第49話 体罰

「どうか王女様をお願いします!」


「お願いって言われてもなぁ」


目の前の騎士が、無茶な願いと共に頭を下げる。

俺が渋っていると、フラムが横から口を挟んできた。


「たかしさん!二人は心の底から愛し合っているんです!折角乗りかかった船なんですから、私達愛のキューピッドの力で二人の愛を守ってあげましょう!」


乗りかかったんじゃ無くて、騙して乗せやがったんだろうが。

っていうか、誰が私達愛のキューピッドだ。

勝手に俺を混ぜるな。


自分が何を言っているのか理解しているのか怪しいフラムを、俺はげんなりした顔で見つめて答える。


「いや、やんねーから」


「勇者どの、そこを何とかお願いします!どうか王女を!」


「二人の愛を守ってあげましょう!」


俺は二人とのやり取りに、ゲームの無限ループする選択肢が頭に浮かび、今の状況に盛大に溜息を吐いた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


《よし、行くか》


フラムに合図を送り、サキュバスを召喚する。

いつ見ても子供の教育によろしくないお色気ムンムンの姿に少し見入ってしまうが、まあ健全な男子なのだからこれは仕方がない事だろう。


俺は看守達を洗脳するようサキュバスに頼んだ。

サキュバスは指示に従い、鉄格子をすり抜け看守達の元へと向かう。


俺の召喚した淫魔には実体がない。

その為、障害物があっても容易くすり抜けられる。


まあ正確には実体が無い訳ではなく。

淫夢系の体は水――それも霧状の水蒸気で出来ていた。


彼らを一言で表すなら、空間に漂う美しい蜃気楼と言った所だろう。


水蒸気である彼らは少しでも小さな隙間があれば、そこを通って自在に移動することが出来る。

そんな彼らにとって、鉄格子のすり抜けなど朝飯前と言った所だ。


因みに淫夢に付いての知識は、水の大精霊との訓練の休憩時間中に聞いた豆知識だったりする。


サキュバスが戻ってきた。

その後ろには、幸せそうな助平顔で涎をたらす看守が付いて来ている。

どんな幻を見せられているのやら。


「鍵を開けさせてくれ」


小声で呟く様に指示話出した。

俺とフラム以外囚人は居ない様なので、小声である必要性はないのだが、念のため周りに気をつけておく。


鍵が外され、外に出た俺は真っ直ぐフラムの元へと向かう。

俺の姿を見つけたフラムが鉄格子の隙間から嬉しそうに手を振り――大声で叫んでくる。


「たかしさーん!こっちです!こっちこっち!」


俺は素早く駆け寄り、鉄格子の隙間に手を突っ込んでその頭を思いっきりはたいた。

アホかこいつは。


「えぇ………何でですか?」


「大声だすな、アホ。外の奴が聞きつけたらどうする」


只の兵士ぐらいならいいが、騎士が聞きつけてやって来たら計画がパァだ。

鍵を開けて外に出してやると、フラムがぶつくさ文句を言ってくる。


「だったら口で言って下さいよぉ。そういう叩いたり蹴ったりのコミュニケーションは、彩音さんとだけでお願いします」


「誰がするか」


そんな一方的な暴力に曝されるコミュニケーションなんぞしてたまるか。

兎に角、まずは看守から話を聞こう。

そう思った時、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

溜息を吐き、軽くフラムを睨みつける。


「ま、まあ。イレギュラーに対応してこそですし……」


「それを元凶が言うな」


足音はどんどん近づいてくる。

薄ぼんやりと辺りを照らす魔法の光の中、現れたのは純白の鎧を身に待とう騎士だった。


「ちっ、やっぱり無理か」


一応サキュバスに催淫を命じたが、案の定レジストされてしまった。

剣は捕まった時に取り上げられているので、拳を握りこむ。

素手でも支配者の指輪があれば、俺の強さはドラゴン並だ。


仲間を呼ばれる前に――


「ま、待ってくれ!俺は君達の敵じゃない!」


牢から出ている俺達に気付き、騎士が焦った声を上げる。


戯言だな。

誰がそんなセリフを鵜呑みにするかよ。

油断させる作戦に違いない。


「ま、待ってくださいたかしさん!多分この方は味方です!」


「は?」


相手はいきなり俺達を捉えた魔法国の騎士だ。

味方な訳がない。


リンなら兎も角、それがフラムに分からないはずがないのだが……ひょっとして何か理由があるのだろうか?

俺は訝しげにフラムを見つめ、続く言葉を待った。


「アラン・クリアさんですよね?」


「はい。使者の方々が捕らえられたと聞き、こうして人目を偲び救出に来た次第なのですが……どうやらその必要は無かった様ですね」


「やっぱり!たかしさん安心してください。この方は私達の味方です」


騎士は俺達を救出に来たと言い。

フラムはその騎士が味方だと自信満々に答える。


「フラム?何か俺に言う事はないか?」


「え、いえ。特にはないですけど」


なら何故盛大に目をそらす。

俺は大きく溜息を吐き、フラムにゲンコツ叩き落とした。


「あいったあ〜」


どうやらフラムは事情を把握していた様だ。

でなきゃ、魔法国の騎士――しかも親衛隊の名前なんざ知っている訳がない。

道理で連れて行けとしつこかった訳だ。


「隠してる事を全部話せ。いいな」

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