足りない、足りない

 バビロンちゃんにちゅーして貰って、あまりの嬉しさに死んでたけど。最後の問題の時には生き返ってた。そしてそれは、私がずーーーっと疑問に思ってた内容の問題。


『どうしてローレイって思ったのかしらぁ、イカれ女~?』

「ローレライのもじりですよね、ローレイって。岩場の上で美しい歌を歌い、船人を誘惑して最後には破滅させる魔女。どのストーリーでもセイレーン、セイレーン、セイレーンと種族名で呼ぶばかりで名前が一向に出て来ない。あまりにも不自然だなって思ってたんです」


 このローレイの街周辺で展開されているストーリー、その内容で全く名前が出てこないのはセイレーンだけ。そしてそのセイレーンのしたことはほとんど全て、ローレライという伝説上の魔女の行動にそっくり。だからローレライに名前がそっくりなローレイに、セイレーンが居るんじゃないかって。


『そう。その通りよ♡。素晴らしいわ、リンネ。ローレイの街はセイレーンの真の名、ローレライから取ったものよ。嫉妬に狂い、最後まで愛を得られず、全てを失った彼女は狂い果てて歌い続け、次々に船を沈め続けた。そんな彼女を野放しに出来ないと、貿易都市の住人は討伐隊を編成し、激闘の末……遂に彼女を鎮めることに成功したわ。しかし彼女の傷は深く、到底助かる見込みはなかったの。最期の瞬間、正気に戻った彼女は自分のしたこと、その全てを懺悔したわ。住人は彼女を哀れに思い、彼女の亡骸を丁重に葬り、彼女の遺品は海に還したのよ。そして遠い未来になっても彼女を忘れないよう、街の名前を領主の名からローレイへと変えたの。これが、このローレイで起きた物語の全てよ。彼女は今、ローレイの中央にある教会、その地下霊廟に眠っているわ』


 そっか。もう死んじゃってるけど、そっか、やっぱりそうだったんだ。今はローレイの教会にある地下霊廟に眠ってるのね。


『――――大正解のご褒美に、なにかプレゼントしてあげようっか~♡』


 う、うーん……! ご褒美のちゅーは、さっき貰ったし!!! これ以上何か貰ったら、私本当に死んじゃうんで! ダメですダメダメッ!! もう貰えません!!!


『……ちゅ~だけで、満足なの?』

「エッッッッッッッッ」

『満足、出来ないわよね♡』

「出来ま…………ッスゥゥゥ~~~~…………」

「あーちゃん! 駄目よ、堪えるのよ!! 今度こそ本当に死んでしまうわ!!! でもちょっとその光景が見てみたいですわ!!!!」

「大丈夫。きっと天国」


 悪魔と悪魔が私の両サイドで囁いてる!!! これはもう、もう……!!


「出来ませんッッッッ!!!! ご褒美欲しいです!!!!」

『じゃあ~~~…………はいっ♡ ワタシの着てるヤツ~♡ オ・ソ・ロ・イ♡』

「グォ――――」

『【★★★魔神バビロンのロリィタドレス+15】、大事にするのよ~? 絶対だからね~?』


 貰った。後で嗅ぐ。吸う。バビロニウム摂取します。



【★★★魔神バビロンのロリィタドレス+15】(極限・アルティメット・体1・空きスロットなし【●】)

・【呪】当然、これ以外着ないわよね?

・【呪】死んだらレベルを1つダウン、当たり前でしょ♡

・【呪】アバター? 許さないわよ~♡

・【呪】ワタシの寵愛無しに着れると思ってるのかしら?

・【呪】カルマ値、マイナス999を下回ってるのは必須よ!

・【呪】HPを1にするわよ♡

・HP消費系は全てMP消費にするわよ♡ 例外なくね

・HP回復はMP回復にするわね♡

・聖属性? 効くはずないでしょ?

・【魔神バビロンカード】MP10倍

 ――ワタシがゴシック要素♡ だからこれはゴスロリ、よね? by愛しのバビロン

 解除不可・強化可能・装備登録者【リンネ】・重量1.0kg



「着れない…………!?」

『んーーー……♡ もうちょっと、かしらね~?』


 着用、出来ない……?! カルマ値が【魔神崇拝・最狂】で-400されて、元が-500だから-900!!! うわああああ-100足りないよう、足りないようバビロンちゃん……!! 着たい、着たい……! 吸うしか出来ないだけでも満足だけど、着たいでしょ?!


「そ、それ、どんな効果ですの……? 今、わたくし何も見えなかったのですけど……?」

「みえ、なかった……」

『内緒よ~♡ ね? リンネ、内緒よね?』

「内緒です!!!!!!!!」

『ね~!』


 情報画面を開いてたからペルちゃん達にガッツリ効果を見られてると思ったのに、見えなかった……? もしかして、バビロンちゃんに強力な情報プロテクトとか掛けてもらってる? でも、着れないしなぁ……。着たい……。でもペルちゃんのアバター、着れなくなっちゃう……。つらい……!


『ねえねえ、もう教会の1個や2個ぐらい、怖くない……でしょ?』

「えっ」

『壊したら……着れるかも……?』

「アーーーー教会壊したくなってきちゃったなァーーーーーどの教会かなァーーーーー」

「ちょ、ちょっと!? あーちゃん、それ絶対、異端審問官に追い回されることになりますわよ?!」

「どうせ死霊術師ってバレたら、絶対追い回されるでしょ?! ちょっと時期が早くなるだけだから! 良いでしょ?! バビロンちゃん様、どの教会?! どの教会ですかぁ!?」


 教会ぶっ壊したら行けるんですか?! 着れるんですかぁ?! 壊す壊す~~~! どれにすればいいですかぁ?!


『ん~~~♡ これっ♡』

「…………ギルドハウスの裏のヤツじゃないですか、やだぁ~~~!!! 殺るか」

「大丈夫。どうせ腐敗してる連中、今度こそ全滅。残党狩り」

「ああぁ~……。海賊と、共謀していた疑惑の……。監視の為に、ここにギルドハウスを構えたのでしたわねぇ……」

『じゃ、ワタシは帰るわね~! ばいばぁ~い…………』


 これか、あ、ああああ!! バビロンちゃんが帰っちゃった、帰っちゃった……。あああああ…………。辛い。辛い。辛い。辛い……。しんどい……。キツイ……。虚無……。虚無……。


「あーちゃんが、電池切れですわ……」

「リンネ~~~~。教会~~~。壊す~~~~」

「ここ、もしかしてさっきの話のローレライが眠る教会じゃありませんこと? 壊したら、目覚めそうですわね……?」

「え! 会いたいじゃん、余計に壊したくなってきた! やろやろ!」


 虚無ってる場合じゃないな! セイレーンことローレライが眠る教会、ぶっ壊しに行こうぜ!!! レーナちゃん曰く腐敗してる神官の残党だって言うんだ、殺っちゃっても問題ないっしょ! バビロンちゃんに貰ったドレスを着る糧になれ!


「――――あ」

『――――わうっ……!? わぅ、わぅうう……!?』

『( ゜д゜)……』

「……あ。此方は、魔神様にお会いできた幸せで、途中から意識が飛んでおりました……名前を、呼んで頂けて、はぁ……っ」

「皆バビロンちゃん様大好きだからね。しょうがないね……ふ、ふ、ふ……!」


 バビロンちゃんが帰った途端、皆意識を取り戻したね? うんうん、尊すぎて意識を失うの、わかるわぁ……!!!


『――報酬を受け取ってください』


 ああ。忘れてたわ。バビロンちゃんと会えて幸せ過ぎてそれどころじゃなかったわ~。どれ、んじゃあここは……。誰に開けてもらおう、この黒い宝箱? 今回MVPの活躍をした人多すぎるんだよね!


「黒い宝箱ですわね……」

「黒、初めて見る」

「誰が開ける? 皆活躍したし、皆で開ける?」

「どんちゃんが最初に皆を守らなかったら全滅でしたわ! どんちゃんに開けて貰ってはどうかしら?」

「ちーちゃんは、避けたかも。でも本体が死んでたと思う。ね、本体」

「はい。本体です。死んでました」

「どん太さん、痛そうでした……。守ってくれて、ありがとうございましたっ!」

『(`・ω・)ゞ』

「此方も、体を動かしきれたか疑問が残ります。どん太殿には感謝しかありませぬ」

『わ、わう? わう?! (え、僕? 僕そんなに、頑張ってないよ?!)』


 皆、どん太が一番活躍したっていうんだから、どん太に開けてもらおうか! この黒い宝箱、中身はなんだろうね? じゃあどん太くん、ぱんぱかぱーんをして頂戴!


「どん太、ぱんぱかぱーんって開けちゃいな」

「開けてよくってよ!」

「開けちゃえ~」

『わんっ!! わんわぅわぉ~~~ん!!!』


 わんわぅわぉ~~~ん!!! で、ぱんぱかぱーーーんの真似をしたのね! それ、可愛いじゃん……! いいねどん太、多芸になってきたじゃないの! 前足で上手に箱を開けられるようにもなったのね。偉い!


「え、可愛いっ……!」

「可愛かった……中身は?」

「中身、は~……うーん?」


 中身は、うーん……? なんじゃこりゃ……。


『【?部品】を獲得しました』

『【?部品】を獲得しました』

『【?本】を獲得しました』

『くぅ~ん……(食べ物ないよ~……)』


 部品、部品、本! 以上!! 食べ物がないねどん太、落ち込むな落ち込むな……。帰ったらいっぱい食べていいから……。


「帰って鑑定しないとわからないね、これは」

「じゃあ、帰りましょうっか」

「帰ろ~」

『くぅ~~~ん…………(お腹減ったよう~)』

「此方も……あのっ……」

「帰ったらハッゲさんに、いっぱいご飯作ってもらいましょうねっ!」

『(*´ω`*)』


 それじゃ、これ以上特に何もないみたいだし、帰ろうっか。どん太と姫千代さんは、とりあえずハッゲさんのお世話になる必要があるみたいですねぇ……。


「教会から出て、ギルドポータルを開きますわね」

「は~い」

「んっ!!」


 帰りはギルドポータル! 帰り道でPKに襲われる心配がない、良いシステムだわぁ~……。




◆ ギルドハウス【ロビー】 ◆




「はむっっっ……!!! んっ……おかわりっっっ!!!!」

『わうわう!!! (おかわり!!!)』

「おいおい、さっき試しで作った巨大ドラゴンカツ、もう無くなるぜ。マジかよ」


 凄いよ。どん太と千代ちゃんのお腹の中に、新聞を広げた時の面積ぐらいはある肉厚な巨大ドラゴンカツが、吸い込まれてく……。ちなみに千代ちゃんの紹介は既に済ませてある。最初は馴染めるか心配だったけど、ハッゲさんが料理を作りたてなのを見て目を輝かせてて、餌付けされた瞬間からもうみんなと仲良しな感じになれましたね。

 え、私? 私は小さめのドラゴンカツサンドが2個で餌付けされて満足ですけど? あっちのドカ食いチャンピオンと、ドカ食い戦巫女姫妖狐と比べないで貰っていいですか?


「ハッゲ、教会潰しに行く。来る?」

「行かねえよ。ってかマジでやるのか?」

「やる」

「お~? やる気だ~」

「なんや、あの教会やっぱ潰すんかいな! せやから最初っからぶっ殺したほうがええって言うたやろ」

「転生、転職に必要だって、思ってたから。一応出来るし……でももう、要らない」

「ほ~ん。要らへんっちゅうことは、なんや代替になる要素でも見つけたんけ」


 ちなみに今ロビーには、ハッゲさん、お昼寝さん、レイジさんが居る。レイジさんは仕事が午前中の途中で終わったらしくって、早く上がれたから早く来たらしい。現在時刻は11時50分、あのダンジョンに入った時で11時過ぎぐらいだったから、ちょうどお昼前ぐらいに上がってきた感じになった。


「むぐっ…………ん、ぐっ……! レイジ殿! レイジ殿は此方が稽古をつけます故! お任せくだされ!」

「おーおー飯ばっかは一人前以上食うとるけどな、ほんまに強いんやろな?」

「レイジ、100回は軽く死ぬ」

「ほんまかいな……」


 そうですよねレイジさん、あのドカ食い妖狐がまさかとんでもない強さのお方だとは、夢にも思いませんよね……。でも本当に強いんで、覚悟しておいた方が良いですよ……。


「魔術は、私が居ればいいですよねっ!」

「え、あ、そう、だね?」

「ねっ!!!」

「そうだね? うんうん、僕もそう思うよ……?」


 リアちゃんがすっごいお昼寝さんに圧を掛けてる……。そういえば実はリアちゃん、異端審問官に狙われてるんだっけ。教会、無い方が良いよね確かにね。それにギルドの魔術師チームのお姉さま達は、みんなリアちゃんから魔術を教われば問題なさそうだし、どうしても転職したいなら隣街まで行けばいいし、あ~……。教会、確かにこのギルドで必要としてる人居ない……かも。


「俺も転職する必要ないしな。それにむしろこの街で転職するような方向性の決まってない奴は、ジード辺りで何が合うのか試した方がいい。初心者が背伸びしてここを目指し過ぎて、自分のやりたいことが見つからなくなってちゃ意味がねえ。転生の時に何か出来るんだろ? それがわかってないなら尚更必要ねえな」

「ハッゲ、珍しくガチっぽいこと言ってるねぇ~……」

「転生? 転生でなんや出来るんけ」

「私の影を踏んで見てください、レイジさん」

「あ? ハゲ?」

「俺じゃねえ、リンネちゃんの影だ。か、げ!」

「わーっとるわ! ちょいボケただけ――――」


 あ、レイジさんもバビロンちゃんに今話しかけられてるわ、これ……。


「今来たら、クリエイト権の要らん、特殊転生のチャンスやみたいな、そんな内容やった! ちょ、ちょい、どないしよ!」

「レイジ、60になったとこだっけ~?」

「せや、剣術の心得までは取って、アジリティとテクニックが100上がるのが、刀振り続けて手に入ってたんやけど……消えてまうやろか?」

「僕から言わせてもらうとね、それが消えたとしてもやるだけの価値がある転生だったよ」

「ほんまか?! お昼寝達も、その、殺ったんか??!」


 レイジさん、レベル60もあっちゃ流石にやる決心がつかないよねぇ~~……!! でも大丈夫、レベル60ってあっという間に過ぎるから! むしろこっちは80から先が上がらなくて困ってるよ……!


「でも、なんやこれ、なんで掲示板で拡散されてないんやこんな情報」

「転生が本来クリエイト権要るし、それにこれじゃアバターも名前も変えられない、ただ天使を殺しに行くだけの転生だしねぇ~。転生時にガイドの天使を殺したら~とか、絶対嘘情報としか思われなくな~い?」

「た、確かに、レベル1になってやんのざまぁ~~~!!! って引っ掛けようとしてる書き込みにしか見えへんな……」

「あと、多分、バビロンちゃんとの受け答え……。間違えると、大変なことになる……と、思う」

「げっっっ!!! ワイ、アカンとちゃうか……?」

「就活と思えば行けるよ~ごーごー」

「ほんまかいな……。でも、まあ今のこの状態、正直伸び悩みっちゅうか……」

「レイジ殿! 刀、刀を扱えるように願うとよろしいかと!! はぐっっ……!! んっ……!」

「食いながら喋んなや!!! どっちかにせえ!!!」


 レイジさん、ボケに回りたいようなオーラを感じるのに、圧倒的ツッコミ役だぁ……。周りが濃すぎる……!


「ええい! 行ってくるわ! なるようになれぇ!」

「てらぁ~」

「おう、行って来い。そうだリンネちゃん、お昼ごはんは良いのかい?」

「え? あ、そうでしたね……!」

「ゲーム内で食べるとさ、忘れるよね~。ハッゲの料理美味しいし、本当に忘れがちになる。バーチャルダイエットとか出来そうじゃない? バーチャルでどれだけ食べても太らないから、こっちで食べまくりーって!」

「それな、現実でもドカ食いするようになって太るらしいぞ。気をつけた方がいい」

『わうぅん!!! (おかわりおかわり! おいしいおいしい!!!)』

「おかわりを、頂きとう御座います!!」


 う~ん、レイジさんも転職に行ったし、ペルちゃんもご飯行ってるし、教会ぶっ潰すのは後にしようか! どん太と千代ちゃん、食べるのは程々にしなさいね……?


「じゃあ、行ってきます……。また後で、教会潰しに来ます……」

「いってら~。待ってるね~」

『わんっっ! (いってらっしゃい!)』

「おや、どこぞに行かれるのですか?」

「ああ、千代さんはNPCだったな。リンネちゃんや俺達はな、もう一つの別の世界を行き来しててな。もう一つの世界の体が腹が減ったり異常を感じたりすると戻らなきゃならないんだ」

「なるほど……。そのようなものがある、と認識しておきまする! ではおかわりを!」

「お、おう……」


 ハッゲさんのわかりやすい解説虚しく、千代ちゃんはご飯のほうが大事でした……。哀れ……。さて、お昼ごはんは何にしようかな……? 一応、出来合いのものを温めれば良いだけなんだけど、どれから食べようかなーって、あるじゃない? 

 でも…………。とんかつだけは、ちょっと今はやめておこうかな。どん太達が食べてるあの量を見てるだけでちょっと、胸焼けが……!


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