ったのが、それすらすら無理だった。

……アホ毛恐るべし。

「ママくすぐったーい」

「ホラホラ」

リンが抱っこしてるケロの顎やほっぺのあたりをスリスリしてくすぐる。

あほ毛で。

当初こそ頭上の異物に気づきもしなかったリンだったが、最近では完璧にコントロールを覚えたのか、ケロをあやしたり、挙句はアホ毛で高い高いまでしだす始末。

順応力の高い奴だ。

しかしこんな姿、とてもじゃないがマーサさんには見せられんな。

元に戻すどころか、珍妙な触覚まで生えてきた姿をどう言い訳すればいいものやら。

動きさえしなければ髪型を変えたと主張する事も出来るが。

自由に動き回る時点でその言い訳は通用しないだろう。

まあ新しい力との関連もあるし、アホ毛の処理の事は後回しだな。

状況から考えて、アホ毛がリンの新しい力と関連しているのは間違いない。

下手に処理してしまうと、新しく手に入れた力自体失われてしまう危険性がある。

そう考えると、最初衝撃の余り即除去しようと動いてしまったが、その試みが失敗に終わって良かったと言えるだろう。

――とにもかくにも、アホ毛の事は厄災を倒してからだな。

黒い方のリン、血の殺戮者（ブラッディマーダー）の強さは桁違いだ。

恐らくその強さは彩音と同等か、それ以上と俺は見ている。

今のリンならば確実に厄災との戦いで役に立ってくれるはずだ。

「何難しい顔してんだ？」

「チョット考え事をな」

「考え事ねぇ……ま、難しい顔して山睨んでてもしょうがないしさっさと登っちまおうぜ」

「休憩中なんだし、考え事位ゆっくりさせろよ」

悩み事がなさそうで羨ましい奴だ。

物思いを中断してきた緑の仲間を見上げながら、言葉を続ける。

「しかし本当に良いのか？またグラトルが襲って来ないとも限らないぞ？」

「相当数を減らしてやったからな。少数なら俺がいなくても問題ねぇさ」

あの後、ガートゥは俺達についてきた。

恩を返すため。

と言うのはただの口実で、本命はリンの様に新たな力を習得する為だ。

「言っとくけど、俺についてきたってリンみたいにはなれねーぞ」

「リンは主のお陰だって言ってたぞ？」

リンの変化は、召喚覚醒という霊竜の力で得た新しいスキルの影響だ。

習得直後にリンが新たな力を獲得している事から、ほぼ間違いないだろう。

「召喚を覚醒させるスキルだけど、正直条件が分からん。まあそれ以前に、俺はお前を召喚してねーから付いて来たって意味ねーぞ？」

「なんでだ？リンだって召喚さてるわけじゃねーだろ？」

「リンは常時召喚してるみたいなもんなんだよ」

リンとは固有契約（ユニークコンタクト）で繋がっている。

言ってみれば、俺専属の召喚の様な物だ。

だからこそルグラントの外に連れ出す事も出来た。

本来ルグラントの中の生き物は、封印を自由に出入りする事は出来ない。

それは封印の中で生まれ育った人間は、邪悪の影響を大きく受けている為だった。

だがリンだけは外部の存在である俺と契約した事で変質し、その枷が外れている。

だからこうやって外に連れ出す事が出来たのだ。

「だったら俺も召喚してくれよ。その方が常時力を発揮できるし」

「お前を常時呼んでたら、移動の時に困るんだよ」

ガートゥはどういう訳だか、召喚すると2枠分召喚枠を持っていく。

恐らくは、他の召喚達よりも数ランク上の実力を持っている為だろう。

その為ガートゥを呼ぶと、移動用のサーベルタイガーが1体しか呼べなくなってしまう。

走るガートゥの背中にしがみ付くなんざまっぴら御免だし。だからって一匹に俺とリンとケロの3人じゃ手狭過ぎる。

「まあ、何にしろパワーアップは諦めろ」

「へ！そう簡単に諦めて堪るかよ！一応恩返しもあるし、梃子でもついてくぜ！」

「まあ、そこは別に好きにしてくれていいけど」

断る理由は特には無い。

本人が良いと言うのなら、気が済むまでついて来ればいいさ。

「ところで、何で主はそんなに弱っちくなっちまったんだ？」

俺が弱いのは指輪が無いせいだ。

魔物から生み出される形でドロップしたアイテムの為、残念ながら外には持ち出せなかった。

「ま、あれだ。気にすんな。それとも俺が弱いと不安か？」

「ぬかせ！主が戦えないってんなら、その分俺が暴れてやるぜ！」

リンの力には制限があって、常時発動できない。

護衛代わりになって貰えるのは、なんだかんだでありがたかった。

「頼りにしてるぜ、ガートゥ」

正面切って口にするのは少々照れくさいので、俺は小声で呟いた。

「ん？何か言ったか？」

「なんでもねーよ。それじゃあ行くか！」

俺達は煉獄と呼ばれる死の山へと足を踏み入れる。

大精霊の足跡を求めて。