第68話 敗北
どうやら、急ぐ必要はなかった様だ。
新しいスキル
恐らくあれが邪悪と呼ばれる物だったのだろう。
そして粉々に吹き飛ばしたのは当然、彩音だ。
あいつが口の中に突っ込んで行くのが見えた時は一瞬どうなる事かと思ったが、まさか内側から吹っ飛ばしてしまうとは……
内部から吹き飛ばすとか、全くえぐい攻撃しやがる。
彩音と目が合う。
するとアイツは満面の笑みを浮かべ、拳を高々と突き上げた。
あれ?この絵ずら、以前見た事あるぞ。
そう思ったが、まあ今回は大丈夫だろうと苦笑いする。
ドラゴンの時は顔が半分吹き飛んでいただけだから生きていたが、邪悪に関しては跡形も無く粉々になっていた。
これで生きてたら滅茶苦茶だ。
俺は手を振り彩音へと駆け寄る。
あいつにかける最初の言葉はもう決まっていた。
「勝手に一人で倒すな。俺にもちゃんと残しておけよ」だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
邪悪から解放された私は地面へと着地する。
全身ひりひりするが、まあこれぐらいならどうって事はない。
顔を上げると、たかしと目が合った。
タイミング的には、どうやらギリギリセーフだった様だ。
もしもう少し早く到着していたら、神がきっとたかしを殺してしまっていただろう。
「ったく、急いで来過ぎだ。お陰でどれだけ私が急かされたと思ってるんだ? 」
随分と苦労させられたのだ。
蹴りの一発や二発位叩き込んでも罰は当たらないだろう。
だが今は……
私は右拳を高々と上げ、自らの勝利を見せつけるべくガッツポーズをとる。
それを見てたかしが此方に駆け寄って来た。
最初にかける言葉は「随分遅かったな 」で決まりだな。
そう思い、一歩踏み出そうとして――
異変に気付く。
体がまるで置物の様にその場で固まってしまい、ピクリとも動かないのだ。
一瞬疲労から来るものかとも思ったが、高々と掲げている右手は上がったままで、疲労感はない。
一体何が?
疑問を感じながらも、自分の体を必死に動かそうと藻掻く。
だがやはりいくら力を込めても、指先一つ動かす事が出来ない。
必死に体を動かそうと足掻く私の心の中に、神の声が静かに響いた。
彼女の声は酷く暗く。
まるで全てに絶望したかの様な声だった。
≪私達の……負けだ≫
負け?
何の話だ?
≪君の作戦は悪くなかった。もしあの時邪悪が攻撃に耐える事を選んでいたら、我々の勝ちだったろう≫
だろうも何も、現に奴は塵一つ残さず消滅している。
間違いなく私の勝ちの筈。
だが何だ……これは……
体から感覚が消えていく。
まるで体が無くなっていく様な感覚。
視界にもノイズの様な物が走り、どんどんと黒く塗り潰されていく。
≪だがあれは力の維持より、生き残る事を優先した≫
神は一体何が言いたいのか?
その口ぶりでは、まるで邪悪が生きている様だ。
――いや、生きているのだろうな。
本当は体が動かなかった時点で、半分気づいていたのだ。
だが認めたくはなかった。
只の不調と思い込みたかった。
だが――
≪あれは……自らの体を捨てて、力が弱まっても君の肉体を奪う事を選んでしまった。だから……我々の負けだ≫
奴の中で私の体を取り囲んだあれは、私を焼き殺す為ではなく……
私に侵入する為の――
意識がもうろうとし、視界が暗闇に完全に覆われる
≪この世界は滅びる。もうお終いだ―― ≫
けっきょく……わたしは……かてなかった……
すま……ない……
たか…………し……
私の意識が黒く塗りつぶされ、私は――
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