第24話 怪鳥

ガルーダ

それは怪鳥と呼ばれる魔物だ。

翼を広げた翼開長は軽く10メートルを超え、その姿は鷲によく似ている。


「どうしてガルーダがこんな所に!?」


咄嗟にサーベルタイガーを戻し、俺は岩陰に身を隠す。

フラムも直ぐにそれに続き、リンもそれを倣う。


岩陰からそっと空を覗き込んで確認する。

だがガルーダに大きな動きはない。

どうやらこちらに気づいてはいないようだ。


先に発見できたのは幸運だった。

あんなのに先制されたら堪ったもんじゃない。


「どうやら、こっちには気づいてないみたいだな」

「よかった。でも、ガルーダの生息地はもっと南の方のはずなんですが」

「ドラゴンを倒した影響がもう出てるって事か」

「そうみたいですね」


このカルディメ山脈最強の魔物であったドラゴンは、広大なテリトリーを誇っていた。

そのドラゴンが居なくなった事を察したガルーダが、開いたテリトリーに侵入してきたのだろう。


ドラゴンを倒してからまだ3週間しか経ってないってのに、当てが外れたな。


ドラゴンのテリトリーに好き好んで入ってくる命知らずな魔物はいない。

それを利用し魔物を避ける為、ドラゴンのテリトリーのド真ん中を通ってきたのだが、考えが甘かった様だ。


こんな所で大物に出くわすとは……はぁ、付いてねぇ。


「ドラゴンを倒した!?え?お二人がドラゴンを倒したのですか!?」


俺達の話を聞き、リンが驚いた様に声を上げる。


「一応私達のパーティーで倒したわけですけど」

「す、す、す、凄いです!ドラゴンを倒すなんて凄すぎます!!!!」


凄い興奮のしようだ。

まあ、気持ちはわからなくもない。

分からなくもないが、でもやっぱり興奮しすぎ。


「まあ俺達が倒したといっても、ほとんど彩音一人で倒したようなもんだけどな」


かっこよく俺の敵じゃなかったと言いたかったが「じゃあガルーダなんて楽勝ですね!」と返されたら困るので辞めておいた。

そうでなくともフラムさんに直ぐばらされそうだし。


「彩音って、あの黒髪の綺麗な人ですよね。あの人がたった一人で倒したっていうんですか!?凄い!!!彩音さん凄すぎます!!」


しかしテンション高すぎじゃね?


テンションが高すぎて少々うっとおしく感じてきた。

そもそも魔物から隠れているのに大声で叫びまくるのは、幾らなんでも緊張感がなさ過ぎる。


まあ大分距離があるから、届く心配はないと思うが。


「リンちゃん。大丈夫だとは思うけど、万一の事もあるからもう少し静かにお願いね」

「あ、ごめんなさい」


叫んでいたリンがフラムに注意され、シュンとなる。

まあショックだろうな。

ウェディングドレス常着してる様な女に、正論で注意されたら。


俺でもへこむわ。


「それで、ガルーダはどうすれば良いと思います?」

「俺のガーゴイルで何とかなればいいんだが」

「私の魔法と合わせれば十分勝算はあるとは思います、でも……」


問題は勝て無かった場合か……


平地ならともかく、この起伏が激しい山道ではサーベルタイガーの俊足をもってしてもガルーダを撒くのは難しいだろう。

つまり負ければ 帰還魔法テレポートで帰還する事になる。


そうなればここまでの行程がパァだ。


そんな面倒くさいのは御免被りたい所だ。

そもそも、例え逃げ帰ってもカルディメ山脈に戻ってきて再び遭遇する可能性は高い。


「取り合えず、やり過ごすのが一番か」

「そうですね。そう言えばリンちゃんが来るときはガルーダは居なかったの?」

「はい、私の時は魔物とは遭遇しませんでした」


リンは一人で山脈を越えてきている。


一歩間違えれば、今頃空を悠々と旋回しているガルーダの腹の中だった可能性もありえたわけか……


魔物と遭遇する事なく一人で山脈を越えた事といい。

偶然俺とと出会った事といい、リンの強運には驚くばかりだ。

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