第66話 復活
「銀行強盗にやられたんだって?」
「ああ、だが全員倒した」
話し声が聞こえる。
誰かと誰かが会話してる声だ。
「倒した…ねぇ。高々銀行強盗相手に負傷しておいて、最強が聞いて呆れるぜ」
「相手は銃を持っていたんだ、しょうがないだろ」
いや、会話ではないか。
声色を変えてはいるが、話しているのは一人。
この声は彩音だ。
そう気づくと、真っ暗だった場所が急に明るくなり。
辺りがはっきりと見えるようになる。
場所は病院のベッド。
その上で彩音は上半身を起こし、その手に人形が掴まれていた。
「はっ、苦しい言い訳だな。お前の目指す最強ってのは、素人が強い武器を手にしたくらいで怪我する程度のもんかよ」
「そんなわけないだろう!」
「だったらそんな様で満足してないで、精々精進するこったな」
彩音はその人形を自分の前に翳し、言葉に合わせて揺らす。
その様はまるでお人形さんごっこだ。
ここでこれが夢だと気づく。
頭の中に映像が飛び込んでは来るが、その場に俺が存在していないのは明白だった。体の感覚がなく、現実感がまるで感じられないからだ。
そもそも俺がその場に存在しているのなら――いや、存在以前の話か。
「何をやっているんだ、私は一人で……情けない……」
彩音は手にしていた人形を棚に置き、大きく溜息を吐く。
そして次の瞬間その両手で自分の両頬を張る。
パーンと乾いた音が響き、痛そうだと俺は顔を顰めた。
いや、体が無いから実際に顰めた訳では無いんだが。
まあ心の中で顰めたって奴だ。
「精進するしかないか」
彩音が棚の上の人形の方を向いて言葉を続ける。
「私は負けない。もっと強くなって見せる。だからみててくれ――たかし」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
た……さん……
声が聞こえる。
たかし……さん……
どこかで聞いた声のある声だ。
誰だっけかな?
「たかしさん!!」
「うおびっくりした!」
それまで聞き取り辛かったノイズ交じりの声が、急にクリアになる。
その余りの大音量に、響いて俺は跳ね起きた。
辺りを見渡すと大量のゴーレム達の瓦礫の中、仲間達が俺の事をじっと見つめている。
「あ、えーと。皆無事?」
状況を思い出し、取り敢えずみんな無事か聞いておく。
見た感じ怪我してる人間は見当たらない。
まあティーエさんが居るのだから、仮に怪我をしててもとっくに直して貰っているだろうが。
「ええ。たかしさんが厄災を倒した事でゴーレム達が動かなくなったので、私達は大丈夫です。それよりたかしさんこそ大丈夫ですか」
言われて体を動かす。
何処にも痛みはない。
自爆攻撃のダメージを全てヘルが引き受けてくれたお陰だ。
「ああ、問題ない。気絶していたのは、瞬間的に発生した激痛で意識が飛んだだけだからな」
「召喚と融合の特性を利用した自爆攻撃か。悪くない攻撃だったぞ」
レインが俺の肩を叩く?
どうやら結界の外から中の様子は見えていた様だ。
どうでもいいけど、今レインは剣の姿だから肩にサクサクと剣が刺さって普通に痛いのだが。
何で剣の腹じゃなくて刃の部分で俺の肩を叩く?
まさか態とやってないよね?
取り敢えず腹が立ったので。
俺はレインを掴んで全力で地面に突き刺した。
「何をする?たかし」
「うっせぇ!そこで埋まってろ!」
しかしあれは痛かった。
もう二度としたくはない。
ヘルにも次あったらちゃんと礼を言わないと。
あいつだって死ぬ程痛かった筈。
「所で。どうなってるんだ?」
辺りの様子がおかしいので聞いてみる。
何と言うか空気が重く、腹の底にモヤモヤっとした不快感を感じる。
「あれを」
そう言ってフラムが北の方角を指す。
俺はその指刺す方向へと視線を投げる。
「何もないぞ……っ!?」
言ってから気づく。
そう、北には何もないのだ。
魔法国はルグラントの北に位置する。
そして厄災がいたのはそんな北の国の、更に北の端の方だ。
言ってみればルグラントの端に当たる場所になる。
当然北を見ればそこにはある筈なのだ。
高くそびえたつ壁が。
「まさか……」
厄災の言葉を思い出す。
彼女はあれの復活は近いと言っていた。
どうやらその言葉に嘘偽りはなかった様だ。
「うん。どうやらリンんちゃんから聞いてた邪悪って言うのが、復活したみたいだね」
「とりあえず彩音と合流しないと……」
俺達だけでは話にならない。
そう思い
「!?」
「どうやら転移系の魔法は阻害されてるみたいだよ。僕も一旦首都の様子を確認しようと転移魔法を使ったんだけど、発動しなかったからね」
その他の転移魔法も確かめてみるが、パーの言う通り阻害されているのか発動しない。
どうやら合流は――
その時全身に悪寒が走る。
心臓を掴まれたかのような圧迫感。
おれはそれを本能的に察知する。
邪悪が完全に復活した気配だと。
怖気のする方向――南へと視線向ける。
朝日が昇る中、黒い光りが真っ直ぐに天へと向かって登っていくのが目に入った。
あの黒い光りこそ、邪悪の――
「う、うぅ……」
リンが小さく呻き声を上げる。
その表情は苦し気だ。
「リンちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈夫です」
そう言ってはいるが、脂汗を流して震える姿は大丈夫そうに見えない。
俺も駆け寄ってリンの肩を抱いた。
「すいません、たかしさん。心配かけちゃって」
「気にすんな」
理由は分かっている。
仮契約によって俺の召喚になったとはいえ、リンは魔物だ。
邪悪の復活でその魔物の血が悪さをしているのだろう。
下手をしたら、このままだとリンは完全に魔物化してしまうかもしれない。
早く彩音と合流し、邪悪を倒してしまわないと。
「ティーエさん、ここに残ってリンを見てやっててくれますか。俺は彩音の元に向かいます」
こんな状態のリンをこの場に放っておくわけにもいかないし、ましてや邪悪との戦いの場に連れて行くなど以ての外だ。
ティーエさんに残って貰い、リンを見てもらう事にする。
聖女の力でリンの状態を何とか出来るかは怪しいが、他の面子よりは可能性はある筈だ。
「わ、私は大丈夫です。それにティーエさんの回復は絶対に必要になる筈ですから……それを私のために割くなんてだめですよ。気分が収まったら私も後から行きますから、どうか皆さんで先に向かってください」
「リン……」
リンのいう事は尤もな事だ。
だが弱っている彼女を放っていくのは心苦しい。
「たかし、彼女の言う通りだ。負けられない戦いである以上、俺達は万全を期さなければならない。彼女を一人置いて行くのが心苦しいのは分かる。だが彼女を助けたいなら此処で迷うよりも、一秒でも早く邪悪の息の根を止めに向かうべきだ」
「レイン」
リンの方を見ると、彼女は俺の目を真っすぐ見て頷いて見せる。
「分かった。リン、待っててくれ。直ぐに終わらせて来る」
「私は大丈夫ですから、無理しないでくださいね」
「おいおい、少しは人の事を信頼しろよ」
「はい 」
リンは俺に心配させまいと、精一杯無理して弱弱しく笑う。
そんな彼女を見ると、胸が締め付けられる思いだ。
待っててくれリン。
俺が必ず助けてやるからな。
俺は強い決意を胸に、邪悪の元へと向かう。
彩音もきっと向かっている筈だ。
「ちょっとまて主。何かが近づいてくるぜ……」
「何かって魔物か?」
ガートゥの言葉で皆に緊張が走る。
リンをここに置いていく以上、魔物なら放っては置けない。
さっさと始末しないと。
「いや、魔物じゃねぇ。助っ人だ」
「「「助っ人!?」」」
皆の声が重なる。
そんな皆の顔を見回してガートゥはニヤリと笑い。
空を指さした。
そこには2つの大きな影。
白と黒のコントラストを奏でる二匹の竜。
邪竜ヘルと霊竜アースガルズ姿があった。
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