最終話 やっぱり幼馴染は嫌いです

「よく頑張ってくれたね」


声が聞こえて目を開けると、白い毛玉のドアップが写り込んだ。

毛玉には大きな目が2つあり、その大きな瞳が俺をじっと見つめている。


「神様ですか?あれ?でも俺死んだはずじゃ」


「ああ、君は死んだよ。私もね」


成程、ここは天国という訳か。

だがおかしい、天国と言うには余りにも暗すぎる。


視線を周りに這わすも、辺りには何も見当たらない。

此処には俺と神様だけが存在し、それ以外は暗闇が延々と続いているだけだった。


「あ天国なんて物はないよ。残念ながらね。死んだ魂は世界に返るだけさ」


という事は、此処は世界の中という事だろうか。

周りは暗くて見えないが、探せばこの中に彩音もいるのかもしれない。


「ああ、私達はまだ世界に返ってはいないよ。そうなる前に、どうしても君にお礼が言いたくてね。ちょっとずるをしてるのさ」


そういうと神様はウィンクする。

それを見たらなんだか無性に腹が立って、一瞬指で目を突いてやろうかとも思ったがグッと堪えた。


「どうでもいいですけど、なんで俺が人形だったって事黙ってたんです?」


「ああ、それかい。自分が人形だと分かったら、自暴自棄になってしまう危険があったからね」


「そうなると、俺が利用できなくなる……と?」


「それは言わぬが花って奴かな」


それはもう正直に告白したも同然なんだが?

口にしなきゃいいってもんじゃないぞ。


「しかし……コミュ障の引きこもり。どうせ設定を付をけるなら、もっと良いのは無かったんですか?」


「何を言ってるのかね。家から一歩も外に出ず、誰とも喋らない。完全に一致してるじゃないか」


そら人形なんだから自力では外に出れないし、言葉もしゃべれんわ。

その理論でいうなら、世界中の全ての人形が引きこもりのコミュ障という事になってしまう。


「ま、その方が余計な記憶を付け足さずに楽だったんでね。済んだ事だし、もういいじゃないか。あまり過去の事をぐちぐち言ってると、女の子にモテないよ?」


大きなお世話だ。

というか死んでるから、もうモテるも糞も無い。

そもそもそれ以前に俺は人形だ。

ビックリする程どうでもいい。


「まあ、そう怖い顔で睨まないでくれ。お礼を兼ねて君にはちゃんとプレゼントを用意してあるんだから。僕の最後の力を振り絞って、君にもう一度命を与えてあげよう」


「それって生き返れるって事ですか?」


「ああ、そうだ」


生き返る事が出来る……


俺が……


………………


俺は少し考えて口を開く。

生き返らせるなら――


「それなら、俺じゃなくて彩音を生き返らせてくれませんか?」


可能なら両方生き返らして欲しい所だが、それなら神様は最初っからそう言っている筈だ。

たぶん生き返らせられるのは一人だけなんだろう。


だったら、それは彩音が受けるべき恩恵だ。

あいつが居なきゃ俺は何もできなかったんだから。

世界を救ったのは俺じゃなく、間違いなくあいつだ。


「ははは、君ならそう言うと思ったよ」


神様が楽しげに笑う。


分かっていて聞くとか……初めて会った時から思っていたが、ほんとこの神様は良い性格してやがるぜ。


「さて、それじゃあ私は行くよ。さようなら」


そう言うと神様は闇に溶け込んで消えて行った。

俺の意識も薄れていく。

今度こそ本当の終わりだ。


「さよなら、皆」


そして俺も神様の様に闇に飲み込まれ。

意識が解けてなくなっていった。



◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆



「はーい、朝ですよー。起きなさーい」


すやすやと眠っていると布団が捲りあげられ、温かい手に俺は抱き上げられた。

まだまだ寝ていたかったが、瞼を擦り、小さく欠伸をしてから目を開ける。


「さ、朝ご飯にしましょ!」


彼女はそう言うと、俺を抱きかかえたままテーブルへと向かう。

そして俺を椅子に座らせると、手早く食事の用意を済ませていく。


「おはよー」


「おう、おはよう」


挨拶と同時に、ケロはすごい勢いで食事を貪り出した。

それを見てリンが注意する。


「あ、まだ食べちゃダメでしょ!頂きますだって言ってないんだから!」


「ごめんばざーい」


謝っていはいるが、その口と手は止まらない。

反省する気はゼロの様だ。


「もう、しょうがないわね」


リンは溜息を吐きながら椅子に座ると、たこさんウィンナーの一つをフォークで突き刺し、俺の口元へと運んできた。


「はい、あーん」


俺はその手からフォークを奪い取り、自分でウィンナーを口の中に放り込んだ。

うん、上手い!


「えー、なんで取っちゃうんですか!?」


「いつまでも子ども扱いすんな!」


「だって、たかしさんまだ3歳じゃないですか!!」


そう、俺は生きている。

生き返ったのだ。

まあ正確には、新たに生まれて来たというのが正解だが。


お陰で今の俺の体は3歳児だ。


あの後、神様の手によって彩音は復活する。

新たな神として。


本来神の力をもってしても、完全に消滅した者を生き返らせるのは不可能だ。

だが俺が彩音を取り込んでいた事で、あいつと俺はほぼ一心同体に等しい状態になっていた。

それが幸いし、彩音復活の際、俺は彩音に吸収される形で辛うじて世界に残る事が出来た。


そして神になった彩音は自分の中から俺を切り離し、自らの分身こどもとして俺を産んでくれたのだ。

あいつには感謝しないと。


因みに、彩音は子宮内も脳筋だった。

生まれる時、凄い圧力で危うくぺしゃんこにされかけたからな。

一体どういう体の作りをしているのやら。


「見た目は子供でも、頭の中はしっかりしてるんだ。飯位一人で食えるわ」


「えー、そんなにかわいいんだから、お世話ぐらい良いじゃないですか!」


「良くねぇよ!」


生まれたばかりの頃は自分で何も出来なかったので、世話をして貰えるのは非常に有難かった。

だがある程度自分の意思で体が動かせるようになってくると、過保護なまでの世話は逆にうっとおしくなってくる。


これが反抗期という奴なのかもしれない。

もしくは嫌々期か。

まあどっちでもいいが。


「もう、意地悪なんだから。たかしさんはー」


ぶつくさ言いながらもリンは食事を始める。

その際彼女も頂きますを言っていなかったが、そんなんで良くケロに注意できたもんだ。


「あ、そうだ!」


食事を続けていると、何かを思い出したのか急にリンが声を張り上げた。

相変わらず行儀の悪い奴め。


「昨日夢に出て来たんですけど!お母あやねさんが今日ここに寄るって言ってました」


「なんだと!!」


誰がお母さんだ!?

嫌、そんな事よりも!!


「僕!2-3日マーサおばちゃんの所に泊めて貰うね!」


ケロが勢いよく椅子から立ち上がり、家を出ていった。

その際、パパ頑張ってと俺に言っていく。


「もう、ケロったら急なんだから」


ケロは逃げたのだ。

巻き込まれる事を恐れて。

俺もこうしてはいられない。


食事をほっぽり出して家から飛び出す。

逃げなくては、それもどこか遠くへ。

近場だとすぐ見つかってしまう。


ティーエさん達の所に向かうか?


アルバート兄妹は今、封印が無くなって変わってしまった世界で外と内の調整役の様な事をしていた。

ティーエさんは自他共に認める聖女として、ティータはそれを守る騎士として。


いや、駄目だ。

ティーエさんは今や神となった彩音の眷属的な扱いだし。

ティータに到っては、俺の嫌がる事を進んでするのは目に見えていた。


じゃあレインとパーはどうだろうか?


この前会った時、レインはガートゥと武者修行ばっかりしてるとパーが愚痴っていた事を思い出す。

奴は行っても居ない可能性が高い。

そしてレインが居ないならあそこに行くのは危険だ。

パーしかいない所に転がり込むと、どんな実験に付き合わされるか分かったものではないからな。


後は霊竜の娘達の所ぐらいか。


彼女達は今、生まれたばかりの邪竜達と共に生活している。

彩音が俺に変わって新たに邪竜族を生み出してくれたのだ。

俺自身が何かしてやれた訳では無いが、これでヘルが少しでも報われてくれるといいのだが。


取り敢えず竜達の所に、そう考えた時、俺の体がふわりと浮き上がり暖かい物に包まれる。

振り返ってみると、それはフラムだった。


「お久しぶりです!たかしさん!」


彼女は相変わらずウェディング姿のままだ。

今の彼女は彩音に仕えている。

フラム曰く、愛の天使として世界に愛を広めるのだそうだ。


彼女に関してはもう好きに生きろよとしか言いようがない。


しかしでかい。

背中の胸の感触に思わずにやける。

フラムはウェディング姿で分かり辛いが、こう見えて結構でかいのだ。


って!そんな事考えている場合じゃなかった。


「はなっせぇい!」


俺は彼女の手から逃れようとジタバタと藻掻く。

彩音に仕えている彼女がここにいるという事は、彩音ももう目と鼻の先に居るという事だ。

もはや一刻の猶予も無い。


「何だたかし。態々出迎えに来てくれたのか」


俺に死刑宣告が降りかかる。

見たくはない。

見たくはないが。

俺は顔を青ざめながら、恐る恐る声のした方向に振り向いた。


そこには――地獄からの死者あやねが……


「よ、よう。彩音、元気にしてたか」


「こらこら、ちゃんとお母さんって呼ばないと駄目ですよ。たかしさん」


言う訳ねぇだろ。

彩音は最早俺のにとって地獄からの死者でしかないのだ。

悪魔がいるというのなら、正に彩音こそその化身と言っても過言ではない。


まあ実際は悪魔じゃなくて神様なんだけども。


「ふふ、どうやら早く修業がしたくて仕方ない様だな」


「お断りします!」


「照れるな。久しぶりに親子で武者修行コミュニケーションといこうじゃないか」


ざっけんな。

そんな物一人でしてろ。


無茶な修行で死んでは生き返らされるを繰り返される。

そんな地獄のコミュニケーション等、死んでもお断りだ


俺は倒れても起き上り続ける達磨さんじゃねーんだぞ!!


「あ、たかしさん!私も蘇生魔法を使えるようになったんですよ!たかしさんが愛の天使の蘇生役第一号です」


ジタバタト藻掻く俺をぎゅっと抱きしめ、フラムが楽しそうに笑う。

そんな不名誉な役は、他の誰かでお願いします。


「駄目ですよ!」


俺に追いついて来たリンが、抗議の声を上げてフラムから俺を取り返した。

リンが俺を救ってくれる――等という事は一切なく。


「たかしさんを蘇生させるのは私の役目です!フラムさんにだってこれは譲れません」


「ええー、少し位いいじゃないですかぁ」


「交代で蘇生させればいいだろう。どうせ死にまくるんだ」


彩音がとんでもなく物騒な事を口にする。

殺す気満々だ。

やはりこのまま行けば待っているのは地獄。

何としても逃げ延びねば。


「駄目です!それは絶対に譲れません!」


「もうリンちゃんったら、焼き餅焼きなんだから」


「ややや、焼き餅じゃありません!」


一瞬隙が出来た。

リンの腕が緩んだ瞬間、俺はそこから抜け出して駆けだす。

より良き未来に向かって。


「俺は生きる!!」


そう!

生き延びて見せる!!


「ちゃんと蘇生させてやるから安心しろ」


駄目でした。

彩音に光の速さで掴まってしまう。

世の中理不尽だ。


「さ、行くぞ」


「い、や、だーーー!離せーーー!!」


折角世界を救って生き返ったというのに。

待っていたのは地獄の訓練とか、俺は呪われてでもいるのだろうか?

こんな事なら彩音を生き返らせるよう、神様に言うんじゃなかったぜ。


俺は彩音を蘇生させた事を死ぬ程後悔する。

だが最早すべて後の祭り。


「誰か!助けてくれーーー!!」


俺の魂の雄叫びが響き渡る。

しかしその願いは決して聞き届けられる事は無いのだった。



~完~



―――――――――――


拙作に最後までお付き合い頂き有難うございました><



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強の幼馴染は好きですか?~最弱召喚士は寄生して最強へ至る~俺は苦手です まんじ @11922960

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ