第4話 弟

隣町への移動。

俺は3台ある馬車の最後尾に乗っている。

そこには商隊の護衛を務めるティーエさんも同乗していた。


彩音の奴は何故か馬車の横を並走しているが、まあそれはどうでもいいだろう。


しかし……可愛いなぁ。

ティーエさん、超かわいい。


まあ引き籠りの俺とは釣り合わないだろうが、チラ見するぐらいは許されるだろう。

そう思いチラチラと彼女の方を見ていると、急にミケに手を引っ掻かれた。


「いってぇ。何しやがる」


「ストーカーの片鱗へんりんを見せつけられたら、流石に気持ち悪いわよ」


「誰がストーカーだ。誰が」


失礼極まりない発言だ。

純情青年が思いを馳せる相手を意識しているだけで、ストーカーなどでは断じてない。


「ストーカってのは皆、自分はそうじゃないって否定すものよ」


むう……猫の癖に正論いいやがって。

本当に可愛くない奴だ。


「ふふふ、仲がよろしいんですね」


俺とミケのやり取りを見てティーエさんが笑う。

その笑顔の余りのキュートさに‟ズキュン!”と俺の胸に何かが刺さった。


正に彼女は天使――愛のキューピッドだ。


……なんかキューピッドは違う気がするが、まあいいだろう。


「手間のかかる弟みたいな物ね」

「誰が弟だ!」


お姉さん気取りのミケには物申さずにはいられない。

誰が餌をやってると思ってるんだ。

こいつは。


「ふふふ、本当に兄弟みたいですね」

「ほんと、手のかかる弟なのよ」


俺の言葉は華麗にスルーされてしまう。

ミケのもの言いは腹立たしいが、ティーエさんが楽しそうなので今回は我慢しておくとしよう。


「実は私にも弟がいるんです」

「へぇ?そうなのかい?」

「その子も凄く手のかかる子で。私、いつも困らされてるんですよ」



やんちゃなティーエさんの弟……きっと彼女に似て凄く可愛いんだろうな。

俺は頭の中で小さな可愛らしい男の子を思い浮かべる。


やがては俺の弟になる可能性もある!


……まあ流石にそれはないか。


我ながらあつかましい妄想である。


「向かってる街にいるのかい?」

「いえ、今は王都にある実家にいるはずです」

「王都の生まれ何だね」

「ええ、アルバート家は――」


ミケとティーエさんの談笑は続く。

俺はそれに参加するでもなく、街に着くまで唯その女子トーク?に耳を傾けるだけだった。


本当にストーカーぽいなと思わなくもないが、仕方がない。

だって何喋ったらいいか分からんし。


これぞ引き籠りクォリティ。

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