第40話 召喚融合
「うぅ…ん」
びゅうびゅうと鋭く風を切る音に、俺は目を覚ます。
風に煽られつつも重い瞼を上げると、雲が凄い速さで流れていくのが見えた。
――いや、そうじゃない。
雲が流れて行ってるのではなく、俺自身が高速で移動しているのだ。
彩音に背負われる形で。
「気づいたか」
彩音に声をかけられた事で、それまでぼうっとしていた頭にスイッチが入る。
俺は状況を思い出し声を荒げた。
「あれからどうなった!?」
「奴らなら後ろだ」
言われて体をのけ反らし振り返る。
彩音の言う通り、奴らは此方を追う形で付いてきていた。
「ちょっと待て、3体しかいないぞ?気絶してる間に1体倒したのか?」
「いや、1体はティーエ達の方へ向かった」
「な!?」
思わず絶句する。
ティーエさん達は強力な結界の展開で疲弊してるはずだ。
ガートゥ達も疲れ切っていた。
真面に戦えるのがリンだけの状況では、とてもではないが厄災に太刀打ちできない。逃げ切るのだって難しいはずだ。
「彩音、皆と合流を――」
「難しいな。こっちの速度は奴らとほぼ同じだ。方向転換をする余裕はない」
言葉を言い終えるよりも早く、無理だと言われてしまう。
どうやら皆を助けるには、追って来る3体を倒す必要がある様だ。
とは言え、そこにはどうやってという問題が立ちはだかる。
普通に戦って倒せるなら、彩音も逃げ回ったりはしていないだろう。
とりあえず俺を背負っている状態では彩音も戦えないと思い、俺は背中の翼を羽搏かせ……ない。
翼の感覚がなくなっている事にその時初めて気づく。
どうやら気絶した際に融合が解けてしまったらしい。
道理で腹をぶち抜かれたのに、痛みを感じないわけだ。
しかし不味いな。
非常に不味い。
最早再召喚して強化からの融合を行なえるほどのMPは残ってはいない。
今のままだと、俺は冗談抜きで只のお荷物だ。
「彩音、俺と分離したガーゴイルはどうなった?」
「ガーゴイルなら消えてしまったぞ」
生き残っていてくれていたなら、
融合は解除時に、それまで受けたダメージの殆どを召喚側に押し付ける形になる。
腹をぶち抜かれる様なダメージを受けた状態で分離した以上、力尽きるのは仕方のない事だった。
「不味いのか?」
「融合できなけりゃ、俺は完全に足手まといだ」
「融合?お前の姿が変わっていたあれか」
「ああ。融合は召喚と合体してパワーアップするスキルだ。あれ無しの今の俺じゃ、一発でやられちまう」
「召喚と合体……か。それは私とではできないのか?」
「は?」
何を馬鹿な事を。
だがそれだけ彩音も追い込まれているという事だろう。
「たしか
……その可能性を完全に失念していた。
まさかそれを彩音に指摘されて気づくなんてな。
合体後の強さは単純にレベルの合算だ。
つまり合体すれば、俺のレベルは1800近くにまで上がる事になる。
戦闘技術的な難点はあるが、それだけのレベルが有れば、倒せないまでも最悪振り切って仲間と合流するぐらいは出来るはず。
そうすれば活路だって見出せるかもしれない。
だが本当に出来るのか?
もし出来なかったら……いや、出来ない分にはまだましだ。
最悪なのはおかしな事になってしまった場合だ。
以前使った切り札の様に有利に働けばいいが、くっついたまま一生離れられないなんて状態だってあり得る。
最悪、命に係わる可能性も考えられた。
世界を救う事を考えるなら、俺と彩音は絶対に生き残る必要があるだろう。
幸い転移分のMPはぎりぎり残っている。
世界の事を考えるなら余計なリスクは避け、俺と彩音だけでこのまま逃げ出すべきだろう。
間違いなくそれが正しい選択だ。
ひょっとしたら、皆だって自力でなんとかするかもしれない……
「なあ、彩音」
彩音の横顔を見つめ声をかける。
ちらりと此方へと視線を寄越した彩音と目が合った。
「融合はあくまで召喚とするのが大前提だ。
彼等はぼっちだった俺に、初めて出来た仲間だ。
例え読めないリスクがあったとしても、俺はあいつらを守りたい。
だがそれは俺の我儘だ。
どう転ぶかも分からない危険な賭けに、彩音を巻き込む権利は俺にはない。
それでも俺は……
「MPはぎりぎり残ってる。だから転移で逃げるっていう手もあるんだ。でも俺は皆を助けたい。どうか俺に力を貸して欲しい」
「たかし、私はこの世界には目的が有ってやってきた。それを果たすまで死ぬつもりはない」
「…………」
「だがお前が仲間の為に命を賭けるというんなら、私は喜んでお前に命を預ける」
「彩音……」
「あいつらは私とっても大事な仲間だからな」
「ありがとう」
俺は彩音に礼を言い。
残った最後のMPを振り絞って、
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