金色の、アイツ

◆ リンネ、草原で暴れる ◆


 真弓は忙しいお嬢様だ。リアルでは七瀬財閥のご令嬢、超大金持ち、七瀬真弓は下火だった七瀬財閥をVR事業で立て直したスーパー女子高生で、真弓は本当にリアルで大成功オブ大成功の道を征くお嬢様だってことを、私はすっかり忘れていた。


「真弓、急用が出来たって。1時間かかるって……」

『きゅぅぅん……』

「仕方ないでしょ、お金ないの。これで我慢して』

『きゅぅぅぅぅん……(美味しいよ 大丈夫 我慢する)』


 真弓は急用が入って、合流できるのは1時間後になってしまった。その間に私はインベントリのゴミ……っぽさそうなものを全部売って、手に入った2000シルバー強(シルバーはこのゲームの通貨。課金通貨がゴールド)を持って、どん太に食べさせる干し肉を沢山買い込んだ。私の装備? 後回しだよ。どん太がお腹すいたってうるさいんだもん。


「…………よし、食べたな?」

『わ、わう……(食べちゃったよ……?)』

「狩りに行くよ。私を背中に乗せて、経験値になりそうなモンスターのとこまで走れ。スライムは無視して良い」

『わうんっ!! (わかった!)』


 それで食べ終わったから、真弓が来るまで草原で乱獲ターイム。序盤なんて経験値稼いでなんぼですからね、RPGなんて。レベルが上がって逆に難易度が高くなるタイプのRPGだったら知らん。システムが難解過ぎて理解できないタイプのゲームはゴミだから、その時は潔くやめるのよ。


『どん太(Lv,1)がスライム複数体を撃破しました。経験値 12 獲得』

『どん太(Lv,1)がウルフ(Lv,7)を撃破しました。経験値 35 獲得』


 あのさ…………この草原のモンスター、どん太の相手にならないじゃん。どん太強すぎない?


『わうっ……!』

「ん、何……おっ……?」


 あ、なんか今、草原の中でピカッと光ったわ。どん太に言われてようやく気がついた。あれってなんだろう?


『ピッ――――』

「はっや、え、嘘、あれってスライム?」

『わう~……(たぶん そう 速い!)』


 今の金色のピカピカ、スライムか……。スゴイ爆速で逃げてったけど、あんなスピードのモンスターを倒せる奴居るの? いや、遠くに逃げてないし……やってみるかな。


「どん太、アレを狩ってみたい」

『わう!!』

「ゆっくり近づいて、私がカーススピアを撃つから」

『わうっ』


 よし、今度こそ……静かに近づいて、そーっと……。


「穿――――」

『ピッ――――』

「て…………」


 えーーー……。速すぎない? 攻撃モーション取った瞬間に視界から消えてたんだけど。こんなのどうやっても狩れないでしょ。この自由に逃げ回れる草原で、捕まえられっこない。確実に設定がおかしいよ。


『わうぅ!! (やる!)』

「無理だって、諦めな」

『わうわうっ!! (やるやる!!)』


 まあ、どん太がやるって言うなら……。よっこいしょ、私が乗ったままだと重いからね、自由に暴れさせてあげよう。そら行け、どん太! 思う存分暴れてこーい。


『ワォオオオーーーーーーーン!!!!!!!!!!』


 お……。結構、そうやって遠吠えすると狼らしいじゃん。かっこいいね…………ん?


『どん太(Lv,1)は周囲の弱小狼系モンスターを一時的に配下にしました』

『ワォオオオオオーーーーーーン!!!!!!!! (僕に従え! あいつを追い込め!!)』


 …………おお。腐っても、レッサー・ワーグってわけね。なんか種族の詳細説明に『偉大な狼の王となった種族……の、駆け出し』とかちっちゃく書いてたけど、こういうことが出来ちゃうわけね~。なるほど、面白いじゃん……!


『ピギッ、ピギッ!!』

『ガウガウガウガウ!! (そっちに行ったぞ、囲め!)』


 おー……。20匹ぐらいのウルフが、黄金のスライムを追いかけ回してる。それでもすり抜け躱し、逃げる逃げる。逃げてるなー。


『ピギッ!』


 …………あ゛っ゛?


『スライム(Lv,1)から1ダメージを受けました』


 今、私がどん太の格好良いとこ見て楽しんでるよね? なんで? どうしてこいつらっていっつもいっつもいっつもいっつも私の邪魔を


『スライム(Lv,1)から1ダメージを受けました』


 ――――ぶっ殺す!!!!!!!! 新しい魔術、とくと味わえ!!


「沈め、ネガティブオーラ!!!!!」




◆ 七瀬真弓ペルセウス、話を聞く ◆




 ――――それで、あの誰も狩れなくて諦めたゴールデンスライムを、倒してしまったと。しかもたまたま魔術に巻き込んで、半ば交通事故のように……。


「……だって、範囲状態異常攻撃って知らなかったし、たまたまこっちに逃げてきたって、わからなかったんだもん。しかもなんかダメージが勝手に入って死ぬとか思わないじゃない」


 わたくしが連絡を受けるまでに、そしてリアルの事情でログアウトしている間に、わたくしの大好きで大好きで仕方ない竜胆天音さんことリンネさんが……とんでもない偉業を成し遂げていましたわ。

 まず、リンネさんは(ちょっと経緯はまだ聞いていないのですけれども)誰も発見していない『死霊術師』に就けたそうですの。こういったネガティブ系の職業が一切見つかっていないので、闇魔法とか不死魔法とかは敵専用じゃないかと思われていた程。わたくしも吃驚仰天。

 そして、このもっふもふの大きな黒い狼がどん太ちゃん。どんちゃんね。人懐っこい子で、わたくしの差し上げた霜降り肉を美味しそうに食べて……あ、そっちは重要ではありませんわね。☆1ウルフというレアモンスターにアンデッド作成をして出来上がった、レアアンデッド! 種族はレッサー・ワーグ、聞いたことがありませんわね! なんでも既に進化した後だとか。

 最後に、ええ、仮称ゴールデンスライムと呼ばれていたアイツの撃破ですわね……。ネガティブオーラという範囲魔術に引っかかって、スリップダメージで死んだようで……。ああ仮称と言うのは、誰もこの金色のスライムに触れたことがないから正式名称もわからなかったのです。正式名称がまさかの金色のアイツだとは思いませんでしたけど。これの撃破自体ならもしかしたら、後々大魔術などが見つかれば可能かもしれませんけれど。でも本当の問題は撃破した時に手に入ったアイテムですわね……。ちなみにアンデッド作成はレベル不足で不可能だったそうですわ。しかし……それよりも!!


「金色のアイツカード……。カードが出てしまうなんて……」

「これ、なに? 要る?」


 【金色のアイツカード】……。本当に極稀にモンスターの力がカードに封じられてドロップすることがあるのですけれど、まさかこのゴールデンスライム改め【金色のアイツ】が、カードをドロップするなんて……。この情報だけで正直掲示板が荒れますわね、コイツの乱獲を目的としてこの草原にプレイヤーが溢れかえりますわよ。金色のアイツキャンプとか出来ますわね、絶対。


「それは、あーちゃんが」

「リンネ」

「リ、リンネさんがっ! 持っているべきですわね! 自分で出したのですから!」

「そう……?」

「使い方と、カードについて説明しますわね?」


 カードは対応した部位に装着することが出来て、例えば『武器に装着出来るカード』だったら、武器にカードの空きスロットが存在すればそのスロットを1つ潰して装着することが出来ますわ。一度カードを装着するとガチャ産のレアな課金アイテムじゃないと外せないので注意が必要なのですけど。大体3万円前後かかるみたいですわね。

 それでこの【金色のアイツカード】なのですけど、対応部位はアクセサリーの腕輪か指輪。効果は『ボス属性化』、です。え? 意味がわからない? これは、大変なことでしてよ?

 まずボス属性というのは、プレイヤーを含む一般属性の相手からのダメージを30%減少させますわ。つまりこれだけでダメージカット3割の神カードですわね。そしてボス属性は『即死、石化、凍結、沈黙、スタン』……他にもさまざまな状態異常に完全耐性を持っていますわ。厄介な状態異常がほとんど無効! なんという化け物性能! 一説ではカードのドロップ率は0.02%らしいですから、このカードが出る可能性はもう、ほぼゼロに等しいでしょうね……。

 ですがこのカードには問題があります。腕輪と指輪が対象ということ。今まで腕輪と指輪、そしてネックレスとその他部分にカードスロットがある装備は発見されていませんの。残念ながら


「……なるほど。じゃあ、使っちゃお」

「え゛っ゛」


 ――――うそー。リンネさん、その指輪、スロット付きですのー…………。


「ふっふっふ……。不死、ボス、ネクロマンサー……! なんか、スッゴイ強くなった感じがする」

『わっふぅ!』


 ふ、し、ボス…………? え? リンネさん、不死? 不死属性持ち?!


「不死って、不死属性も持ってますの……?」

「うん。指輪、不死属性になるって書いてある。攻撃も不死属性」

「…………神器ですわぁぁぁ…………!! こ、これ、絶対外して誰かに渡しては駄目ですわよ?!」

「ううん、外せないから大丈夫。呪い装備だよ」


 あら、わたくし目眩が。やっと45レベルになりましたわ、上位職はどれにしようかしらなんて言ってる場合じゃない気がして参りましたの。これ、これってどこで手に入りますの、リンネさん……?!


「これは、どこで……」


 こんな重大な情報、教えていただけませんわよね。そうは参りませんわよね……。


「キャラクリ画面で出てくる天使、殴り倒したらバビロンちゃんから貰ったよ?」


 …………キャラクリ権余ってますし。ちょっとアカウント倉庫に装備とアイテムを預けて、転生して来ますわね。天使を殴り倒しに。天使、覚悟ッ!!!




◆ リンネ・ペルセウス、ターラッシュの街周辺の草原にて ◆




『――ねえイカれ女~? お前の親友も、なかなかイかれてるわね~。わざわざ転生してまで天使を殺しに来るなんて? ねえ? 良いオトモダチだわぁ……気に入っちゃったわぁ』


 魔神バビロンちゃんから上機嫌なメッセージが届いたのは数分前。私の唯一無二のイカれた親友ペルセウスちゃんが、わざわざ転生(課金コンテンツで、しかもキャラクリ権まで使うらしい)までして天使を殴り倒して帰ってきた。もちろん、レベル1になって。


「リンネさん! わたくし、転生してきましたわ! リアルモジュールにもなって!!」

「…………めっちゃバビロンちゃん意識したよね、それ。そのドリル」

「オーッホッホッホッホ!!!!! どう、似合うでしょう!」

「似合うけど……。っていうかその左腕、何? 金色のやつ」


 ペルセウスことペルちゃんも、私に合わせてリアルモジュールにしてくれた。リアルでも地毛がキラッキラの金髪だから、それを縦ロールにすると……凄く、もうベッタベタのステレオタイプなお嬢様感が出て、悔しいけど可愛い。

 それと、バビロンちゃんからなにか貰ったらしくって、ペルちゃんは左腕にだけ派手な金色のガントレットを着けている。職業は、なんだろう。想像がつかない。


「プリンセスガントレットですわ! 外せませんけど高性能で、それに空きスロット1ですのよ! バビロン様から頂いたの!」

「…………プリンセス?」

「そう! わたくし、クラス名がダークプリンセスになりましたの! このガントレットから魔剣が出せましてよ! ほらっ…………」

「…………」


 ペルちゃんは、ダークプリンセスだそうです。あと、左手のは魔剣が出せるガントレット(呪い装備)(外せない)(高性能、らしい?)だって、本人は言うんだけど……。魔剣っていうか、魔短剣? 短っ……。赤黒い光の剣なのは、かっこいいけど……。


「ま、まあレベル1だから……」

「そう! レベル1だからこの程度なのよ、きっと!」


 これで魔剣の長さが伸びなかったら泣いていいよペルちゃん。特別に胸を貸そう。


「そういえば、こういう本、貰ってない?」

「あ! 貰ってますわ! これ何かしら、チュートリアルをガッツリカットされたから、このクラスのスキルが何もわからなくて困っていたのよ」

「これ熟読するとスキルがわかるよ。どん太、本読むから周りを警備」

『わうぅ! (おなかいっぱい!)』

「うるさい見張れ」

『わうっ!! (がんばります!)』


 さて、私ももう一回読み直したら新発見があるかもしれないし。ペルちゃんと一緒にお勉強タイムにしましょうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る