第54話 帝国
「わ!たかしさん凄い人ですよ!王都も凄く人がいっぱいでしたけど、ここはもっと凄いです!」
リンが大きな街並みと、想像以上の人混みに歓声を上げる。
余程興奮したのか凄い凄いをさっきから連発しており、お上りさん丸出しでちょっと恥ずかしい。
それでなくてもウェディングドレス姿のフラムが目立つというのに、これ以上目立つのは勘弁してほしい所だ。
俺は心の中で大きく溜息を吐いた。
ここは帝国の首都。
俺とリン、それにフラムは王墓と呼ばれるダンジョンのお宝を求め、帝国の首都であるカルディオンへとやって来ている。
帝国は王国の北側に位置しており。
この両国、いや、魔法国を含む3国はもともと一つであった事から国名には全てルグラントの名が冠されていた。
自国こそが真の後継であるという意思の表れなんだろうが、縦に並ぶ3つの国がほぼ同じ名前というのは少々馬鹿っぽく感じてしまうな。
「リン、あんまり騒ぐなよ」
「はーい!」
リンがとびっきりの笑顔で、片手をあげて返事してくる。
あ、これは言ってもダメなやつだ。
俺は確信する。
新しい物を見つけた好奇心旺盛な14歳の少女に、我慢して大人しくしろと言った所で土台無理な話というもの。
「リンちゃん、迷子になったら大変だから手を繋ごっか」
「うん!」
おお!ナイスだフラム!
流石のリンも手を繋がれてる状態ではちょこまか動き回れないだろう。
本当に気の利く人だ。
これで服装がまともなら……もう何度も思ってきた事だが、それでもやはり思わずにはいられない。
勿体ないと。
「それでどうしましょう?このまま真っすぐ王墓に向かって、先に詰め所で登録を済ませて置きますか?」
王墓への出入りが解放されてるとは言え、一応入るのには最低限の許可を取る必要があった。
実力のない者が無闇にダンジョンに入り込めば、たちまち命を落としてしまうだろう。
それを避ける為、能力のチェックが用意されているのだ。
「うーん……登録にどれだけ時間が掛かるか分かないから、とりあえず王墓付近で宿屋を見つけてからにしよう」
「そうですね」
「わたし!宿屋は美味しいケーキが食べられる所が良いです!」
王都で泊まっていた宿屋は、朝食のデザートとして美味しいケーキを出してくれる宿だった。
リンはそれに味を占めたのだろう。
宿屋選びに無駄な厳選を求めてくる。
仮にそんな宿屋に泊まっても、俺の分は全部リンに取られちまうからなぁ。
王都滞在中、朝食のケーキはほぼ全てリンに取られてしまっている状態だった。
彼女は自分の分を凄い勢いで平らげ、ゆっくり食べていると俺の分を、びっくりするぐらい物欲しそうな目でこっちを見てくるのだ。
流石にその状態でケーキを味わう気にはなれず、俺は毎回リンに譲る破目になっていた。
「ふふふ、美味しいケーキが出る宿屋が見つかるといいね」
「はい!」
やれやれ、帝国にはダンジョン踏破の為にやって来たってのに……まさかその最初のミッションが、美味しいケーキの出る宿屋探しになるとはな。
先が思いやられる。
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