第50話 今日もいい天気だ

「うーん」


空を見て声を唸らす。

何度見ても、空は快晴だ。


朝目を覚ました俺は、置き換えリプレイスで神樹のダンジョンに置いてきたミノタウロスと場所を交代して帰って来た。


訳だが――そこは何故か快晴の空の下だった。


一瞬ミノタウロスが無理やり動かされたのかとも考えたが、周りの壁面には見覚えがある。

やはりここは神樹のダンジョンだった場所に違いないだろう。


となると彩音だな。

まあグングニルを使ったのだろうが……流石に神樹吹っ飛ばすのはやりすぎじゃね?

エルフに恨まれなきゃいいけど……


そんな事を考えていると、上から俺の名前を呼ぶ声が響いてきた。

声に反応して上を見上げると、凄いスピードでリンが降ってくる。


「ええ!?ちょ!!」


その光景に俺はぎょっとする。


リンはそのまま上空から高速で迫り、俺の前でくるっと一回転して華麗に着地。

そこから跳ねる様に勢いよく抱き着いてきた。

もはや弾丸と言っていいレベルのタックルをぶちかまされ、非力な俺は当然の様に吹っ飛んで背中をもろに強打する。


「ぐぇ……」

「あ……ご、ごめんなさい!私嬉しくってつい」

「び……びしょうじょに……だきつかれるなんて……おとこみょうりに……つきる……ぜ」


かっこいい台詞を吐こうと頑張ったが、全身を襲う激痛のせいで上手く喋れない

お陰で亡くなる前の遺言みたいな喋り方になってしまった。


「大丈夫ですか!?」


リンが心配そうに俺の上に乗っかったままで、俺の顔を覗き込んでくる。


……ほんとに心配なら上からどけよ。


平素ならまあ悪くはない状況ではあるが、昨日のダメージがまだ抜けきってない状況にタックルからのマウントはきつい。


ちょっとどいてくれる?

そう言いたい所だが、女性にそれを言うと、暗にお前重いんだよと言うようで気が引けてしまい口にし辛かった。


如何したものかと思案に暮れていると……


「りんちゃん、たかしさんは余り体調が良くないみたいだから、どいてあげた方がいいよ」


いつのまにやら現れたフラムが助け舟を出してくれた。

ナイスだ。


「あ!ごめんなさい!直ぐどきます!」


言われてリンが飛び跳ねる様に俺の上からいなくなる。


助かった……


「大丈夫ですか?」


まだ倒れたままの俺に、フラムが上から心配そうに覗き込み優しく声をかけてくれた。

だがその姿を見て俺は思わずぎょっとして固まってしまう。


何で翼生えてんだ?

俺は幻覚でも見ているのか?


訳が分からず、フラムの背中の翼を凝視する。


「あ、この翼はティーエさんの飛行魔法なんですよ。可愛いでしょ。」

「ああ、なるほど……」


ついにフラムの頭のねじが吹っ飛んで、更なるコスプレをしだしたのかとも思ったが違う様で安心した。

それでなくとも普段着ウェディングドレスだけでも痛いのに、この上翼の追加など本当に笑えないからな


「いい天気だな」

「はい、快晴ですね!」

「で?何でこうなった訳?」


至極まっとうな疑問を口にした。

もちろん、吹っ飛ばしたのは彩音だという事は分かっている。

問題は何でそんな事をしたかという事だ。


普通、真上に必殺技なんかぶっぱしないからな。


「えっとですね!えっとですね!彩音さんが凄かったんです!全身ぼわぼわって赤くなって!そしたら手がピカピカーって青く光ったとおもたっら、そのてからぼわーーーって光が上がっていって!ずかーんってなったと思ったら、こうなってたんです!!」


俺の質問に、リンが興奮した様な口調で説明してくれる。

聞きたいのはそこじゃないんだが。


というか……この子ってこんなにアホっぽかったっけ?


心なしか知能レベルが大きく下がっている様な……まあいいか。


興奮してるリンに聞いても埒が明かなさそうなので、俺はフラムに名指しで尋ねた。


「フラム。何で彩音は神樹吹っ飛ばしたんだ?」


自分の説明がスルーされたせいか、リンが拗ねた様に頬を膨らます。

フラムはそんなリンの反応に少し困った様な顔をするが、質問にはちゃんと答えてくれる。


「ええと……私もその場に居なかったので詳しくは分からないんですけど、負けを悟ったヴラドが最後の嫌がらせに神樹を呪ったらしくて。で、そのままだと森全体が呪われそうだったんで吹き飛ばしたそうです」

「成程。でも大丈夫なのか?神樹吹っ飛ばしちゃって。エルフに取って大事な物なんじゃ?」

「あ、それなら大丈夫です。神樹が消滅する時にその種がドロップしてるんで。多少時間はかかりますが、種さえあればちゃんと神樹は復活できます」


ドロップ?

え?神樹って魔物だったのか!?


「あ、言っておきますけど神樹は魔物じゃありませんよ。多分呪いを受けた事で魔物化しちゃったんだと思います」


どうやら顔に出てたらしく、それに気づいたフラムが素早く補足説明をしてくれる。

こういう所は察しがいいのに、なんで彩音との事はちゃんと説明しても全く聞いてくれないんだろうか?


本当に謎な女だ。


「成程。それで彩音は?」

「今はマーサさんの所でティーエさん達と休んでいますよ」


あ、やっぱりティーエさん達も来てたのか。

まあ彩音が囮作戦考えたとはとても思えないからな。


恐らく、ティーエさんの入れ知恵だろう。

その事については彼女にも文句を言ってやりたい所だが「え!?たかしさん気付いてなかったんですか?私てっきり気付いている物とばかり思っていました」とか言って返してきそうだ。


まあティータが糞五月蠅そうだし、口惜しいがこの借りは別の機会に返して貰うとしよう。


「皆たかしさんが無事だと知ったら喜びますよ!さあ、行きましょう!」


そういうとフラムが俺に手を差し出す。

すると、対抗意識でも芽生えたのか何故かリンも手をこっちに差し出してきた。


どっちの手を取ろうか一瞬迷ったが、さっき無視した事もあるのでリンの手を取り起こして貰う。

途端にさっきまでの不機嫌そうな顔が嘘の様に晴れ、花が咲いた様な純粋で眩しい笑顔に変わる。


やれやれ、子供だなまったく。


ま、可愛いから許すけどな。

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