第53話 王殺し②

「アレン殿、それに姫様。こんな夜分遅くにどうかなされま――」


「悪いけど、暫く寝ててくれ」


寝室前に控えていた近衛兵2名をスキルで立ち寝させる。

兵士は目を開けたまま動かなくなり、綺麗な鼻提灯を作り出す。

近くで見ると不気味極まりない寝相だが、遠くから見ればしっかりと夜番をしている様に見える事だろう。


「便利な能力だねぇ」


「まあな」


俺は寝室への扉を開き、中にいた宰相子飼いの医師――魔法使い――も同様の手口で気絶させる。

余り近づくと感染してしまうため、少し離れた位置で立ち止まり、振り返ってすぐ背後にいる王女の表情を伺う。


彼女の名はテール・バックス・ルグラント。

透けるような白い肌に愛らしい顔立ちをしており、王女という単語を体現したかの様な、ザ・お姫様といったビジュアルの女性だ。

今回の計画を実行するに当たり、事前に彼女には事情を通している。


この計画、場合によっては国王を本当に殺してしまう・・・・・・・・・かもしれない。


そうでなくとも一度は必ず殺す事にははなる。

そんな酷なシーンを彼女に見せるのは忍びなく思い、部屋で待っている様に促したのだが。

王女は自身の眼ではっきり見届けると告げ、ついてきた。


「本当にいいんですか?」


俺が尋ねると、王女は強張った表情でゆっくりと頷く。

その顔色は白い肌と相まって本当に真っ青に見えるが、その瞳には確かな強い意志の光を感じさせられた。


「どうか……父をよろしくお願いします」


王女はそう告げると俺達に頭を下げる。

自分の眼でしっかりと状況を見届けようとする彼女の心意気には頭が下がる思いだ。


「任せてください!何せ私達は愛のキューピッドですから!私達に任せて頂ければ見事に解決して見せます!」


そんな彼女の肩に手を置き、何故かフラムが胸を張って力強く答えた。

何もしない上に我儘で人の寿命削っておいて、何故そんなでかい口を叩けるのか些か謎だ。

だがやる前から暗い事を言うよりは良いだろうと思い、顔を上げた王女に俺も笑顔で頷いておく。


「パー、ティーエさん。頼む」


パーには国王を凍殺して貰い、そのまま超低温で冷やし続けてもらう。


超低温でウィルスを完全に死滅させ。

然る後に国王を蘇らせる。

それが今回の計画だ。

上手く行けばこれで国王の病気は完治するはず。


勿論リスクはある。


ウィルスがパーの生み出す超低温で死滅しなければ――確か相当低温でも生き延びると聞いた事がある――国王を蘇らせても、病気はそのままの可能性がある事。

そしてもう一つは、そもそも蘇生自体が失敗する可能性だ。


超低温で氷漬けにすれば、当然国王の肉体も細胞レベルで深刻なダメージを受ける事になる。

やりすぎて細胞が完全に崩壊してしまったのでは、ティーエさんの魔法でも蘇生できなくなるだろう。


かと言って冷気を押さえ過ぎれば、ウィルスが生き延びる可能性が上がる。


その辺り、かなり匙加減の難しい調整をパーに求める事になる訳だが――


「そんな心配そうな目でみなくていいよ。僕の錬金術師――いや、大賢者としての腕をを信じて」


話を通した時点で、錬金術師として完璧な調整で成功させるとパーは豪語してくれている。

ふざけた性格ではあるが、彼女の力量が確かなのは間違いない。

とにかく、今はパーの腕を信じるとしよう。


「じゃあ始めるよ」


パーが魔法の詠唱を始め、それに合わせてティーエさんが結界の魔法を唱え始める。

超低温で冷やす以上、冷気が外部に漏れない様に抑える必要があるからだ。

出なければ城中凍り付いてしまう。


魔法が完成し、国王の体に霜が降りて見る間に凍り付いて行く。

俺はその様子を見て心の中でパーに謝る。


――国王殺し。


本来ならば発案者の俺自身が手を汚すべき事だ。

だが近づけばウィルスに感染するリスクがある上、凍結以外の無用のダメージを与えれば蘇生に響く可能性もあった。

その為、人を手にかけるという咎をパーに背負わせる事になってしまっている。


パーはどうせ生き返るから気にしなくていいと言ってはいたが、例えそうだったとしても人殺しが楽しい訳が無い。


パーには大きな借りが出来てしまったな……この借りはいつかどこかで必ず返すとしよう。


俺はそう心に誓い。

上手く行く事を願って状況を静かに見守る。

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