第21話 邪竜ヘル
霊竜の突撃に吹き飛ばされ、上空から地面に叩き付けられる。
地面に墜落したその強烈な衝撃で全身に激痛が走り、一瞬意識が飛びそうになるが堪えた。
「ヘル!私の目的はあなたを討つ事ではなく、話をする事です!」
目の前に降り立った霊竜が戯言をほざく。
耳を傾ける価値等ないが、これを生かさぬ手は無い。
先程のダメージを回復する時間を相手から用意してくれると言うなら、遠慮なく甘受させて貰うとしよう。
ふらつく体を鞭打って起き上がり答える。
「ふん!話だと?長きに渡り殺し合って来た我らに、今更交わす言葉などあるまい?」
長い間。
本当に長い間争い続けてきた。
自分が生まれた2000年前にはもう霊竜の一族との小競り合いは始まっており、いつしか一族の生き残りも自分のみになっている。
少数とは言え繁殖可能な霊竜側と違い、こちらはもはや私が生き延びた所で種の繁栄は望めないだろう。
詰まりこちら側には和解するメリットが無い。
それは霊竜も十分理解している筈。
そのうえで、一体何を語ると言うのか?
「そうですね。私とあなたでは話し合いなど成り立ちはしないでしょう」
「ならば何故?」
「話があるのは私ではありません。私の……そうですね。主と呼ぶべき方です」
主か……
霊竜が此処まで驚異的に力を付けた要因と考えて間違いないだろう。
成程、理解した。
「貴様だけでは無く、俺も支配下に治めようという腹か」
視線を上にあげ、上空に浮かぶ人影を見つめる。
一瞬その人影が主なのかとも思ったが、恐らくは違うだろう。
先程から戦いに参加こそしてはいないものの、あれもまた強大な力を内に秘めている事は分かる。
分かるが、霊竜が主と仰ぐほどの力を持ち合わせているとは到底思えなかった。
恐らくあれもまた、配下の一人なのだろう。
あれ程の配下と、そして霊竜を支配下に治める程だ。
その力の強大さは推して知るべしだろう。
下手をすれば、大精霊に匹敵するやもしれん。
それほどの者を敵にして、俺に勝ち目はないだろう。
何せ霊竜一匹相手にこの様なのだからな
だがどうせ勝った所で先などない身。
ならば命を賭けて一矢報いるのみ。
「舐めるな!一族ももう俺のみ!!今更自分の命欲しさに尻尾など振るものか!!」
ふらつきは取れた。
これ以上の会話は不要。
後は雌雄を決するのみ!
体を低く落とし、奴へと飛び掛かる体制をとる。
「貴方に……いえ、邪竜の一族にメリットがあるとしてもですか?」
「なに!?」
霊竜の言葉に思わず動きを止める。
一族にメリットだと?
俺ではなく、一族に?
「もし彼に協力するなら、邪竜を新たに生み出して頂けるそうですよ」
「馬鹿な!そのような事!出来るものか!!」
戯言だ。
そんな事は大精霊でも不可能。
だが……
だが神ならば……
新たな生命を生み出せるのは神のみ。
その神も500年程前の天変地異以降、その存在を感じられず所在は不明だ。
だが……だがもし、その神が奴の支配者だとすれば……
神が精霊の戦いに介入するかという疑問はある。
だが……もし本当に神なら、話を聞く価値はあるのかもしれない。
そう判断し、いつでも飛び掛かれる体勢はそのままに話を続ける。
「お前の主とやらは、神なのか?」
「いいえ違います。ですがその方は神と大精霊に認められている存在です」
「神に選ばれしものだと?いったい何者だ?」
「私も上手くは説明できません。その方は大精霊様からの
精神汚染の可能性も十分にあり得る。
そんな自分の考えに感づいたのか、霊竜が誓いの言葉を口にする。
「我が一族の名において、嘘偽りのない事を誓いましょう」
「わかった信じよう」
その言葉を受け、返答する。
彼らは誇り高い一族だ。
長く戦ってきた自分にはそれがよく分かる。
その霊竜が一族の名を懸けるのならば、嘘偽りはないだろう。
「それで?その主とやらは何処に?」
「俺ならここだ」
気づけばいつの間にか、霊竜の頭の上に見慣れぬ人影が立っていた。
一体いつの間に?
突如現れた事に驚きつつも、顔には出さずにその人物を観察する。
何の変哲もない人間。
その人間からは何の力も感じられない。
だからこそ、その力の強大さが伺えた。
自分程度では力を感じとる事も出来ないほどの強者。
神に選ばれし者。
「我が名は邪竜ヘル。我が一族の再生と引き換えに、貴方への忠誠を誓う事を此処に宣言する」
私は主と呼ばれる人物に頭を下げ、忠誠を誓う。
一族復興の為に。
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