第26話 不意打ち最強!

こりゃ困った……


目の前の大きな岩を眺める。

その岩の上には、デカい図体をしたガルーダが目を瞑り静かに佇んで居た。


この場からとっとと退散したいところだが、動けばその音で気づかれる可能性が高い。

鳥類は音に敏感だ。

魔物にもそれが当てはまるかは分からないが、危険を冒してまで試す気にはなれなかった。


リンを見ると、尻もちをついた体勢で固まっている。

どうやら、彼女はガルーダの着地の際の羽搏きの風圧で転んでしまった様だ。

恐怖からか目に涙を溜め、小刻みに震えながら縋り付く様な目でこちらを見てくる。


気持ちはわかる。

巨大な魔物が目の前に鎮座しているのだ、怖くないわけがない。

正直、ドラゴンとの戦いを経験していなければ俺も確実に涙目になって震えていたはずだ。


以前なら絶対パニクってたよなぁ……


自分の成長を実感しつつも、考えを巡らす。

彩音さえ居てくれればこの程度ピンチですらないのだが、この場に居ない人間の事を考えても仕方がない。


さて如何したものか……


この状態で一晩過ごして、ガルーダが飛び立つのを待つ?


あり得ない。

仮に朝まで待ったとして、同じ所を飛ばれたら元の木阿弥だ


無限ループって怖くね?

そんな言葉が頭を過る。


そもそも範囲透明化インヴィジリビティが朝まで持つ保証はない。

切れれば詠唱を必要とする以上、ガルーダに気付かれる可能性は高いだろう。


倒すしかない……か。


そういう意味では今は絶好のチャンスともいえる。

空を飛び回られる前に先制パンチで畳みかければ、一気に倒せるかもしれない。

仮に倒しきれなくても、ある程度のダメージを先制で与えられれば逃げていく可能性もあるはずだ。


まさか仲間呼んだりはしないよな?

嫌な考えが一瞬頭をよぎる。


が、流石にそれはないだろう。

ずっと上空を見ていたが、他の奴が周囲を飛んでいる様子はなかったしな。


そうとなればこいつの出番だ。


音をたてない様、ゆっくりとズボンから柔らかいゴムボールの様な物を取り出す。

役に立つかと思い、王都で買っておいたマジックアイテムだ。


上に投げると落下直前に1分間ほど空中で停止しする。

ただそれだけの効果の、子供のおもちゃのようなマジックアイテムだ。

というか子供のおもちゃだ。

普通に考えれば戦闘の役には立たないのだが、俺にとっては必殺のコンボを叩き込む便利アイテムとなる。


ボールを握り締めながらフラムさんの方を見ると、彼女は俺の動きに気づいた様で首を縦に振る。

どうやらこちらの意図に気づいてくれたようだ。

それほど付き合いが長くもない俺の意図に一瞬で気づく当たり、流石歴戦の冒険者だと感心させられる。


俺は音が立たない様、ゆっくりとボールをガルーダの上に放り投げる。

ボールはガルーダの頭上辺りで上手く停止してくれた。


ガルーダに反応は無い。

気づいていない様だ。


これならいける!


ボールに右手を向け、俺はゴーレムを召喚した。

ボールを中心に魔法陣が発生し、呼び出されたゴーレムは重力に従い落下する。


ゴーレム落としロッククラッシュ!」


そう叫びたかったが、声に反応して避けられでもしたら堪ったものではないので自重しておいた。


落下したゴーレムが鈍い音と共に激突し、ガルーダが岩の上で突っ伏す。


「取り押さえろ!」


ゴーレムに命じつつ。

俺は更に追加を召喚する。


ガルーダは自分に何が起きたのかまだ理解できていないのか、かぶりを振るだけで大きくもがこうとはしていない。

そこに2匹目がガルーダに激突し、覆いかぶさる。


やっと自分の身に何が起きたのか理解したガルーダが逃れようと暴れるが、とんでもない重量を誇るゴーレム2体に上から押さえつけられ、奴はまともに身動きが取れない。

その体は宙に浮く事無く、ただ雄叫びを上げるだけだった。

俺は駄目押しで3匹目を召喚し、動きを完全に封じる。


後は魔法を待つだけだ。


フラムを見ると既に詠唱を始めており、彼女の全身を半円状に光り輝く魔法陣が包み込んでいた。

程なくして詠唱が完了し、魔法が発動する。


拘束する蔦イヴィバインド!」


人間の腕ほどもある蔦が幾重にもガルーダに襲い掛かり、ガルーダを完璧に拘束してしまう。

ドラゴンの動きすらも一時的に封じた魔法だ。

ガルーダ程度では破る事は不可能。


俺は蔦がガルーダを完全に拘束する直前にゴーレムたちを戻し、今度はミノタウロスを召喚する。


ミノタウロス

身の丈3メートルにもなる、牛頭人身のモンスターだ。

そのパワーはすさまじく、両手に持つ人の体ほどもあるバトルアクスの一撃は岩をも粉砕する。


そのミノタウロスが3体。

身動きの取れないガルーダの上に立ち、両手のバトルアクスでガルーダの巨体を滅多打ちにする。


「……」


仕方ない事とは言え、身動きの取れない相手を一方的に虐殺するのはやはり気分が良くないものだ。

相手に襲われたのならいざ知らず、こちらから寝込みを襲っているからなおさらだった。


まあ仕方ないか。


やがてガールダは断末魔の声を上げて消滅し、大きめな魔石へと変化した。


「やりましたね!」


フラムが満面の笑顔で嬉しそうに声を上げる。

その姿を眺めて思う。


魔物が残虐に殺される様を見て喜ぶウェディングドレス姿の女性……


傍から見れば、それは狂気すら感じる光景なのではなかろうか。

と。


「凄いです!お二人とも本当に凄いです!あのガルーダをこんなにあっさり倒しちゃうなんて!!」


リンが感激したのか、大声で叫ぶ。


「いや、運が良かっただけだよ」


実際、空を飛ばれていたら相当きつかったはず。

寝込みを襲えたのは不幸中の幸いだった。


「何言ってるんですか!運が良かったからって、普通たった2人でガルーダなんて倒せませんよ!本当に凄いです!!」


リンの場合、少々オーバーな所があるが、やはり褒められて悪い気はしない。

相手が美少女ならなおさらだな。


俺は照れ臭く笑う。

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