第20話 花より団子
「まさかむこうからやって来るとはな」
気配の接近を感じ呟く。
あれ程逃げ回っていた相手が突如方向を変え、此方へと向かってくる事に違和感を感じずにはいられない。
「何か手を打ったという事か……」
覚悟を決めたとも考えられるが、そう楽観的に物事を考える程自分は愚かではない。
先の戦いでの回復力や空間転移から、奴に協力者がいる事は分かっていた。
恐らく奴の逃走は時間稼ぎであり、自分を討つ為の準備が整ったと考える方が自然だろう。
そう考え相手の気配を注意深く探る。
「なるほど……」
霊竜の力が大きく上がっている事が分かる。
それに、奴に随伴する強力な力の気配。
恐らく自分はこの戦いで命を落とすだろう。
だが、だからと言って敵に背を見せる事等あり得ない。
己が誇りを賭けて、臆さず挑む。
それが自身の生き様だ。
「面白い!正面から迎え撃ってくれるわ!!」
大きく叫び、大空高く飛翔する。
魔力が全身を包み。
体が、そして翼が。
一筋の刃となって大気を切り裂き突き進む。
目指すは霊竜アースガルズ。
▼
「霊竜さんの言う通り、突っ込んできますね」
「ええ、彼はプライドの塊ですから。不利な状況でも決して逃げ出す様な事はありません」
たかしさんは邪竜が逃走する事を危惧していたけれど、それは杞憂だった。
前々から思っていたけど、たかしさんは少し心配症過ぎる気がする。
私の事だっていつまでも子ども扱いするし……
そうだ!
此処は一発この戦いでドーンと活躍して、私がもう一人前だと認めてもらおう!
そしたらきっと、私の事を一人の女性として見てくれるはず。
ひょっとしてそのまま告白されちゃったりして!
キャー!
どうしよう!どうしよう!
「リンさん。戦いを前に高ぶる気持ちは分かりますが、少し落ち着いてください」
「え!?あ、はい!」
妄想に身悶えている事を霊竜さんに
どうやら緊張からくる動揺だと勘違いしてくれた様だ。
危ない危ない。
流石に今の妄想を見破られたら気不味すぎる。
勘違いしてくれてよかった。
「わ……私頑張りますから!期待してください!!」
気恥ずかしさからか、聞かれてもいない決意表明を口にする。
「いえ、リンさんは後方で待機していてください。作戦通りしていただければ大丈夫です 」
それでは駄目だ。
作戦では霊竜さんが邪竜を弱らせ。
弱った所を、私が霊竜さんごと邪竜を結界に捕らえるという流れだった。
考えようによっては美味しい所取りと言えなくもないけど、それだとたかしさんが認めてくれる程の活躍とは言えない。
ここはやはり、私の手で邪竜をボコボコにするぐらいじゃないと。
「大丈夫です!私も一緒に戦えます!期待しててください!」
「あ、いえ。邪竜の相手は私だけで大丈夫ですから……」
「遠慮しなくても大丈夫ですよ!任せてください!」
「いえ、ですから……」
たかしさん見ててください!私の活躍を!!
≪おい、りん≫
あ、たかしさんだ!
彼からの
≪見ててくださいね!私頑張りますから!!≫
≪いいから作戦通りしろ≫
むう、また子ども扱い。
でもここは引けません。
≪たかしさん!私はもう大人です!心配せずに私の戦いぶりを見ててください!≫
≪いや、大人かどうかは関係ないんだが………………わかったよ≫
どうやら分かってくれたみたい。
ふふ、ひょっとしたらたかしさんも私の事を認めるきっかけが欲しかったのかも?
そうだよね!
子ども扱いしてた相手をいきなり、一人の女性として扱うのは恥ずかしかったに違いないわ!
≪確かにリンはもう大人だな。だから……もうおやつは要らないよな?≫
≪へ?≫
≪リンは大人なんだから、リンの分のおやつ。これからはケロに上げないとな≫
≪え!?あの……≫
≪リンの分のおやつも貰えて、ケロもきっと喜ぶぞー≫
恐ろしい。
なんて恐ろしい人なの、たかしさんは……
私は覚悟を決める。
だってたかしさんからの告白とおやつ――そんな物、比べるまでもないもの!
≪私まだまだ子供ですから!作戦通り頑張りますね!!!≫
こうして私のおやつ生活は守られたのだった。
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