第65話 切り札

「すごい!!これすごいです!!」


リンが興奮して凄い凄いと叫びながら、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

自分に今起こっている事に大興奮だ。


「リンちゃん凄い凄い!」

「これは確かに凄いですわ。これなら、王墓の探索は私たち抜きでも大丈夫そうですね」


先程のリンの動きを見て、フラムとティーエさんも絶賛する。


俺達は今、王都にあるアルバート邸へと訪れていた。

パーの件の確認と、明日から正式に王墓攻略を始める報告の為だ。

そのついでに広いアルバート邸の庭を借りて、新しく習得していた召喚のテストをしてみたのだが、そこで思わぬ拾い物をする。


新たな召喚モンスターはサキュバス、インキュバス、それにドッペルゲンガーだ。


サキュバス・インキュバスのレベルは60。

それぞれがフェロモン振り撒く美男美女だ。


ただし実態が無く。

格好良く言えば物理攻撃無効、悪く言えばお触り禁止状態だ。

当然実態が無い以上、戦闘力は皆無に等しい。


能力は主に異性に対する精神攻撃――幻覚や悪夢、精神支配。

効果自体は強力なのだが、こいつらの精神攻撃は相手のレベルが少しでも上だとかなりの確率で抵抗レジストされてしまう為、頼りにするには少し難がある。


因みに、今回のテストの本命はドッペルゲンガーだ。


ドッペルゲンガー。

黒い人型のモンスターで、顔の部分に大きな穴が穿かれており、少々不気味な見た目をしていた。

もし夜目覚めた時にこいつが傍に立ってたら、確実にちびる自信がある。


能力は、対象となった相手の姿形・能力をコピーするという物。

ただし自分よりレベルの高い物には変身できない。


ドッペルゲンガーのレベルは60。

そこに俺の基礎スキルである召喚強化が加わると、レベルは83になり、指輪の効果も合わせると94にまで上昇する。


変身後はその対象のレベルになり、そこから更に俺の補正が掛かる様になっていた。

その為、94レベルのモンスターに変身すると、最終的には127レベル相当の強さを得る事が出来る優秀なモンスターとなっている。


もっとも、今回のテストはドッペルゲンガーの強さ云々ではなく、俺に変身させて無限召喚が出来るか試すというのがメインだった。

ドッペルゲンガーが俺に変身してドッペルゲンガーを呼び出し、更にそいつらが俺に変身して――と言った感じの奴だ。


まあ結論から言うと――無理だった。

デスヨネー。


召喚自体は出来るのだが、どうやら召喚数といった基本的な部分が俺とシェアされてしまう様だ。

そのため俺が3匹呼び出している状態だと、ドッペルゲンガー達は制限に引っかかって追加で召喚を行う事が出来なかった。


まあ神様も無限召喚はやばいって考えて、制限かけたんだろうな。

最も……無限召喚こそ無理だった物の、結果思わぬ副産物が舞い降りた訳だが。

これはこれで超強力だ。


とは言え――


「まあ、ちょっとしたバグっぽいから、出来るだけ使わない方向で行こうかと」

「バグ?ですか?」


ティーエさんが不思議そうに聞いてくる。


「虫に一体何の関係がある?貴様が姉上にとって悪い虫だと、やっと認識したのか?」

「んなわけねーだろ!虫じゃなくて、仕様の穴を突く感じの悪用だって話だ」


何でこの流れで、俺が悪い虫って話になるんだよ。

こいつの脳みそは空っぽか?

まあ地球の特殊な用語を使った俺も悪いっちゃ悪いが。


「不味いのですか?」

「まあ、あんまり褒められた行動じゃないんで、いざってとき以外は使わないようにしておきます」


バレたらこっちも制限されかねないからな。

いざという時のため、可能な限り取っておく事にする。


「ふふふ、まさに切り札って感じですね」

「切り札。何かかっこいいですね」


バグが切り札……

それってなんかあれだよな……不正使用が奥の手ってどうよ?


ちょっと格好悪い気もするが、命懸けのやり取りに綺麗も汚いもない。

本当に必要になったら迷わず使うとしよう。

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