第52話 駄々っ子
「成る程ねぇ……殺して治す。そりゃ確かに荒療治だ。そういう反則技、僕は好きだよ」
俺の説明を聞いて、パーが楽しそうに口元をにやりと歪める。
錬金術師として新しい発想を受け入れる柔軟さがあるのか、単に性格が歪んでいるのかは分からないが、まあそこは別にどっちでも良いだろう。
「ティーエさん。出来そうですか?」
「恐らく可能かとは思います。ですが、絶対とは口に出来ません。万が一の可能性も考えておいて下さい」
「はい。万一の場合は俺が全責任を負います」
まあ発案者だしな。
失敗した時は、素直に大悪党の
「たかしさん!責任なら私も一緒に!」
「いや、フラムにはそんな真似はさせられない」
ウェディングドレス姿の共犯者連れとか、嫌すぎるからな。
「たかしさん……」
感動にフラムの目が潤む。
なんか訳の分からない事を脳内で妄想してそうだ。
ま、別にいいけど。
「わかりました。絶対成功させましょう!私も出来る限りの事はします!」
素晴らしい意気込みだ。
だが惜しむらくは、フラムには一切仕事がない事ぐらいだろうか。
「アラン、構わないか?」
「失敗の事を考えれば、本当は反対するべきなんでしょう。ですが陛下は、どちらにせよもう長く保たないお身体だ」
アランは大きく溜息を吐く。
その表情は苦悩に彩られていた。
「俺は騎士失格だな。いや、姫の誘拐に加担すると決めた時点でとっくに……」
「アランさん」
アランは辛そうな顔で自嘲気味に笑う。
はっきりと口にさせるのは酷だろう。
俺はそれを彼からの合意と
ティーエさんとパー、それにサキュバスを覚醒させ。
サキュバスとは融合する。
男である俺と雌であるサキュバスとで融合すれば、性別を気にせず催淫で敵を黙らせる事ができる様になる。
そしてこの状態ならば、通常の人間ではレジストする事はまず不可能だろう。
「わ!たかしさん色っぽいです!凄いですよ!」
フラムは融合した俺を見て、楽し気に手を打つ。
褒めてるつもりなんだろうが、全然嬉しくねぇ。
「あれ?ひょっとして僕負けちゃってる?悔しいなあ」
悔しいなんて台詞は努力している人間が言うもんだ。
なんら努力もしていないお前が言う言葉ではないぞ、パーよ。
「二人共馬鹿な事言ってないで行くぞ」
だが俺が出口に向かって足を踏み出すと、フラムが俺の前に立ち塞がって来た。
一体なんだ?
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さいたかしさん!大事な事忘れてますよ!」
「大事な事を忘れてる?」
俺は首を傾げて指折り確認する。
――俺とサキュバスの融合。
――パーとティーエさんの覚醒。
――アランの合意。
条件はちゃんと全部揃ってる。
「いや、必要な条件は満たしてるけど?」
「ななな、なにいってるんですか!?今回の作戦には、絶対に欠かせない存在がいるじゃないですか!」
「彩音か?別にドンパチやる訳じゃあるまいし、あいつは別に……」
「違いますよ!天使です!
「フラム?お前話を聞いてたか?」
「はい!勿論です!」
途中で気づき敢えて無視していたのだが、こいつは何を馬鹿な主張してるんだ?
余りの愚かな発言に思わず溜息を漏らす。
「お前がする仕事は何も無いだろう?」
「あります!皆さんの応援をします!!」
「ほほう、それは俺の寿命を減らしてまでする事か?」
「はい!!」
フラムは悪意の欠片を微塵にも感じさせない、素晴らしい笑顔で答えてきた。
その太陽の如き、穢れなき眩しい笑顔を見て確信する。
こいつ狂ってやがると。
「却下」
俺はフラムの認識を改めつつも、無慈悲に裁定を下した。
アホの我儘に付き合うつもりは無い。
しかしリンといいフラムといい。
エルフにはアホしかいないのだろうか?
マーサさんの優しげな大人の笑顔と、大きく膨らんだ
俺が気付かなかっただけで、まさかあの人もアホだったのだろうか?
だとしたら嫌だなぁ。
「ええええぇぇ!何でですか!!」
「何でも糞もねぇよ。覚醒には俺の寿命を消費するって言ってるだろうが、馬鹿たれ」
「1時間とかそれ位良いじゃ無いですか!」
「良い訳ねーだろうが」
今回使った3時間――ティーエ・パー・サキュバス――だって本当は断腸の想いだってのに。
俺は既に、誤ってガートゥに10年も寿命を突っ込んでしまっている。
これから先の厄災や邪悪との戦いで寿命をがりがり消耗しなければならない以上、1時間とて無駄にしたく無いのが本音だ。
何故なら、俺は長生きしたいから。
「たかしさんこの通りです!一生に一度のお願いですから!!」
覚醒しようがしまいが何も結果は変わらないというのに、こんな所で一生の願いを使い切ってどうするきだ?
フラムの謎の熱意は俺には全く理解できない。
だが必死に頭を下げる姿を無視する訳にもいかず、俺は大きく溜息を吐いた。
「これは貸しだぞ。ちゃんと返せよ」
「はい!この命に代えても!」
たかだか1時間の貸しで命を引き換えにするとか、お前の命はどんだけ軽いんだよ。まあフラムがそれで良いなら俺は何も言うまい。
駄々っ子フラムを渋々覚醒させ、俺達は国王の元へと向かうのだった。
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