グッドコミュニケーション……?
◆ リンネ、窮地の草原 ◆
まず、どん太。モンスターを狩ってこいって言ったのに思いっきりプレイヤーを狩って来た、それも相手はパーティらしい。どん太にヘイトが向いているであろう赤点がマップに3個、プレイヤーの近くにいた点がヘイト向けて来てるんだから間違いないと思う。とにかくどん太を離さないと……別にどん太を見殺しでも良いんだけど、お馬鹿っぽいもふもふ度合いが結構可愛くて、ほんのちょっと! ほんのちょっぴり愛着がわいちゃったんだもん!
「どん太戻ってこい、全力! ダッシュダッシュ!!」
こうなったらやれるだけやってみるしかない。まず、使役アンデッドには色々と命令が出来る。結構離れているどん太にこの命令が通ると良いんだけど……。来た、来てる! こっちに戻ってきてる! この距離で聞こえたか! 偉い!
『わうわうわう~~~!!!』
「わうわうわう~~~じゃないんだよ、お馬鹿!! プレイヤーキルしてどうするのお前!」
『きゅぅぅぅぅん……』
どうしようもないお馬鹿だけど、プレイヤーらしき3人の追跡は振り切った。見つからないでこのままやり過ごせたら…………ここでやり過ごしてどうする? 次がない。それにこいつ、他のウルフと違ってなんか毛の色が違う。背中が灰色お腹が真っ白の通常ウルフと違って、どん太は全体が真っ黒、お腹がちょっぴり白い。あんよもちょっと白い。靴下履いてるみたい。あーこれ絶対バレる。他と見た目の違うウルフに襲われたってバレる。私の攻撃と思われる。それは絶対不味い。
『どん太(Lv.MAX)が強化可能です。進化先を選んでください』
『わうっ!!』
「死んでるくせに進化するのか貴様。ああ、アンデッドも上位のやつとか居るし進化するかぁ……。それにしてもいつの間にレベル上限に……。メリアーヌとか言うのを倒した時か、ログ見てなかったーーーー」
『わふわふっ』
こっちはお前の暴走で頭を悩ませてるっていうのに、進化だぁ?! どこまでもどこまでも能天気な狼だなお前は本当にもう――――いや、いやいやいや? これはチャンスでは?
「……進化先を選べるってことは、お前の見た目も大きく変わるかな」
『わう~?』
襲ったウルフと別の見た目になってれば、バレないのでは? 進化で大きく見た目が変われば、行ける……ゴリ押せる。うちのじゃないですね~~~って、通せる!!! よその子ですねー戦法で行く!
「アンデッド強化、このスキルね……。どん太、進化先は私が選ぶ。お前の意見は無視するから」
『わうぅぅ?!』
「当たり前でしょ馬鹿! モンスター狩れって言ったのにプレイヤー狩るお馬鹿なんだから文句を言わない!」
『ぐぅぅぅ~~~……』
さあ、どん太の見た目大きく変わる選択肢来い、どん太のゴリ押しプランが通るの来い……!
『【スカルウルフ】、不死属性・死霊系・中型。肉と皮が無い分の耐久力減少が――――』
「却下。お前からもふもふが消滅したら無価値」
『わうぅぅ?!?!』
この選択肢は無し。スカルウルフは魔法タイプに転向するみたいだけど、どん太からもふもふがなくなったら本気で価値がなくなる。こいつの価値はお馬鹿なところともっふもふなところ。
それに今ならまだウルフしか居ないからビーストテイマーで押し通せる。スカルウルフにしたら私がネクロマンサーって一発でバレるし、絶対ない。(多分)バビロンちゃんに職業とかこの指輪とかを秘匿して貰ってる状態だから、バレないほうが良いはず。堂々と『死霊術師やってまーす』とか言って万が一にでも指名手配犯とかになったらまともに遊べない。秘匿すべき。
『【ブラッドウルフ】、闇属性・動物系・中型。血に飢えた狼。体毛は紅く染まり、死臭を漂わせて――』
「あ、臭そう。却下ね」
『わうぅぅぅぅぅ?!?!』
このブラッドウルフも却下。体毛も紅くなってスピードタイプのアタッカーになるみたいだけど、死臭が漂って……ってことは、臭い。死臭とか格好良く説明されてる腐臭、腐肉の臭いってことでしょ? 絶対嫌だ。私はネクロマンサーだけど、出来るだけ綺麗な死体で揃えたい。だっていつも汚いゾンビとかに囲まれてたら毎日のモチベーション保たないもん。却下却下。
『【レッサー・ワーウルフ】、闇属性・人間系・中型。人化出来る能力を得たウルフ――――』
「うるせえ却下だ」
『ぎゃうぅぅ……』
説明不要、却下。間違ってどん太がイケメンにでもなったら解釈違い。勝手に人化するの嫌いです。
『【レッサー・ワーグ】、不死属性・悪魔系・大型。強く、賢く、素早い。古の巨大狼族……には至らない、まだまだ駆け出しの魔狼』
へぇ~……。でっかくなるんだ。これ。ほう。ほう。よくない?
「…………どん太、これになっときな」
『わ、わう……』
『どん太(Lv.MAX)が進化します…………。進化素材要求――魔神バビロンによって支払われました――進化を開始します……』
え゛っ゛。 進化素材とか必要だったの、見てなかった! やば、本当だ……。☆2魔晶石10個とか、なんか色々進化素材書いてあった!! バ、バビロンちゃんに、払って貰っちゃったよ、おいおいおいおい……。
『――――今回は、特別よ~? by愛しのバビロン♡』
ありがとうございます、ありがとうございますバビロン様、ありがとうございます……!! はっ、はっ、しゅき!!!
『どん太(Lv.MAX)が☆1ウルフから【レッサー・ワーグ、どん太(Lv,1)】に進化しました』
『どん太がスキル【二段掌】を習得しました』
『その他スキルが複数セットされました』
『一部ステータスが大きく上昇しました』
おお、おお! どん太、こんなに大きくなって……。真っ黒もふもふ、真っ黒もふもふ……! いいな、ちょい、触らせてみ? えい! 飛び込んじゃう……わぁぁぁ~……めっちゃもっふもふだぁ~……最高これぇ~……!
『わぅう! わうぅぅ~~(腹減った! 強くなった! 強くなった! ありがとう! 腹減った!)』
「…………」
うわ……。そういえば、レッサー・ワーグって賢いって書いてあったわ。どん太が何考えてるのか、ぼんやりわかるようになったっていうか、言葉をある程度理解して伝えてくるようになったっていうか……。
そもそも第一声が『腹減った』ですか、どん太よ……。なんていうか、どん太らしいわ……。
「でもかなり大きくなったし。全部真っ黒になったし? これで襲ったのがお前だって特定されなくなったね?」
『わぅ~~……(ごめんなさい、ごめんなさい、腹減った)』
「よしよし、とりあえず向こうが武器を構えてこない限りプレイヤーを無闇矢鱈に襲わないように。良いね?」
『わうぅ!! (わかった! 腹減った!)』
「……街に着いたら何か食べさせるから、我慢しといて」
『わうぅ!! (わかった! 腹減った! 我慢!)』
どんだけ腹減ってんのこいつ。マジで。
◆ リンネ、プレイヤーに遭遇する ◆
「――――こんにちは。こんばんはかな? 初めまして、僕はジョンスって言います。その感じだと初心者さん? この辺一人で歩くのは危ないですよ」
街を目指してたら、出会いました。プレイヤーに。ターゲットしてみると『ジョンス(プレイヤー)』って頭の上に表示されるし、間違いなくプレイヤー。そしてこいつ、さっき殺しちゃったメリアーヌって奴と一緒に居た3人組っぽい!! 前衛の盾持ちソードマン(これがジョンス)、大剣持ちソードマン、弓使いって感じだから……マジックアタッカーのメリアーヌが欠けてる感がバシバシ伝わってくる。
「……っす、気にしな……ださ……い……」
「え? 何か言いました?」
「……ぇ、別に……」
「そうそう、それで! この辺りにレアなウルフが出て! すっごい危ないんですよ、僕たちは今から撤退しようと思ってまして」
キラッキラのイケメンソードマン、ジョンスが私にこう、ガツガツ寄ってくる。すっごい、どうしよう、もうやばい、どうしよう、そんなに近寄らないで欲しい。こっちを見ないで話して欲しい。
どうせ私のことを奇異の目で見てる、うわーリアルモジュールアバターだって~とか思ってる。そんなことを考え出すと気分が悪くなってくる。やっぱり、この手のオンラインゲームやっぱり向いてないかもしれない……。見られるのが、特に男の人に見られるのが嫌なのにリアルモジュールアバターとか、致命的だった……。だめだ、もう、耐えられない。
「それで、街まで行くなら一緒にどうですか? 初心者さんが――――」
「どん太!!!」
『わうぅぅぅ~~♡ (よんだ? よんだ? 来たよ!)』
「うわあああ?!」
「で、でっけえ、なんだこのウルフ!!」
「下がって、かなり強い!!!」
『ガゥゥゥゥウウウ!!!! (あ、さっきのエモノ! 戦闘態勢だ! 殺して良い?!)』
この人達を刺激しないようにどん太を遠くに隠れさせてたけど、ずかずか寄って来るから我慢できなくてどん太を呼んじゃった。どん太をジョンスさんと私の間に置いて、ふぅ……距離が取れた。とりあえずこれでいい。これで、視界から私が外れた。これなら話せそうだわ。
「…………どん太と、一緒、行く、んで…………」
『ガゥゥゥゥウウウゥゥゥウウ…………!!!!』
「殺すな。落ち着け、私の側に居ろ。ジョンス、さん……? あまり近寄らないで、ください……気持ち、悪いんで……」
「え゛っ゛」
「あ、いや、その……。近いの、嫌い、なんで……ジョンスさんが、じゃなくて……さ、さよなら」
…………素晴らしい。我ながら素晴らしい。パーフェクトなコミュニケーションだった。こんなに知らない人と、それも一度嫌悪感を覚えた相手に対してキチンと断って、さよならの挨拶まで出来た。バレー部に入ってた時はしっかり出来てたのになあ……。中学生時代から暗くなったような、なんか高校に入ってからはすっごい悪化して……。人と話すのも嫌だし、近寄られるのも嫌になったぐらい酷かったのに! 知らない人と、いっぱい会話出来た! 私、偉い!
『きゅぅん……(殺さない? 殺さない? お腹減った!)』
「別に、誰彼構わず殺したいわけじゃないし、それに、今の会話……すっごく上手く話せてたでしょ? 完璧なコミュニケーションだわ」
『…………わう? (ええ?)』
「何? お腹減ったばっかりのお前よりもよっぽど会話になってたと思うんですけど?」
『…………きゅうぅぅん(そういうことにしておくね)』
何はともあれ、これで無事! どん太が襲撃犯だとバレずに通過出来たわけ! ジョンスさんともコミュニケーションが取れたし、うん! バッチリだわ! 距離が近い以外は初心者にも優しいタイプで悪い人って感じがしなかったし。またどこかで会ったら会話にチャレンジしてみようかな。
◆ 一方ジョンスは…… ◆
『あまり近寄らないで、ください……気持ち、悪いんで……』
美人に言われて、最も傷つく言葉かもしれない。気持ち悪いから、近寄らないで……気持ち悪い……近寄らないで……。慌てて俺のことじゃないってフォローが入ったけど、き、気持ち悪い……マジか、マジかーーー…………。
「キモいってよ」
「っぷ……! そりゃあリアルモジュールアバターの子にあんなグイグイ行ったらキモがられるって!」
「リ、リアモジュ……?!」
「気がついてなかったのか? あの美人ちゃん、リアルモジュールアバター表示だったぜ。直結厨と思われてもおかしくねえわ」
「あーあ。リンネちゃんに下半身で物事を考えるタイプの男って思われちゃったかもねー? ざーんねーん、キモジョンス!」
あんな美人で、リアルモジュールって、マジか……。そりゃあいつもの感じでフランクに近寄ったら、キモがられるわ……。大失敗、大失敗だ……。でもよく顔見えなかったんだよなあ……。
「……それにしても、あれって、未発見の職業とかなのかねえ?」
「あ、バッズもそう思った? あたしも考えてたんだよね~」
「ビーストテイマーとかかね? ミカはどう思う?」
「あたしもビーストテイマーとかだと思う。さっき襲撃して来て一撃必殺で逃げてったのがビッグウルフで、リンネちゃんが連れてたでーーーっかいウルフは情報を見るで弾かれるような強敵だったから、別口だと思う。PKじゃないと思うよ」
「ああ、それは俺も思った。あんなにデカい奴じゃなかったしな」
「あーでも、他にも連れてるかもしれないかー」
「どうだろうな……。わからん。だがあのデカいウルフなら、俺達ぐらいあっさり殺れそうだったがな。メリアーヌだけピンポイントで殺すのがよくわからんわ」
そっか…………。そうか。リンネさんって言うのか、今度あったら今日のことは謝っておこう。それに、あのどん太っていうウルフ、デカくて強そうだったなぁ……。そりゃあんな頼もしい護衛が居たら、一人で行くか……。
「リーダー! いつまでしょぼくれてんの!」
「ミカの言う通りだぜ、切り替えてけよ」
「バッズとあたしなんて、声も掛けて貰えなかったんだからね! 有象無象よ、有象無象! 興味なし!」
「……よし、メリアーヌを迎えに街に戻ろう。リンネさんにも会えるかもしれないし」
「まだ引きずってるーーー!!?」
「もう忘れろ。フラグは折れたんだ……」
「…………あ、謝るだけだから、謝るだけ……」
うーーーん、切り替えていかなきゃなぁ~~……。確かに失礼なことをしたにはしたけど、うーーーーん、うーーーーん!! キモいかあ~~~~…………。はぁ~~~…………。
◆ リンネ、ターラッシュの街にて ◆
「お、と、止まってくれ!」
「…………」
『わぅ?』
大丈夫、コミュニケーションの練習はさっきした。衛兵に話しかけられるイベントぐらい予測済みよ、私ならやれる。ここを通れる……!
「そ、そいつはえーっと、ペット……で、良いのか……?」
「そう。どん太、お手」
『わぅ? (なにそれ?)』
「右前足をここに乗せるの、やれ」
『わ、わうっ! (ひい! やります!)』
「…………でかい、ペットだな。中で暴れたりしたら、問答無用で攻撃するからな。くれぐれも注意してくれよ。それとその服を着てるってことは、異界人だな? ようこそターラッシュの街へ、お目当ての教会は大通りを真っ直ぐ行って突き当りを右だぜ」
「は? あ…………どうも」
『わうっ……』
通った、通った、取ったぁーーーー!!! そして、解禁!!! ユーザーインターフェース【フレンド】の項目、解禁!!! 真弓に連絡、真弓に連絡、真弓に連絡!!!
『――――もしもし真弓?!』
『あら、あらあらあらあら?! あーちゃん? あーちゃんね?! オーーーホッホッホ!!! 真弓でしてよーーー!!!』
繋がったーーーー…………。心細かった、しんどかった、吐きそうだった、どん太が居なかったらこのゲーム無理だった……! ありがとうどん太、短い付き合いになるだろうお前との付き合いの中で、お前が最も役に立った瞬間だったかもしれない! ありがとう、どん太!
『私、リンネ。今ターラッシュの街に居るの』
『その、私メリーさん、今貴方の後ろにいるの。みたいな報告やめてくださいませんこと?!』
『迎えに来て欲しいの。デカいわんこ、一緒。出来るだけ早く来て』
『そう! ターラッシュですのね! デカいワンコ……? ま、まあ! とにかく向かいますわ! それと、わたくしは真弓ではなくてペルセウスと呼んで下さいまし?』
『ペルちゃん』
『…………なるほど、それでいいですわ。わたくし、ペルちゃん。今あーちゃんを迎えに行きますの』
『待ってるね……待ってるから……あ、お肉……買ってきて? いっぱい』
『お、お肉? よくってよ、今すぐ向かいますわ!』
これで、真弓ことペルセウスちゃんが来てくれる……。あ、この街の入口の隅っこで大人しく待ってよ。
「どん太、ここで大人しく待ってたら、多分ご飯を持って来てくれるお姉ちゃんが来るから。一緒に待ってようね」
『わうぅう!? (待ってる! 待ってる! 腹減った!)』
ペルちゃん、早くこないかな~……。うわ……。なんか、めっちゃこっち見られてるような気がする……。目を合わせなけりゃ、なんとかなるよね。
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