トライ・アンド・エラー
◆ ~
ドラゴン狩りはまあ、余裕だった。ミッチェルが壁で防いで、低体温からフルボッコ。おわり。そんなことより、リンネちゃん。どこに居るのかなって、フレンドの位置情報を調べたらバビロニクスの居住エリアの一角にある修練場に居たから覗いてみたら、とりあえず『何が起きているか理解できなかった』が第一印象。ちょっと一呼吸置いて覗き直して、ようやくなんか魔術の撃ち合いをしてるってまではわかった。そしてリンネちゃんのリアフレのペルちゃんが一言。
『あの状態は完全にスイッチが入ってるから、そっとしておいた方がいいですわ』
本当はリンネちゃんと遊びたかったけど、本気の表情で凄く真剣に模擬戦やってたから、今日は我慢することにした。とりあえずペルちゃんがメールを送ったけど、既読すら付かないから届いたのに気がついてないと思う。
というわけで、お昼寝情報の方を確認しに行くことにしたよ。えっとね、なんでも氷の宮殿には【真・氷の宮殿】っていう隠しダンジョンがあって、そのフラグアイテムが私達がいつぞやのクエストクリアで貰った絵本なんじゃないかって。一応さっき現地を確認した時は真・氷の宮殿のポータルが見つからなかったけど、これを読んでからはどうだろう? わくわく。
「あれではなくって?」
「おおん?」
「お~……」
「んーっ!」
お~~~ある~~~。本当にこの絵本がフラグアイテムなんだ~。一応どっちも読んだエリスと、どっちも読んでないハッゲ、騎士の方だけ読んだペルちゃん、姫君だけ読んだ私で試したけど……ハッゲ以外はポータルが見える。まあ、フラグ持ちが一人パーティにいればいいみたいだから、ハッゲは読まなくてもいいよ。ハゲてるし。
「……エリス、腰。大丈夫?」
「VDダイブシステムに寝続けられる程度には~……。こっちには影響ないから大丈夫~」
「仕事は大丈夫なのか?」
「うん~問題ないよ~」
「そっか。早くよくなるといいけどな!」
「んだぁねぇ~」
「癖になると大変だと聞きますわ……お大事になさって?」
「気をつけてね」
「はぁい……」
とりあえず、レイジとお昼寝は行っちゃったみたいだし、他のギルメンにもこれで行けるようになるって告知出してあげよっ。報酬美味しいみたいだし、その分難易度高いっぽいけど……。
えーっと、まずは全員生存で中間まで行かないとやりなおし、リトライは3回までで4回目が失敗するとその日は退場。突入時は二階から奇襲が推奨で、中間まではゴリ押しが効く。ボス戦は闇・不死が弱点で、最後のトドメをフリオニール……あの赤い鎧のエモーション騎士と同一人物らしい人に持っていかれると、MVP報酬消滅するみたいだから、流れを無視してでもなんとしてもこっちがMVP掻っ攫わないと駄目なんだっけ。ボス戦の生存人数でも報酬が変わるみたいだから、頑張らないと。
「それでは、行きますわよ!」
「んーーっ! おっけえ~」
「はぁ~い!」
「おう! やるか!」
それじゃ、頑張っていってみよ~。時間はかけてもいいらしいから、確実につぶしていこ~~。頑張るぞ~~お~~~っ。
◆ ◆ ◆
――――今日はもう頑張らなくていいかな~って……。
「……なんでしょう、わたくし、あの赤い鎧のあの方に謝りたくなって参りましたわ」
「ん~~……。ギルドに居るちびコルダちゃんって、あの子だったんだねえ~~……」
「今どんな思いであのちびペット見てんだよ……。感情ぐちゃぐちゃになりそうだぜ……」
「でも、乗り越えて今、リンネちゃんと一緒に居る。きっと大丈夫だから、一緒に居る」
「そうですわね……。そうでなかったら、一人忽然と姿を消していますものね……」
「はぁ~~……でも悲しすぎる~……」
「だなぁ……」
「帰ろ。Sランク、貰った。分配タイム」
結局、ボス戦でリトライ権行使して3回やり直して、2時間近くかかってSランクでクリア出来たけど……。アースクエイク後の建物崩壊でカヨコちゃんが絶対下敷きになって瀕死になっちゃう件の対策、それがとにかく大変だった……。アースクエイクを受けると、ランク2の行動妨害状態異常で足止めされるから、エリスとハッゲが絶対止まって崩壊に巻き込まれるとダメージを受けるし、ペルちゃんは長期戦化するとMP枯渇するし、私もMP枯渇から打つ手無しになりがちで大変だった。
ラストチャンスで、アースクエイク発動前に全員覚醒スキルを使ってアースクエイク妨害してそのまま倒せたから良かったけど、倒しきれなかったら絶対ヤバかった~……。挑戦は明日に持ち越しになるところだった。でもこれで、無事全員レベル92まで上がった。わ~い。
「報酬分配に行きましょう。帰りのポータルを出しますわね」
「おう」
「エリスちゃん、もしかしたらリアルで変な格好してるかも……。ちょ、ちょっと腰が痛い気がする……!」
「エリス、腰がへっぽこ。一旦確認すべき」
「戻ったら、戻ったら一回ちょーっとだけ……!」
「あらあら……! じゃあ、ササッと帰りましょ」
エリスの腰のレベルも上がって欲しい。このゲームがオープンしてから、エリスはギックリ腰3回目。もしかしてギックリ腰じゃなくって、ヘルニアとかだったりして。絶対一回病院に行った方がいい。お昼寝に頼んで強制送還して貰お。
◆ ◆ ◆
とりあえずエリスが痛み止めを飲んで体勢を直して戻ってきたから、【真・氷の宮殿報酬選択箱・8個】、これはハッゲとエリスが【北斗七星セット】【厳冬の暖かな慈愛セット】を交換して、残りの箱はアクセのアプグレにしよう~って話で2個交換したら、どっちも3個・3個でちゃったから4箱余り。残ってる箱をどうしようって思ったけど、私が【★射手の魔導弩】と【武器用確率アップグレードキット【3個】】を交換して、ペルちゃんが【★蟹の超硬盾】と【【武器用確率アップグレードキット【3個】】を交換。これで均等分配でいいかなーってことで。
「わたくし、3個とも全部失敗でしたわーーー!?」
『【★射手の魔導弩】のアップグレードに挑戦します……………………成功しました!!』
『【★★射抜くサジタリウス】を獲得しました!!!』
ごめんねペルちゃん、成功した。
「ペルちゃん、成功した。2個余ってるから、貸して」
「本当ですの!? 成功したら嬉しいですわねえ~……」
ん、とりあえずペルちゃんから【★蟹の超硬盾】を借りて、余ってるアプグレキットで成功したら、嬉しいね……? でもペルちゃん、これ詳細情報にね【成功率5%】って書いてある。多分無理。
『【★蟹の超硬盾】のアップグレードに挑戦します……………………失敗しました』
『【★蟹の超硬盾】のアップグレードに挑戦します……………………成功しました!!』
『【★★圧倒するキャンサー】を獲得しました!!!』
「あ」
「え?!」
「おいおい、その反応成功しただろ? それそんなに成功するのかよ?」
「5ぱー」
「5パーセントだぁ!?」
「はい」
「え、え?! 良いんですの!? 代金とか」
「余り物だし、使い道ないし、交換不可だし。オッケー」
「ありがたいですわ~~!! これは、大盾ですのね~……PvPイベント後に売り出しますわ」
「PvP後っていうのがペルちゃんらしい」
「これを使ってるプレイヤーに負けたら嫌ですもの!!」
「なるほどな」
「いいねえ~。あ、エリスちゃんのこのセットも良いよぉ~? バフ系の効果時間と効果量が伸びるとか、踊りスキルにも効果量が適用されるわ~」
「いいねえ」
「いいですわね!」
「ん、正直エリスが居なかったらあのダンジョンの長期戦無理だった。凄く助かった」
「んっふっふ~。お役に立てて光栄で~すっ」
「やはり、高難易度ダンジョンはバッファーとタンカーですわね~」
「タンクの真似事ぐらいしか出来なくてすまんな!」
「いやぁ~ハッゲも立派にタンクやってたよ~。アタッカーもタンカーも出来るのずるくな~い?」
――――反省会に移る流れなんだけど、先に開けて良い?
「開けたいんだけど。あの箱」
「あっ!! そうでしたわね!!」
「おう! 開けようぜ!」
「レーナちゃん今の強運で開けちゃって~~」
「んっ! 開ける!」
よし、開けちゃお。
『07XB785Yが【◆ロストアイテムランダム箱(真・氷の宮殿)】を開封します!』
『【◆ サリーちゃんの秘密のレシピ♡(毒・爆薬・酸・特別料理)】を入手しました』
うわ。絶対ヤバいのでた。
「お昼寝行き」
「これはひどい」
「サリーちゃんって誰だ……」
「ほら、城門を破壊した、最初の……」
「「ああ~~……」」
「お昼寝さん行きで賛成ですわ」
「ちなみにお昼寝は料理得意だよ~」
「「「!?」」」
お昼寝が料理、得意…………? イメージが、無い……無い…………ね?
◆ ◆ ◆
『来るかどん太ァ!!! 俺様を止めてみろぉおおおおおおお!!!!!!!』
『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』
――――まだ、やってるんですけど。もう3時間、いやドラゴン狩り前からだからえっと……。18時ぐらいからずっと? もう22時回りそうだよ……?
『汝等、厳冬の――』
「氷の衣で包み給う!!」
「行けっ!!!」
『危険、猫爆弾』
『グスタフ!!! 猫の狙いがこっちじゃない! 狙いはお前だ!!!』
『なんだァ!!!???』
『魔狼、接近!』
『汝等を火炙りの刑に処す』
『蹴散らしてやらぁあああ!!!!』
しかも、攻防がハイレベル過ぎて、何が起きてるのか追いきれない……。目が回る……。向こうの魔術師の詠唱? を聞いた時点で属性対応のバリアを貼って、リアちゃんが足元に大量に召喚してる猫を隙を見て走らせて、えーっと――――わかんない。
「破ァ!!!!」
『魔狼、影に剣士!』
『まとめて相手してやら――』
『無理だグスタフ!!!!!』
『ァ――――』
あ、大斧持ちの大男、凍った。走ってきた炎の猫ちゃん、あれが凍らせた? 炎なのに、水属性なの? アレは酷い。初見殺しもいいところ。
「凍った大斧は無視!!」
「猫ちゃんとつげーーーきっ!!!」
『っちぃ!! 味方ごと凍結で巻き込んだか!! だがこれで3対2だ――』
『ッ!! 健在!! 魔狼、狙撃!』
『やめなさいスージー!!! 狙われている!!』
『ッ!?』
え、向こうの撃った弾丸、跳ね返ってる……? 途中で大きく軌道がズレた、なんで……?
『カウンターミサイル!! レオン!!』
『円弧斬!!!』
「――――勝負ッ!!!」
『っく!! 来たか……!! 魔狼が抜ける!!!』
ちよちよ、早い、瞬間移動スキルじゃない。一気に距離を詰めるスキル? 瞬間移動のほうが早いのに、使わない……。あの魔術師の周りに浮いてる文字が入った球体、アレを警戒してる? あ、リアちゃんも同じような文字を咥えた猫出してる……。お互い、カウンター系のトラップスキルを出してる? う~~~……観戦モードじゃ全然わからない~~。
『!!! マスターリーダー不在!!!』
『見失った!? 誰かに潜っている! 警戒を!』
『ガウアアアアア!!!』
『彷徨え狼狽えよ永遠の迷宮!! ラビリンスウォール!!』
『魔狼隔離! 好機!!』
『カウンターミサイルは置かれていないわ、スージー!!』
『――――』
『スージー!?』
『猫が!! 居―――』
え、急に崩れ始めた。でもなんで、何が原因で倒れたの? どんちゃんが出現した壁の中に隔離されてるからどんちゃんじゃない、リンネちゃんがちよちよの影に潜ってるらしいけど、有効打になる攻撃はなさそう、だとするとリアちゃんか千代ちゃんだけど、千代ちゃんはレオンと剣を交えてる最中――――あ、レオンがやられた。足元から無数の槍が飛び出てきた。
『……あ……ああ。は、はは……! この猫……です、か――――』
「勝った!! グスタフさんにトドメ!」
「はぁああ!!!!」
猫……。猫!? あ、本当だ!! すっごい大きい猫が、透明な猫が居る! 今一瞬だけど動いた時に見えた。リアちゃんが突撃させた小さい猫と、どん太と千代ちゃんに気が取られたのと、リンネちゃんが影に潜んで探してた隙に出されてたんだー。なるほど~~……。もうね、攻防がハイレベル過ぎて私の頭だけじゃ何が起きてるのかさっぱりわからない。
『見事です。これで勝率は半々と言ったところですか』
「ありがとうございました。今回は上手く行きました!」
『突撃のタイミングに合わせて、決め手になる巨大透明猫での斬撃攻撃。マスターリーダーが居なくなれば自然と注意は足元に向く。頭上まで気が回らなかった。やるな」
『後から属性の変わる猫が強すぎる!! だが、蹴散らせねえパワー不足が悪いな!! 次は慎重にやっか!!』
『どん太君で真っ向勝負をすると見せかけて、複数の死角から攻撃してきたのは良い発想でした。一瞬出来た死角で影に潜っていましたか』
「そうです。リアちゃんのぶりにゃーどくらすたーが弾けたタイミング、あの一瞬できた死角で潜りました」
『全く気が付かなかった。天才的タイミングだった。千代さんの猛攻を凌ぐのに精一杯では、あのランスオブヴラドは避けられん』
『最初の撃ち合いの高速化も、段々と上回られることが多くなりましたね。それで、どうですかリアさん。初級魔術も使い方次第、でしょう?』
「はいっ!! 認識を改めました! とてもよいものですね! 勉強になりますっ」
『全く、アレだけ大量に猫が出て待機してたら、どれが本命の猫かさっぱりわからん。本当に生前に敵として会わなくて良かったな!!!』
『これで籠城されて一方的に垂れ流されたら、攻めようがありませんね。それこそ、困った時の困ったちゃんの出番しかありませんか』
『サリーだなぁ。誰を先にするか、選ぶのは可哀想だがー……』
『リーダー、何人なら蘇生を頼めそうなんだ?』
『(´-`).。oO』
あ。会話について行けなくてぼーっとしてた。ん~、リンネちゃんこの様子だとまだやりそう。遊びたいけど、また今度。代表に選ばれたって言ってたし、本気なんだから邪魔しないでおこっ! むしろ完成度が高くなったリンネちゃん達のPvPが楽しみ。応援しよっ! 私も頑張らなきゃ、ハッゲに模擬戦たのも~。魔神殿の方でやろうかな。じゃ、またね、リンネちゃん。頑張れ~~……っ!!
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