第69話 王墓

「明るいな」


王墓内に侵入した俺の第一声がこれだ。


王墓は地下に存在する為、当然日の光などは一切差し込んでは来ない。

にもかかわらず、中は驚くほどに明るかった。

神樹のダンジョンと同じく、魔法によって処理が施されているのだろう。


「ははは、ひょっとしたら王様は暗所恐怖症だったのかもね」


パーがくだらないジョーダンで場を和まそうとするが、リンやフラムですら苦笑いする始末だ。


「ありゃ、うけなかったかー。残念残念」


何で受けると思った?


「ま、此処が明るいのは製作上の都合だろうね。こんな大きなダンジョンを作るのに、内部が真っ暗じゃあ余りにも効率が悪すぎるからね」


言われてみれば成程と納得する。


「あ、あの。私が先頭を進みますから、皆さんは私の後に付いて来てください」


地下一階はトラップゾーンだ。

事前に各階の攻略マニュアルを手にしてはいるが、魔法式のトラップはダンジョン内を自由に動き回る為、残念ながらその位置は書き示されていない。

その為ニカが先頭を歩き、罠の発見、解除を行う手はずになっている。


「ああ、任せるよ。ただヤバそうなら言ってくれ、最悪俺の召喚にトラップを踏みつぶさせるから」


ニカの実力を疑う訳ではないが、無理をして命を落とされでもしたら寝覚めが悪い。

極論で言うなら、トラップの場所さえ発見して貰えれば、後は全部ゴブリン辺りを生贄にして進めばいいのだ。


とはいえ、戦闘で役に立てないニカはトラップゾーンで自身の力を示さなければならない。

そんな少女に、危なかったら下がってもいい等と言っても無駄だろうが。


「だ、大丈夫です!安心して私に任せてください!」


これは自分の仕事だ、そう強く主張するようにニカが声を張る。

彼女からすれば、ここで不安そうに振る舞えばリストラされる可能性を危惧しての返事だろう。


「リン。悪いけどニカの事、注意して見てやってくれ」

「はい、わかりました」


ひそひそ声でリンに話しかけて、ニカの事を頼む。

この中ではリンが一番反応速度に優れ、素早く動ける為だ。


何より、怪我をするのがリンならば俺の魔法で素早く回復してやる事が出来る。


一応このパーティーではパーとフラム、それにレインも回復魔法を使えはするが、全員低位の魔法しか扱えなかった。

その為、怪我をした際の対処は少々心もとない。


その点俺は召喚限定ではあるが高位の回復魔法を扱えるため、リンが大けがを負ったとしても、瞬時に回復してやる事ができた。

まあ小さな子供に危ない役を任せるのは若干気が引けるが、効率を考えた場合これが一番だ。


ニカを先頭に、その横にリンが並ぶ。

続いてレイン・パー・フラム、そして俺が殿を務める形でパーティーは進んで行く。


俺が最後尾なのは、何かあっても最悪俺が無事なら転移魔法で全滅を避けられる為だ。


「しっかし、広い通路だな」


ダンジョンは石造りのしっかりした物で、幅は広く天井も高い。

6人全員が横並びしても、余裕で余るぐらい広い造りになっていた。


まあ、横並びする意味は無いが。


「当然でしょ?50階層なんて馬鹿げたダンジョンを作ってるんだよ?通路が狭くちゃ、建造用の物資がまともに運べないからね。少し考えたらわかる事じゃないか」


またまた成程と納得する。

納得はするが、余計な一言にイラっとさせられる。

やはりパーとは相性が良くない様だ。


「と、トラップです!」


ニカはそう大声で叫ぶと、前方を指さした。

よく目を凝らしてみてみるが、素人目には全く分からない。

試しに覗き見サーチを使い、ニカの指さす方向を確認してみる。


すると俺の瞳に、うっすらと光る球体の魔法陣の様な物が映り込んだ。


「マジックトラップレベル2、触れると魔法の矢が炸裂する罠か」

「え!?あ、あの……トラップの事……分かるんですか?……」

「へ?ああ、スキルを使えば見るだけならな。流石に解除方法はわからないさ」


ニカの顔に安堵の色が広がる。

他の面子がトラップの対処ができてしまっては、ニカがこのパーティーに居る必要性が無くなってしまうからな。

そうじゃなくて安心したのだろう。


……


ニカを見ていると、ドラゴンと戦った時の事を思い出した。

結果的に仕事する事にはなったが、カルディメ山脈を登っている時のお荷物感は本当にきつかった。


お荷物扱いどころか、正真正銘荷物として彩音に背負われてたからな……正に生き恥。


だから俺には彼女の気持ちが分かる。

頑張れ、ニカ。


「というわけで、解除頼むよ」

「はい!まかせてください」


そう言うとニカは、おもむろに腰のホルダーから短剣を抜き出す。

短剣の側面には赤と青の幾何学模様の様な物が掘られており、一目でマジックアイテムと見て取れた。


ニカは右手でナイフを水平に持ち、左掌でその刀身をなぞる。

するとナイフがうっすらと光りだした。


ニカはそのナイフを振りかぶり、トラップの中心地点へと綺麗なフォームで投擲する。


ナイフが光の球体に触れた瞬間、バチッという音と共にトラップが消滅し、投げられたナイフはまるで壁に当たったかの様に弾き飛ばされ、地面に落ちて金属音を響かせた。


「お見事」


どういった原理でトラップが消滅したのかは理解できなかったが、ニカが初仕事を見事に成功させたのだけは理解できた。

だから褒める。

ニカが余計なプレッシャーに押しつぶされない為にも。


「ニカちゃん凄いです!」

「頼りにしてますよ、ニカちゃん」


俺に続いてリンが絶賛し、フラムもニカを称える。

だが残りの二人は特に興味なしと言った感じだ。

まあ確かに自分の仕事をしただけである以上、いちいち褒めちぎる必要は無いが……


少しは空気読めよお前ら。


「こ、これ位どうって事ないですよ」


照れたようにニカが俯きながら、手をもじもじさせる。

普段の仕事ぶりを見ると大人びて感じていたが、こうして見るとやはり年相応の女の子。

なんとかこの子は無事に返してやりたいものだ。


「さあさ、こんな所で立ち止まってないで先を急がないと日が暮れちゃうよ。時間制限が特にないからって、だらだらするのは事故の元だしね」

「あ、すいません。急ぎます」


ニカがパーに急かされ急いでナイフを拾う。

そして一旦辺りを見回した後、歩き出した。


初仕事の余韻位ゆっくり浸らせてやれよ。

まったく気が利かない眼鏡だ。


若干パーにイラつきつつも、俺達の王墓探索が幕を開けた。

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